列車ダイヤについて --  3ー98 2023年からのIT業界を展望する

                                      2023年1月10日  

    3ー98 2023年からのIT業界を展望する
    
  「2023年からのIT業界を展望する」ということで、GAFAなどの巨大な株式時価総額の企業を中心とする
  世界のIT業界が、大きな転換点を迎えるかもしれない状況について考察してみます。
  
  そこでまず、鉄道業界について考えてみます??
  30年位前の日本の鉄道業界は、年間売上がおよそ1,500億円位の数社の完成車製造メーカーがありました。
  現在、飛躍的に売上をのばしているのは、日立製作所の鉄道事業部門で、7,000億円近い売上があり、1兆円を目指しています。
  およそ30年前に大きな危機を迎え、海外の会社に鉄道事業を売却しようかという状況になったことが、
  大きな変革のきっかけになりました。
  国鉄の時代は、日本の鉄道業界は、毎年それなりの受注があり、一応利益もあがる状況でした。
  しかし、JRになり、JR東日本が、「重さ半分、価格半分、寿命半分」の次世代通勤電車を作るという方針を打ち出したように、
  車両のコスト削減の要求が強くなりました。
  以前は鉄道車両の車体は、炭素鋼で作られていて、一部の車両がステンレス鋼やアルミニウムで作られていました。
  ステンレスは引張り強度が強いので、薄く軽くできますが、薄くすると、バックリング(座屈)が起きて、板にシワがよります。
  これを防ぐために東急の8500系のようなコルゲーションをつけるのが一般的でした。
  しかし、1980年代に有限要素法による材料強度の解析が進んで、ほとんどコルゲーションがない車体になって、
  広く通勤電車に使われるようになりました。
  一方アルミニウムは、車体が軽くなるので、東北・上越新幹線の車両や東京メトロ(営団地下鉄)の車両に
  使われましたが、ステンレスの車両より価格が高くなるのが難点でした。
  日立製作所の笠戸事業所は、300系新幹線電車をアルミニウムで作製するなど、アルミニウムの車体の製造に
  強みがあるのですが、高価格が障害となり、通勤電車にはあまり採用されませんでした。
  そこで、鉄道事業の売却も検討される状況のなかで、品質の良いアルミニウムの車体を低価格で製造することに挑戦しました。
  ダブルスキンの部材を高水圧プレスによる押出し工法で作る技術と、アーク溶接にかわって
  FSW(Friction Stir Welding)という摩擦熱による溶接法を採用し、ダブルスキンの部材
  が強度があるので大型部材にでき溶接作業が減り、さらに溶接後の修正作業が少なくて済み、かつ溶接割れの心配もない
  高品質な溶接法を採用することで、低価格・高品質なアルミ車体が製造できるようになりました。
  それでも、JR九州以外のJRの通勤電車はほとんどステンレスなので、国内売上は伸びませんでした。
  そこで海外進出を企画し、イギリスの高速鉄道をはじめとして海外売上を伸ばしました。
  さらに、IT技術とインフラ技術の融合の強みをいかし、車両納品後の長期間のメインテナンスパッケージの受注や、
  運行管理システムや無線技術を使った次世代信号システムの受注も伸びています。
  
  今、日本のIT業界は危機的状況にあるかもしれませんが、危機こそが、次の飛躍へのきっかけになることは
  いろいろな業界でみられる現象です。
  DHLは、以前は企業間のビジネス書類の配達が主なビジネスだったのですが、ネット社会になり
  郵便葉書や手紙以上の速度で、ビジネス書類の配達量は減少しました。ところが、現在
  物流企業として、宅配便などの配達をおこなっています。
  失われた30年といわれますが、今の日本のIT業界で良い点は、サイバーエージェント社のような
  スタートアップ企業からスタートした企業が、プライム市場に上場する会社に成長している点です。
  アントレプレナー支援にあたって、資金の提供だけでなく、IT分野のスタートアップ企業の経営について、
  経験に基づいて支援できる人材が育っています。
  
  
  日本のIT企業やIT製品を、世界と比較すると、H/Wに強みがあるという事の他に、S/Wでも違いがあります。
  象徴的に感じたのが、パッケージ型の会計ソフトと海外製のERPの違いです。
  日本製のパッケージ型の会計ソフトは使いやすいものが多いです。仕訳を入力して、BSとPLを作るのは
  比較的簡単にできます。一方の、海外製のERPは、組織の設定や業務フローの設定など、延々と行わなかればなりません。
  RDBのテーブルの数が1,000個以上になることも普通で、私が使うと、最初の仕訳が入れられるまでに何週間もかかり、
  一生かかっても、BSとPLは作成できないのではないかという状況です??
  何百ページものマニュアルが何百冊もあって細かい事まで説明されているのですが、どこから読めばよいか
  わからないという感じです。バブルの時代には、これからは日本の時代になるといわれたこともありましたが、
  そうではないようです。何百ページものマニュアルを読みこなしている人がいて、
  財務諸表の作成で完成ではなく、そこを出発点として論理的な経営分析や企画をおこなっています。
  さらにERPの企画や開発をしている人や、何百ページものマニュアルを読みこなしているユーザーが
  参加しているようなオンライン上のフォーラムがあって、活発に技術や経理・経営の議論を展開しています。
  日本でも、海外製のERPを導入する会社は多いのですが、ものすごくカストマイズしていて、
  ERPを導入しないで、内製の会計ソフトを作ったほうが効率が良いのではないかという状況の会社が多くあります。
  高価な海外製のS/Wを導入して、あまり使いこなしていないという状況が、会計以外の他の分野でもみられます。
  
  最近、半導体技術の復活を目指すということが話題になります。
  半導体技術の復活というのは、20世紀に、DRAMの製造のシェアが高かった状況を復活するというのとは違います。
  DRAMの製造であれば、製造の歩留まりが高くて、製品の品質が良いことが重要でした。
  先端技術を取り入れていくための、資本の投入も重要ですが、高い品質のH/Wを作ることができれば、
  利益があがりました。ロジック半導体や、MPUの製造では、H/Wだけでなく、動かすための命令体系や
  その命令体系を使って動く、OSや、そのOSが動くデバイスや、OSの上で動くアプリケーションなど、
  一連の仕組みが出来て、世界的に広まって、はじめてシェアが高くなり利益がでます。
  GAFAのような巨大企業であれば、自社のデーターセンターの機器専用のロジック半導体を作って、
  サービスを製品として提供するというやり方もあります。
  
  MPUと並んで、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレー)の使用が広まっています。
  インテルやAMDに買収された企業では、データーセンター向けの、大規模FPGAの作成に軸足を移しています。
  一方、機械装置やロボットの試作で使うような、小規模のFPGAの開発はあまり行われていません。
  日本の企業が開発しても良いのではという状況でしたが、
  最近、Lattice Semiconductor社(米国・オレゴン州に本社があり、日本法人もあります)から、
  小型のFPGAが発売され、発表会には自動車会社など多くの日本企業が参加しました。
  5,000から10,000LUT(LookUp Table)レベルで、SoCに加速度センサーなども
  一体になった製品もあるようで、自動車の試作などでは多くの需要がありそうです。
  サッカーボールに、開発ボードを仕込めば、すぐにVARに使えそうです。(ウソです。ボールを蹴ると、
  壊れる恐れがあります。)
  なぜ、日本で作らない、あるいは作れないのかというと、H/Wが出来ないのではなく、
  HDL(Hardware Description Language)でプログラミングしたり、
  論理合成してシミュレーションするS/Wが作れないのではないかと思います。
  
  例えば、AMDに買収されたXILINX社の設計ツールをPCに一式導入すると200GB位になります。
  20年位前なら、S/Wだけで、数百万円、あるいは一千万円以上したツールが無料で導入できることはすごいことです。
  FPGAの回路設計プロジェクトを作成すると、PCのストレージを消費します。
  FPGAの中に、CPUを設計して、OSを動かす、(FPGAとMPUのSoCで、OSは、MPUで
  動くものもあります)となると、まずPC上でクロスコンパイルしたOSのイメージを作成するので、
  どんどんストレージを消費します。
  XILINX社の設計ツールは、個人使用なら無料で使えますが、他のメーカーが勝手に使うことは出来ません。
  VerilatorなどのOSSのシミュレーションソフトもあるので、ユーザーが開発できる体制を
  いかに構築できるかが重要になります。
  日本のメーカーは、FPGAの回路設計までを請け負うBtoBのビジネスを中心に行うところもあります。
  高い品質のH/Wを作るだけでなく、どのような体制のビジネスにするかを考えるのが重要です。
  
  Web3.0が話題になります。Web2.0では、GAFAなどの巨大な企業を中心とする、中央集権の時代
  だったけれど、Web3.0では、分散経済になり、個人でも参加できるようになるといわれます。
  芸術作品を、NFTの技術を使って、個人でも発表できるようになり、収入を得ることができるといわれます。
  例えば日本では、地上波のテレビ部番組の個人的録画は、10回までダビングできますが、ダビングしたもの
  をコピーして利用することはできません。10位年前にできたルールなのでやむをえませんが、
  デジタル技術の利点を完全に活かしたルールではないし、違法コピーを完全に防ぐルールでもありません。
  NFTの技術の進展を考慮した新しいルールを定めるべきです。
  
  Web3.0の時代になると、個人でも参加できるエリアが増えるのは確かですが、
  S/Wの開発が個人で、出来るかというと、いろいろ制限があります。
  Android携帯のアプリを開発するとして、Android SDK無しに出来るかというと、
  それは不可能です。RISC−Vで、Androidが動くようにするというのも、
  個人でできることではありません。GAFAなどの巨大企業である必要はなく、Linuxのような、
  コミュニティー組織で開発するという形態もあるでしょうが、S/Wの開発には、組織的な活動が必要です。
  Android携帯のアプリの開発であれば、ベーター版をアップロードすると、無人のシステムで
  無料でテストして、レポートを送ってくれます。2−3台の携帯電話を持っている個人が実機で
  検証しても高品質のS/Wを開発することは不可能ですが、Googleのレポートを見ることで
  開発が可能になります。売上に対して30%の利用料を払っても、個人であれば
  ありがたいと思うレベルです。法人であれば考え方が異なるでしょうが、このようなシステムを
  利用した学生や、授業で使った大学の卒業生が、就職先の企業で、Googleのツールを使いたい
  というような環境をつくることで、ロングテールの効果を産んで、ビジネスの利益に貢献するという
  アプローチは日本の企業ではあまり見られません。
  RISC−Vの命令体系も、以前はアカデミックなものだという見方もあったのですが、
  Armが厳密なバイナリー互換を求めるのに対し、OSSのRISC−Vでは、命令を拡張することも可能です。
  米中貿易戦争になっても、OSSのRISC−Vの命令体系を使うシステムを、中国の企業が作ることは可能です。
  すでに公開しているので、これから規制しても無駄ですし、OSSのコミュニティーが
  そのようなことを認めるわけありません。世界中で使われるということは重要で、
  いずれ、多くの携帯電話が、RISC−Vの命令体系で動くようになる可能性もあります。
  このように常に世界の状況を見てビジネスの方針を立てる必要があります。
  
  コミュニティー組織とか、フォーラムは、日本より、アメリカなどのほうが盛んなようです。
  企業の開発技術者や、実務で製品を使いこなしている人が参加していて、素人の質問にも答えてくれる
  ことが多くあります。一方日本のコミュニティーには、質問すると、そのような質問をする前に
  FAQを調べろという人が多くいます。個人の意見ですが、まずFAQを調べろというのは、
  その質問に対する答えが明快に具体的にわかる人以外は言ってはならないと思います。
  質問の意味が理解できていない人は言ってはならないと思います。そして、ごく一部ですが、
  まずFAQを調べろというような返答を書き込んで質問にかかわって、質問者が自己解決した時に
  技術を盗もうとする者がいます。このような悪質な参加者を法的に罰するのは面倒なので、
  良質な参加者の数を増やすことで、コミュニティー組織のレベルを上げる必要があります。
  
  日本の自動車メーカーが、資本関係はないが、優秀な部品メーカーの系列があるので、
  高品質の製品を作ることができるといわれた時代があります。最近は、部品メーカーに対する
  原材料高騰の際の価格転嫁の拒否など、よくない関係も話題になります。
  GoogleがGNSS Raw DataをAPIで取得できるようにしたり、ディープラーニングの
  ソフトの提供にあたって、テンソルフローのライブラリーの提供から始めるなど、
  開発者が利用できるツールから提供するという進め方は、部品メーカーに相当するような、
  優秀な開発者のコミュニティーを形成しようとしているようにも見えます。
  半導体の開発には、資金を投入することももちろん必要ですが、コミュニティー組織やOSSの技術
  も活用して、IT技術にかかわる人の裾野を広げる必要があります。
  
  アメリカのメーカーのS/WやS/Wの開発手法をそのまま取り入れるのが良いというのではありません。
  日本の回路設計者というと、はんだごてやロジックアナライザーがならんだ机のそばで、紙と鉛筆で
  AND回路やOR回路を並べた絵を描いているというイメージですが(古すぎるかもしれません)
  そのまま日本流のやり方をするのが良いというのでもありません。
  ボードの定義ファイルをxmlで記述するというアイディアは、日本人からは出てこないように思います。
  パケージやパブリッククラウドのマルチテナント型の会計ソフトのように、便利で使い勝手の良い
  ソフトも悪くない面もありますが、世界進出も視野に、H/WやS/Wや開発体制
  ユーザーとの社会的な関係などを皆で議論する必要があります。 
  
  これからのIT業界を展望するすると、SNSなどの使い方だけでなく、
  医療やクルマ関連のIT技術が重要になり大きく発展すると思います。
  医療分野では、投薬の記録やオンライン診療などからIT化が始まりますが、介護ロボットなど各種の分野で
  利用されるようになります。介護ロボットは、人間の感染症には感染しないので、貴重な存在になります。
  コロナ感染症が問題となって以来、頻繁に聞くのが、電話してもつながらない、一方で電話が鳴りっぱなしに
  なるというニュースです。どれほど献身的に仕事をしていても、現場が疲弊していても、
  偶然繋がった電話に、対応するというのは、効率的な業務の方法ではありません。
  量子コンピューターを導入して、Quantum Annealingの技術で全体最適を目指すべきです。
  
  クルマ関連では、電気自動車用のパワー半導体や充電システムが話題になりますが、自動運転のほうが、
  より多くIT技術が関連する分野になると思います。
  自動運転のAIが、交通信号の役割をコンセプトのレベルで理解しているのか、道路のどのような位置にある、
  色のついたライトと理解しているのかは、海外に輸出するクルマを作る時大きな違いになります。
  実際に公道で試験走行を行うのは、鉄道よりは簡単かもしれませんが、それでもとくに外国で、
  承認を得るのは簡単ではありません。
  自動運転の技術は、技術者が開発するものですが、どのようなところでどのように使うかの、社会的影響は
  皆で議論して決める必要があります。
  例えばですが、自動運転のクルマ専用の自走式立体駐車場を作ると、入口でクルマから降りて、
  クルマが勝手に空いた場所に駐車して待っていて、携帯電話で呼びだせば、駐車場の出口まで来てくれる
  というような使い方ができます。自動運転のクルマ専用の駐車場なので、走っていて人との事故を起こす
  心配はありません。自動運転のクルマであれば運転者が降りる必要が無いので、隣のクルマと詰めて
  駐車することが可能です。出場予定時刻を聞いておいて、通路を無視して、詰めて駐車することもできます。
  クルマが自動運転になると、自動車専用船への積み込みも速くなると思います。
  人間のほうが運転は上手いでしょうが、船から降りて戻ってくる必要があるので、運び込めない時間があります。
  また、ドアを開けて降りる必要がないので、駐車する順番の自由度が高まります。
  新しい技術を、研究室で開発しているのと、実用化して製品を発表するのとでは、フィードバックの量が違うので、
  技術の進歩がずいぶん違います。介護ロボットや完全自動運転のクルマは、高齢化の課題の解決に
  重要な役目を果たします。高齢者の移動の自由が保証され、自宅で生活できる可能性が高まると、
  社会全体に影響があります。技術開発に資金が必要でも、長期的には医療費・介護費が削減できるかもしれません。
  平均寿命の伸びに伴い、日本は高齢化社会になるという危機的状況ですが、危機こそが、次の飛躍へのきっかけになり
  いずれ高齢化社会になる海外の諸国に技術移転出来るようになるかもしれません。
  IT業界の飛躍のきっかけになるのは、デジタル・ツインの技術だと思います。
  少子高齢化の問題や、防衛の問題など、課題は多いですが、デジタル・ツインの技術で、
  仮想空間上に、将来をシミュレーションすることが、重要な技術になると思います。
  地球シミュレーターを作ったことで、地球の気候変動の問題の解析が可能になったようなイノベーションが、
  デジタル・ツインの技術により可能になると思います。
  
  新しい半導体工場の誘致に民間資本に加えて税金も投入するというのも、IT業界を発展させるのに悪いことではありませんが、
  医療や自動運転のクルマのような高齢化する社会全体に大きな影響を与える技術の開発を
  どのような方向でどのような社会をめざして行うかについて、皆で十分に議論して進める必要があります。