列車ダイヤについて --  3ー97 デジタルインボイスについて

                                      2022年12月16日  

    3ー97 デジタルインボイスについて
    
  インボイス制度(適格請求書等保存方式)を2023年10月から導入することが話題になっています。
  それにあわせて、Peppol(Pan European Public Procurement Online)仕様の
  デジタルインボイスの導入が話題になっています。(個人の感想です)
  
  現在、企業グループ内などで使われている、EDIのようなデジタル請求書の世界共通仕様なものを広く導入しようと
  するものです。
  
  インボイス制度でいう適格請求書は、事業者番号(Txxxxxxxxxxxxx)等を記入した請求書ですが、
  これを紙に印刷したものではなく、XMLのフォーマットのファイルでオンラインで送信する方式が
  デジタルインボイスと呼ばれます。
  
  XMLファイルのフォーマットは基本的に世界共通なので、それに対応する会計ソフトを導入すれば、
  ファイルを取り込むだけで、会計の仕訳が自動で行われます。
  対応する会計ソフトを使っていない人は、Peppolリーダーのようなアプリで、
  人間が読む紙の請求書のようなフォーマットで表示して、印刷して保存します。
  請求書を作成する時は、Peppolデーターを入力するアプリに、データーを入力すると、
  XMLのフォーマットのファイルを作成して送信することができます。
  
  デジタルインボイスは、行政のデジタル化の切り札として強力に推進すべきだと思います。
  マイナンバーカードはすべての居住者が保有することを目標にしていますが、
  デジタルインボイスは、すべての事業者が導入することを目標にしています。法人と個人事業主です。
  
  企業にもいろいろな業種があり、いろいろな業務の進め方がありますが、
  個人よりはバリエーションは少ないように思います。
  例えば、所得税の確定申告では、各種所得の金額の計算から始めます。個人毎に色々な所得の源泉があり、生活費の支出があり
  そして生活の様式や家族構成などがまちまちなので、所得控除額の計算も個人毎に異なります。
  それに対して「会社(外国会社を含む。次条第一項、第八条及び第九条において同じ。)がその事業としてする行為
  及びその事業のためにする行為は、商行為とする。」(会社法5条)と規程され
  法人税法でも、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、
  別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、
  無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」(法人税法22条2項)
  というように、無償による資産の譲受けもすべて資産の時価で収益の額とします。
  マイナンバーカードを使って給付を行うとしても、世帯の収入の定義は複雑です。それに対して、
  企業会計の会計公準のなかの企業実体の公準とは、企業の所有者の財産と、企業の財産を分けて考えるというもので、
  会計帳簿の対象も取り扱い方も個人よりは法人等のほうが標準的です。
  
  バリエーションが少なく、標準的であるというのは、デジタル化する時大きな利点です。
  扱う金額が大きいとか販売する項目の数が多いことは、デジタル化に際してはあまり問題になりません。
  事業者間でアクセスポイントを介して行われるPeppol BIS(Business 
  Interoperability Specifications)ドキュメントの情報が
  企業のプライベートな情報は保護した形で、経済状況の分析などに利用できるようになれば、
  リアルタイムな経済の状況が明らかになります。現在、景気ウォッチャー調査が行われていますが、
  皆がデジタルインボイスを利用するようになり、その情報が集計できれば、いろいろな情報が
  容易にリアルタイムに利用可能になります。
  
  現在、上場企業などが提出する有価証券報告書は、XBRLのフォーマットで公開されます。
  XBRLは、XMLのエクステンションです。勘定科目の分類をタクソノミで行うのが特徴です。
  およそ20年前から始まりました。日本で決算短信に使われたのが世界初の実用化です。
  ものすごく注目されたかというと、そうでもありませんでした。
  インスタンスとタクソノミというXBRLのフォーマットを最初に提案したチャールズ・ホフマンは
  ずいぶん注目されましたが、最初に実用化したことは、そこまでは注目されませんでした。
  XBRLのフォーマットによる有価証券報告書の提出は、今も世界で継続して行われています。
  それではずいぶん企業業績の分析に貢献しているかというと、少なくとも日本ではそれほどでもありません。
  XBRLのフォーマットによる配信を始めたり、それをビジネス・インテリジェンス・ツールに読み込むまでは、
  熱心に行うのですが、取り込んだデーターをグラフにして、印刷して保存するというのが、
  日本での一般的なスタイルです。
  統計の知識が豊富な人が、デジタル・データーを解析して経営計画を建てるようなことは、欧米に比べると
  日本は遅れているように思います。
  さらに有価証券報告書の財務諸表を作成するための会計基準が日本では3種類使われています。
  日本基準、IFRSの基準と米国会計基準です。
  
  ここにデジタル・トランスフォーメーションをどのように進めるべきかのヒントがあるような気がします。
  XMLでも暗号化などの規格などもですが、どのような規格にするかという会議での発言は注目されます。
  会計基準を定める国際会議での発言も注目されます。ある規格をシステムで実用化したということは、
  日本では注目されますが、世界的にはそこまで注目されません。
  システムを稼働して、期限内に財務諸表を作成したり、グラフなどにまとめることは日本では
  すごく注目されますが、世界的には業務の品質が低い国もあります。
  しかし、まとめた資料を統計の知識などを使って分析し、業務計画の立案に活かすということは、
  日本ではあまり行われませんが、世界では広く行われていてかつ注目されます。
  日本の会計基準は、IFRSの基準に限りなく近いのですが、大きく違うところもありました。
  例えば「のれん」の扱いです。企業を買収した時、買収した企業の価値と買収額の差をのれんとして計上し、
  日本基準は定期的に償却していました。長いこと議論していましたが、結局最近になってIFRSは
  のれんを定期償却しない現行ルールの維持を決め、長年の議論に一応の区切りがつきました。
  
  世界的な規格作りの議論では、あまり活発に活動せず、日本独自の基準を作るというのは、
  会計や行政の事務をデジタル化しようとする時には、足かせになります。
  Peppolの仕様でも、日本では広く一般的に行われている、月締め請求で請求書に納品書を添付する
  ような処理は含まれていません。また美容院や理髪店のように商品仕入れがなく、現金売上がほとんどという
  商売では、デジタルインボイスを導入しないかもしれません。しかし、レジで入金処理をして、
  紙のレシートを発行するのと同じ手間でデジタルインボイスを発行できるなら、レシートの紙が不要になるし、
  顧客管理と連携できるような機能があれば導入する店があるかもしれません。
  システムの仕様書の議論だけでなく、いろいろな業種でどのようにデジタル化すれば
  業務の効率が向上するかの議論を十分に行う必要があります。
  もちろんIFRSの基準にも一部を取り入れないカーブアウトという制度はあります。
  しかし、月締め請求であれば、業務を世界標準の発注毎の請求に変えるのか、日本の習慣をPeppolの仕様
  に取り入れるのかを議論しなければなりません。
  共通の仕様に取り入れていないと、Peppolのバージョンアップが行われるたびに、日本独自の
  アップデートが必要になり、業務の効率が下がります。
  業務をデジタル化するにあったて、ベストプラクティスを取り入れて業務手順自体を変更するのか、
  業務手順に合わせてシステムをカストマイズするかの検討が必要です。
  しかし日本では、この議論が不十分でいきなりシステム構成の議論になり、導入が始まってから、
  カズトマイズが膨大になり、システムの導入費用が計画をオーバーし、かつシステム化しても
  業務の効率が上がらないということがあります。
  会計ソフトで、レシートを写真撮影して、仕訳を自動的に行うなど、ソフトウェアの機能の改善には
  日本は熱心で、機能の高いソフトも多くあるのですが、業務をデジタル化するにあたっての方針を立てる
  などは苦手です。チームワークで仕事をするのが日本の強みといわれますが、事務系の業務を行っている人と、
  システム導入の人の間ではほとんどまともな議論が行われず、会社や組織としての方針がないまま
  予算が確保され、システム導入が始まり、導入されてもあまり利用されないということが多くあります。
  行政のデジタル化が話題になるようなってきて状況が変わるかもしれませんが、事務系の人は
  システム系の話をまったく聞こうとせず、システムを作っている人も、契約書にある仕様書にしたがった
  プログラムを作成して、売上金を得ることが目的で、どのような業務のためのシステムかには
  まったく興味をもっていないという例もありました。デジタル技術のリスキリングの必要性が話題になります。
  リスキリングが一番必要なのは、私は企業の経営者だと思います。事務系の部門とシステム部門の計画会議が
  まったく機能していないとき、企業のトップがデジタル技術にくわしければ
  大号令をかけて立案の方針を変更することができます。ところが、例えば機械装置の製造会社で
  社長が機械設計から製造までそれなりの知識を持っているのに、IT技術はまったくわかっていない人がいます。
  ITの話になると、以前は秘書がタイプを打つのが速いと言っていて、今は孫がゲーム機を使うのが上手いと
  言っている人がいます。このような人にデジタル技術のリスキリングの必要性を訴えても無駄ですが、
  時代が変わってきました。デジタル庁には民間出身の本当にデジタル技術に詳しい人がいます。
  企業のトップの人で、中央省庁の役人に言われたことは何でも聞く人がいます。
  確実に時代は変わるし、変えていかなければならないと思います。
  産業界を見ても、例えばクルマの衝突防止装置のように、日本の自動車メーカーの技術と思われている物も
  ArmのプロセッサーとFPGAを組み合わせたアメリカの企業の部品が重要な役割を持っているものがあります。
  ロジック半導体のメーカーが自動運転の技術に進出したり、パワー半導体にも進出して電気自動車に進出したり、
  逆に自動車メーカーが自前の半導体の設計に進出するなど、IT技術に関連して業界の垣根を
  超えた大きな変化が起きようとしています。これからは企業のトップも行政のトップもIT技術に関心をもち、
  世界的な規格作りの議論などにも積極的に参加しなければなりません。
  ワールドカップサッカーで、VARが話題になりました。LPSとボールに内蔵されたIMUセンサー、
  リアルタイム通信、フュージョンセンサー、AIなどの技術が使われています。(くわしくは知りません。)
  同じシステムを練習の時から使えるようになれば、ボールの速度、軌跡や回転がすべて記録されます。
  スポーツ界でも、デジタル技術の活用が不可欠になっています。
  さらに、テレビ業界で長らく続いた、スポーツ中継を続けるか、通常の番組を行うかの議論にも
  決着がついたように感じます。結論はネットで両方の番組を流せば良いだと思います。
  ネットなら通常の番組に加えて、スポーツ中継の番組を配信することができます。
  放映権料の課題も解決されるかもしれません。すべての試合を中継すれば見る人が誰かはいます。
  それを集めれば意外とばかにならないのは、アマゾンのロングテールと同じ発想です。
  
  10年あまり前のIFRSの会計基準の導入の際も、経済界は最初は大反対でした。
  導入費用と導入作業の手間に非難が集中しました。世界基準と統一することの意義や、連結財務諸表と
  個別財務諸表の扱い、さらに税務会計の扱いなど数多く議論すべき項目があったはずですが、
  ほとんど対応が面倒なことに関連して導入に大反対という意見ばかりでした。
  ところが、固定資産の償却方法がIFRSは原則定額償却で、それまでの定率償却より、
  連結財務諸表の企業業績が良く表示されるということがわかると反対意見がほとんど聞かれなくなり、
  多くの企業が、IFRSの基準を取り入れました。そして、個別財務諸表は日本基準で作成し、
  連結財務諸表はIFRS基準で作成し、連結納税書類を日本基準の個別財務諸表に基づいて作成し、
  さらに連結財務諸表の法人税等調整額を調整するという、デジタル化した時、非常に手間のいる方法で
  財務諸表の作成を行っています。バリエーションが多いというのは、デジタル化する時大きなハンデイになります。
  財務諸表の作成に、日本基準とIFRSの基準と米国会計基準を使うのは、
  工場の現場でメートル法の計測器と、ヤードポンド法の計測器と尺貫法の計測器を同時に使うほど
  ばかげた事だと思います。
  
  デジタルインボイスの導入に際しては、システム構成の議論の前に、
  導入のメリットや、業務手順、国際取引の手順、会計システムや税務会計との連携を十分に議論し、
  経済状況の分析や経済政策の立案にどのように活かすかを総合的に議論しなければなりません。
  デジタル田園都市国家構想で、5G 6G などの通信の規格については、専門の会議で議論することで、
  USB端子に関する議論より少しはましかもしれませんが、国会で議論する必要はないでしょう。
  しかし、持続化給付金などの給付が遅かったり、何度申請しても承認されない、その一方で不正受給
  などの問題があったことは事実を確認して十分に議論しなければなりません。
  クールジャパンがなぜ失敗したかも議論しなければなりません。
  Peppolが、当初はヨーロッパの公共調達の仕組みとして導入され、その後民間のBtoB取引でも
  利用が促進され、Open Peppol(ベルギーの国際的非営利組織)によって管理され、世界に広まっている
  というのが、行政や公共業務のデジタル化をどのように進めるべきかのヒントになります。
  Peppolをベースとしたわが国におけるデジタルインボイスの標準仕様(JP PINT)の普及・定着をはかる
  だけでなく、Peppolプロジェクトの進め方を学ぶできです。
  感染症に対応する病院の数がなぜ増えないのかも、データーに基づいて、短期的な対策と長期的な対策をたてなければ
  なりません。長期的な対策には医学部の改革を盛り込むべきです。日本の医師は原則的に、
  大学入試に合格した時点で、自分のキャリアを医師と決めています。長くそういう環境にいた人に、
  デジタル技術のリスキリングの必要性を言っても無駄でしょうが、これからは、医学部もリベラル・アーツの
  教育を充実し、病院経営に必要な会計の知識や遠隔治療や電子カルテに使われるIT技術の教育を行うべきです。
  新しく予算を獲得することにだけ関心をもって行政のデジタル化のための新しいシステムを作っても、
  同じ失敗を繰り返すだけです。ITシステムだから特別なものだということはなく、
  もし、本来なら運輸安全委員会が調査するような、重大インシデントについて原因究明調査を行わなかったり、
  調査結果を反映した対策を怠れば、事故が繰り返されます。行政のデジタル化にあったても、
  インシデントが発生したら、かならず再発防止策を立てるという基本を守って、
  次期プロジェクトの立案をする必要があります。