列車ダイヤについて --  3ー96 インボイス制度について

                                      2022年12月1日  

    3ー96 インボイス制度について
    
  インボイス制度(適格請求書等保存方式)を2023年10月から導入することについて、反対意見が多く聞かれます。
  
  私は、賛成です。古くから国境を越える取引が盛んに行われてきたヨーロッパでは、
  インボイス方式は商取引慣行としてすでに定着しています。アメリカは売上税方式で、日本の消費税のような
  付加価値税方式ではないので、少し異なる仕組みを使っています。
  中小事業者を中心に消費税の納税・納付を行う消費税課税事業者にならないといけないということは重大な問題で、
  対策が必要なのは十分理解できます。しかし、インボイス制度に反対するという議論には私は反対で、
  何を消費税の課税対象とするかと何を非課税とするかなどの根本的な議論をするべきであって、取引の透明性を確保する
  インボイス制度は、デジタル化の補助を十分に行った上で導入すべきだと思います。
  
  最初に、中小事業者を中心に行われている、消費税の益税について説明します。
  消費税は付加価値税方式で、例えば商品を110円で仕入れて、165円で販売すると、標準税率の商品だとして、
  販売時点での仮受消費税が15円 仕入れ時点での仮払い消費税が10円です。
  課税売上のための課税仕入れは、税額控除できますから、消費税の納付税額は5円になります。
  事業所得は、50円です。
  ただし、課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、
  その課税期間における課税資産の譲渡等について、納税義務が免除されます。つまり、上記の例で、
  5円の納付を行っていません。これが益税と呼ばれます。
  
  インボイス制度が始まると、上記の例で、165円で販売する相手が事業者だった時、相手の事業者から見ると
  仕入れですが、仕入れ相手が消費税課税事業者で、適格請求書を発行する事業者でないと、
  仕入れ税額控除が適用できません。つまり、消費税課税事業者としか取引しなくなります。
  
  そして、著作活動をするフリーランスの人などで、売上高が1,000万円以下の人が、
  出版社との取引で、現在は消費税非課税事業者ですが、取引を続けるために消費税課税課税事業者となって
  消費税を納付する必要が発生し、さらに経理処理が複雑になることが問題になっています。
  
  ここで、著作活動をする人が、出版社に雇用されている場合について考えます。
  出版社は、給与を支払います。給与には消費税が含まれていません。
  給与・賃金は、雇用契約に基づく労働の対価であり、「事業」として行う資産の譲渡等の対価に当たらない
  からです。すなわち消費税の課税の対象とならないもの(不課税)の一例になります。
  そもそも消費税は、[1]国内において行うもの(国内取引)であること。 
  [2]事業者が事業として行うものであること。 [3]対価を得て行うものであること。 
  [4]資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供であること。
  という4要件を満たすものについて事業者に課税されます。消費者が消費税を負担しているという感覚が
  ありますが、消費者は消費税の担税者です。
  
  つまり、同じ著作活動が、雇用契約に基づく労働の対価となるか、事業者が事業として行う役務の提供
  に分類されるかによって、消費税が課税されるかどうかの基準になります。
  
  派遣労働者も同じで、同じ11万円の売上があった時、借受消費税は1万円ですが、
  雇用している労働者に払った、5万5千の給与からは、仮払い消費税は発生しませんが、
  派遣会社に払った5万5千の支払いからは、5,000円の仮払い消費税が発生します。
  派遣労働者が派遣会社から受け取る給与は消費税の対象にはなりません。
  
  消費税の対象ではあるが、消費税を課さない非課税の扱いをするものがあります。
  調剤薬局で仕入れる薬の対価は消費税額を含みますが、社会保険医療の給付等に該当する、
  医療用医薬品(処方薬)には、保険診療の範囲内であれば消費税は課税されません。
  仕入れの時に支払った消費税額は、非課税売上のための課税仕入れなので控除できません。
  結果的に薬局が負担します。
  中古のマンションを購入する場合を考えてみます。
  土地の部分には消費税はかかりません。土地の譲渡は非課税取引だからです。
  建物部分は、不動産業者が所有する物件の場合は、課税です。
  仲介物件であれば、仲介手数料にのみ消費税が課税され、建物本体の価格には消費税はかかりません。
  自らの住居の用に供する建物の譲渡は、事業者が事業として行うものでないので、不課税です。
  
  また消費税では、輸出免税(ゼロ%課税)も話題になります。自動車会社が、日本国内の事業者から
  部品を仕入れます。課税仕入れです。組み立てた完成車を輸出します。引き渡しの対価には
  消費税は含まれません。販売が輸出取引に当たる場合には、消費税が免除されます。
  課税売上のための課税仕入れが税額控除できるので、部品の仕入れの際の仮払い消費税は控除できないかと
  思いますが、これは控除可能です。ゼロ%課税という扱いです。還付申請することで仕入れの時に支払った
  消費税額は還付されます。
  一方、居住用の住宅の賃貸料は、非課税です。非課税売上なので、住宅を建てた時に支払った消費税額を
  控除することはできません。調剤薬局と同じです。

  課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、消費税が免税になります。
  この、基準期間は、原則として個人事業者であれば前々年、法人であれば前々事業年度を指します。
  新しく起業した法人は、前々事業年度の売上がないので、消費税が免税になります。
  人材派遣業は、売上が課税売上で、給与の支払いが不課税なので、消費税の納付税額の多さが課題になります。
  そこで、2年毎に起業と廃業を繰り返して新しい法人になれば、消費税を納付しなくて済むのではないかと
  考えた人がいました。これはどうみても脱法行為で不公平なので、
  事業年度の開始の日における資本金の額または出資の金額が、1,000万円以上である法人は課税対象に
  するなど、税法や規則が変更されました。しかし、自己資本の半額までは、資本準備金にすることができるので、
  かなり大きな法人でも、消費税を納付しなくて済まそうとするなど、いたちごっこの面があります。
  消費税課税事業者として登録して、適格請求書を発行しないと、取引が実質的に制限されることは、
  脱法行為を防ぐ大きな抑止力になります。
  
  消費税は、1989年4月から始まりました。当時、消費税等の税率は3%でした。
  それ以前は贅沢品には物品税が課税されました。例えば鉄道の運賃には課税されませんでしたが、
  グリーン料金には課税されました。そこで課税対象になるかならないかは大問題でした。
  「およげ!たいやきくん 」のレコードが課税対象になるかならないかで裁判になりました。
  童謡のレコードは対象外でしたが、歌謡曲のレコードは課税対象でした。
  このような問題を避けるため、広く薄く課税しましょうということで、物品税を廃止し、
  消費税が始まりました。
  しかし、その消費税も標準税率は10%になりました。
  税率を上げても基本的な仕組みを変えず、対処療法で済ませてきた矛盾があらわれています。
  中小事業者に対して、インボイス制度の導入の猶予や経過措置という、対処療法のなかの対処療法がとられようとしています。
  インボイス制度の導入には多くの反対意見が聞かれますが、個人住民税の所得割の税率が、
  所得額に関わらず10%(市町村によって1%程度の差はあります)ということには、高額所得者の優遇
  という関点からの反対意見はあまり聞かれません。給与所得者などを中心に特別徴収の人が多いから、
  関心を持たず、自分で確定申告が必要になると不満を持つというのは納税者としての意識にも問題があると思います。
  納税者全員が、何が課税の公平性で、税収を有効に使うために行政をどのように行うかにもっと関心をもつ必要があります。
  今こそ、租税特別措置法が毎年延長されているような項目も含めて、すべての税制を抜本的に
  見直す時期だと思います。
   
  インボイス制度とあわせて、電子帳簿保存法も話題になっています。
  会計業務や国税に関連する業務も一層のデジタル化を進めるため、
  電子帳簿保存法における国税関係帳簿書類の電磁的保存についても大きく見直しが行われました。
  インボイス制度は、中小事業者の益税がなくなるという経済的負担とともに、会計処理をデジタルで行い、
  適格請求書を発行し、消費税の確定申告をおこなう事務的処理がわずらわしいことも大きな問題になっています。
  たしかに、課税売上割合の計算、個別対応方式などを選択しての、控除税額の計算は複雑です。
  公認会計士や税理士の人でも、NPO法人を含めたすべての業種について消費税の計算がただちにミスなく
  計算できる人ばかりではないかもしれません。(個人の感想です。)
  しかし、経理は非常に再現性が高い業務です。去年の正確で詳細な会計帳簿があって、先輩に教えてもらえば、
  多くの人が容易に行うことができる業務です。
  そして、再現性が高い業務は、デジタル技術を活かすことができる業務です。
  会計事務所などを中心に、クラウド会計システムの利用と、e−Taxの利用を推進すれば、
  日本全体の経済の活性化に大きな効果があります。
  あわせて事業者に番号を付与して、行政をデジタル化することで、業務の生産性が向上することを示すチャンスです。
  マイナ保険証より、ただちに行政のデジタル化の効果を実感できる分野だと思います。
  「マイナうさぎ」を総務省から財務省に貸し出して、税務署で、適格請求書の発行とe−Tax利用の
  推進のデモを行い、事業者への番号の付与が、生産性の向上に寄与することを具体的に示すことができれば、
  マイナンバーカードの保有率の向上にも寄与すると思います。
  
  医療分野とあわせて経済分野も、デジタル化の効果が大きい分野だと思います。
  感染症のワクチン接種なら、実験をして効果を検証することができます。
  しかし、経済の実験を行った結果、生きがいを失い、徹底的に経済的に困窮することが証明されたと言っても、
  納得する人は居ないと思います。
  シミュレーションが有効だと思います。気象の予報には、流体力学の運動方程式や熱力学の方程式や
  気体の状態方程式などを組み合わせて、現在の状況から将来の状況を予測します。
  気候変動などのシミュレーションもできます。
  量子コンピューターができれば、計算能力が飛躍的に向上します。
  経済のいろいろなミクロな現象を入力して、関連する方程式を解いて、国全体や世界全体の
  経済の状況をシミュレーションしたり予測することが可能になると思います。
  
  日本には経理が得意な人が多くいて、正確な財務諸表を作る能力は高いと思います。しかし、
  財務諸表が出来たら業務終了で、経営計画に有機的に活かすというようなことはあまり行われていません。
  先進国のなかでは、劣っていると思います。
  経理がデジタル化されて、多くの事業者の財務・経理の状況と事業者間の取引が分析可能な形で
  保存されていれば、経済状況の分析に有効です。
  各企業の業務上の秘密は保護される形で、事業者の財務・経理の状況と事業者間の取引が学術的に分析
  できるような体制ができれば、日本の経済政策が近代化されます。
  各事業者の財務・経理の状況だけを集めても、駅で時刻表を見ているようなもので、
  全体の動きはわかりませんが、それを事業者間の取引とあわせて有機的に分類できるようになれば、
  ダイヤグラムを見ているようなもので、全体の様子がわかります。
  
  量子コンピューターでまず将来の経済状況をシミュレーションし、それに基づいて経済政策を立案することができます。
  経済危機や感染症の万延など、予期せぬことが起こった時にも、
  鉄道で量子コンピューターで回復ダイヤの原案を作るように、経済の回復策のシミュレーションを行い
  それに基づいて経済政策を決めることができます。
  量子コンピューターによる、経済の回復策のシミュレーションがどれほど正確かはわかりませんが、
  良い点は人間より実行速度が桁違いに速いことです。すばやく現状の変化に対応した回復策を立てることができます。
  
  経済政策全体のシミュレーションが難しいとしても、エネルギーの消費と温暖化の問題とか、
  貨物輸送の最適化など、取り組みが可能な分野から取り組んでいくこともできます。
  エネルギーの消費であれば、電気は最大必要な発電能力を常に確保していく必要があるということが課題です。
  一方、水素やLNGなどはいつ使うかは関係なく、総消費量が課題になります。
  総合的にどのようなエネルギー政策が最適かを分析する必要があります。
  貨物輸送の最適化であれば、多くのトラックや貨物列車が、荷物を運んだあと、空で出発地に戻って来るのは、
  全体的に見れば無駄です。しかし、この課題を解決するために、個々の業者が回送便の貨物輸送を斡旋するのは、
  推奨できない場合が多いです。結局全体的に正規の運賃が値切りされ、輸送業界全体が存続できなくなるという
  課題があります。新幹線を建設する前にも、長期間にわたっての人の移動や経済に与える影響や並行在来線を含む
  鉄道の経営状況を詳細にシミュレーションできるようになると思います。道路工事も現在は用地買収の楽な
  ほとんど渋滞の無いような区間から工事を始めて(個人の感想です。)根本的に渋滞が解消して
  早く通過できるようになるまで、30年位かかることがありますが、どの順番で工事するのが、
  一番税金を有効に使うことができるかのシミュレーションできるようになると思います。
  このような課題を社会的な最適解を求めることで解決することが、
  量子コンピューターによる最適解の発見などをはじめとして社会のデジタル化に期待される事です。
  
  日本にはじめてコンピューターが導入された頃、ある製鉄所で、残業時間と所得税や社会保険料の源泉徴収額を
  考慮した各人の給与支払額の計算に1ヶ月かかっていたのが、3日でできるようになった事が話題になりました。
  コンピューターは、はじめインテジャー(整数)の計算能力が会計の分野で注目されました。
  それから、天気予報など微分方程式の解を求めたりマトリックスの計算でも注目されました。
  現在は、AIや量子アニーリングで最適解を求めるなどの利用が注目されています。
  経済政策の立案などにも広く利用されるようになると思います。
  
  現在、国会での税制の審議などは、多くの紙の資料を見ながら行われています。
  タブレット端末を持ち込んだことは大きな進歩ですが、ワニの動画を見ているだけではあまり審議に寄与しません。
  量子コンピューターのシミュレーション結果を見ながら、皆が議論するようになれば、
  大きなデジタル化の効果が得られると思います。