各種のコラム --  3ー199 デュアルユース技術

                                      2026年6月1日  

    3ー199 デュアルユース技術
    
   デュアルユース技術(軍民両用技術)とは、民間用途(産業・生活)と軍事用途の双方に利用可能な技術や製品を指します。
  深めのフライパンを鍋として使うとか、マルチ調理鍋も デュアルユースといえないこともありませんが、よく話題になるのは、軍民両用技術です。
  軍事用途という時、兵器・武器を製作することをさすのか、武器にも使える技術すべてを軍事用途というかで、範囲がまったく異なります。
  自律型ドローンのように、監視目的のドローンも配送用のドローンも基本的に同じものであったり、配送用のドローンで武器を運べば、
  軍事用途で、ECサイトで購入した商品を運べば、民間用途というものもあります。
  
  このコラムでは、ひとつの技術が軍事用途にも民間用途にも使えるものについて、いくつかの事例で議論します。
  武器を製作することについては、さらに考慮すべきことが多く、今回のコラムで議論する範囲をこえるので、今回は扱いません。
  軍事転用可能な技術は、敵国で兵器として利用されることが無いように、多くの国で輸出規制をしています。その場合も
  何が軍事転用可能かを議論する前提として、技術の規格などが公開されることが基本になると思います。
  
  デュアルユース技術の典型的なものとして、以前からよく話題になるのがインターネットです。
  現在のインターネットの起源となったのは、米国防省の研究開発機関ARPA(Advanced Research Project Agency)
  のもとで開発が進められていた、世界初のパケット交換ネットワーク ARPANET(アーパネット)です。
  開発は、カリフォルニア州などのいくつかの大学で行われていましたが、研究開発の中心メンバーだったスティーブ・クロッカーは,
  研究開発の議論の内容を文書にまとめようと思いつきました。そうしておけば、議論の内容を忘れることがないし、議論に直接参加しなかったほかの研究者も読めるようになると
  考えました。国防省の研究開発プロジェクトの内容を公開しても構わないのかなどの議論もありましたが、良い技術を開発するには、内容を
  公開し、皆で議論しながら進める必要があるということで説得し、各大学で情報交換しながら自由な雰囲気で研究・開発が進んでいました。
  しかし、東海岸にいる国防省など政府の関係者にとがめられると面倒なことになるので、勝手に公式な文書を発行したと受け取られることがないように、
  RFC(Request for Comments)という形で発表されました。最初の、RFC1が発表されたのは、1969年4月7日ですが、
  インターネットは現在も、プロトコールをRFCという形で公開する、誰もが参加可能なオープンな形で開発が進んでいます。
  軍用技術は機密にするというのが常識でもありますが、実際は、公開したほうが技術の進歩が早くなります。インターネットの技術開発の方法や歴史は、
  デュアルユース技術をいかに扱うか考える時、非常に参考になります。
  
  ウクライナでは、軍事用ドローンの技術開発が急速に進んでいます。現在では、インターネット以上にドローンの技術が、デュアルユース技術の典型です。
  イランのドローンは、中国の北斗(BeiDou)のGNSSを使うようになってから標的を特定する精度が上がったそうです。
  日本では、民間用途で下水管の点検にも使われるようになっています。下水管の点検では、GNSS(GPS)の電波が届かない場所があるので、
  慣性センサーによる自律航法の技術も必要になります。想定の使用期限を超えた下水管の取り替えを促進しなければなりません。
  しかし、下水管の新設と違って、下水管の取り換えは、継続使用を確保しながら行わなければなりません。新しい下水管を敷設しておいて
  切り替えるので1日だけ下水管を使用しないでくださいなら我慢できますが、工事中1ヶ月間、下水管を使用しないでくださいというと、生活が
  成り立ちません。既存の下水管の内側に新しい材料で新設して補修するなども含めて、鉄道のように運行を続けながら工事をすすめるやり方を取らなければなりません。
  
  ドローンは、線状降水帯の予測にも使える可能性があります。多数の軍事用ドローンが一斉に飛んでいるのを見ると、多数のドローンで
  線状降水帯を追いかければ観測できそうです。ただ、観測と予測では異なる技術が必要になってそのまま使えるかどうかはわかりません。
  ドローンは、デュアルユース技術であるだけでなく、民生用でも各種の分野で利用が期待されます。
  水中ドローンは、無線が届かないので、有線操縦のドローンも使われますが、海洋開発を考えると、自律航法の水中ドローンの開発が期待されます。
  日本近海のレアアース開発は、深海なので、いきなりドローンを使うというのは無理でしょうが、何らかの形で深海の監視用水中ドローンが出来て、
  潜水艦の行動が観察出来るとなると、軍事用途でも画期的な技術になる可能性があります。
  日本近海のレアアース開発は、今年、6,000メートル近い海底からレアアースを含む泥の試掘・引き上げに世界で初めて成功しました。
  さらに、ネオジムなどのレアアースは周期表で、ひとつ下の段のウランやトリチウムなどと一緒に採掘されて精錬が大変ですが、
  日本近海のレアアースは、海底火山から噴火したあと、海水中でより分けられるのか、海底の泥のなかで分けられるのか、説明を聞いても私はよく
  理解できなかったのですが、精錬が容易にできる純粋なレアースが採掘出来たということは理解できました。
  専門家は、試掘の前からある程度は予想していたそうですが、初めて確認できました。このように試してみたら予想以上に結果が良かったときは、
  運がついています。実用化に向けて前進する可能性もあります。日本がレアアースの産出国になると、産業用にも軍事用にも利用できます。
  まさにデュアルユース技術であるだけでなく、産業用にも軍事用ともにゲームチェンジャーになるほどのインパクトがあります。
  
  生成AIや大規模言語モデルでは、OpenAIやNVIDIAがリードしていましたが、最近他の会社もいろいろな形で参入しています。
  グーグルから、新型AI演算チップ「TPU  8t」と「TPU  8i」が発表されました。8tが訓練用で 8iが推論用です。
  機械学習など従来は、同じハードウェアーを訓練にも推論にも使用していたのですが、この分野は次第に特化型に移行しています。
  推論の際は、低い遅延(低レイテンシ)でトークンを生成し、リアルタイムに近い高速なAI対話を可能にすることが重要です。
  NVIDIAのGPUで訓練も推論も可能ですが、さらに2025年末に、NVIDIAがGroqのLPU(Language Processing Unit)
  推論技術を非独占的にライセンス取得し、競合関係から技術的な提携関係へ移行しています。ただしその場合、NVIDIAのCUDAで学習して保存した
  モデルがそのままGroqのLPUで使えるわけではありません。新しいソフトウェア開発モデルを使わなければなりません。
  なおGroq社は、イーロン・マスク氏が設立したxAI社が開発した対話型AIのGrokとは無関係です。
  グーグルの、「TPU  8t」と「TPU  8i」は共通のモデルを使いますが、NVIDIAのCUDAで学習して保存したモデルはそのまま使えるわけではなく、
  変換する必要があります。Geminiの回答では、NVIDIAのCUDAで学習して保存したモデルも変換して、「TPU  8i」で推論に
  使う方法が主流になるそうです。他のAIに聞くと回答が変わるかもしれません。
  ひとつの技術がいろいろな用途に使われるという傾向があるとともに、従来はひとつのハードウェアーで行っていたものが、それぞれの用途に特化していくという
  動きも同時に起きています。その場合、エコシステムにおける「キーストーン」になるためには、前提として、何か固有の優れた技術を持っている必要があります。
  大規模言語モデルで、日本語の情報が不足していて、回答の内容も米国中心のものになることがあるので、日本語の情報で学習するデーターセンターの
  建設が進んでいます。必要なことであることは間違いないのですが、前提となる、何か固有の優れた技術を持っていないと、
  米国や中国の背中を追いかけるだけになるリスクがあります。先端半導体が、安全保安上、重要な技術であることは確かですが、
  台湾のTSMCが順調に操業している時の民間用途のビジネス展開の計画も万全である必要があります。
    
  AIや量子コンピューター、半導体など最先端の分野で米国や中国を追いかけることも重要でしょうが、日本の現状を見ると、
  いろいろな分野で使われているアプリのレベルを上げる必要があると感じます。IT技術はデュアルユース技術(軍民両用技術)として、
  軍事やインテリジェンスをはじめ、ほとんどの民間企業で重要な技術として使われています。  
  よく利用するスーパーで、最近支払いアプリが動かなくなりました。すでにSNSでも不調というメッセージが出回っている状況で、
  店員の人は、個別の端末の問題なので、店側として対応できることはないという対応をしてました。また、ホームページのお知らせも、
  アプリの不具合に関するお知らせはありませんでした。以前は鉄道も不通になっても何の発表もなく、駅まで行ってみてはじめて電車が止まっていることが
  わかる状況でした。今はすぐにホームページや公式SNSで状況が発表されますが、日本では業種を問わず、IT技術が使われるようになっている
  一方で、特に経営者上層部にIT技術の重要性が理解されていない面があります。このスーパーの例では、もともと2種類のアプリがあり、統一の動きはなく、
  そのうちのひとつが新しい名前にかわりました。企業グループとしてリテールとファイナンスという2つの業種があるのは企業側の都合であり、アプリは一人の人間が
  使うという利用者側の発想で設計しなければなりません。2種類のアプリがあるのはかまいませんが、ユーザーIDが異なるのは不便です。生体認証で
  起動できますがしばらく利用しないとパスワードの入力が必要になります。それでは、片方のアプリが動かない時のバックアップになりません。
  アプリが動かない時に備えて以前使っていたプラスティックのカードも持参してくださいという対応は、
  マイナ保険証になってもお薬手帳も持参してくださいという発想とかわりません。プラスティックのカードにはカードに貯まるポイントと
  サーバーに貯まるポイントがあって、わかりずらかったのですが、プラスティックのカードからチャージ金額を移転できるのは、
  2種類のアプリのうち以前からあって最近名前がかわったアプリだけらしく、利用者にはなかなか理解できません。
  軍事やインテリジェンスの世界では、アプリの不具合がすぐに、戦争の勝ち負けにつながることがありますが、民間利用の世界でも、
  結果がでるまでに時間がかかるだけで、アプリの不具合はビジネスの業績に連動します。そして日常使われるIT技術で最も上層部にIT技術の重要性が理解されていない
  のではないかと感じるのがマイナンバーカードです。マイナンバーカードを持っていればどのような民間のアプリも自分のユーザーIDで
  使用可能ですといえば、大人気になります。しかし、それとあわせて不正ログインなどの問題も明らかになります。マイナンバーカードの取得を
  強制にするという意見も出てきていますが、上層部の本音は、欠陥がわからないようにあまり多くの人が使わないようにというところに
  あるのではないかと思います。
  
  20年ほど前に、経産省が関係するIT技術の開発途上国への技術移転プロジェクトに参加したことがあります。日本にとって米国との貿易摩擦が重大な問題だった
  のは事実で、以前の通産省や経産省の人は大変苦労されたのでしょうが、IT技術について、新しい技術を開発するより、米国からの技術を導入して、
  とにかく揉め事をおこさないようにするという考え方で、プロジェクトには、通産省を定年退職した人もいましたが、開発途上国には
  最先端の技術より古い技術を移転すべきなどが議論の中心で、プロジェクトの進展に役立たないと感じました。現在では、米国の技術をとりいれて
  日本で最先端の半導体を製造するなど考え方はかわっているのでしょうが、新しいIT技術の原点として語られるスティーブ・ジョブズが
  ガレージで起業したスタイルは今のスタートアップに通じるものがあります。そして、スティーブ・ジョブズはソニー創業者の盛田昭夫氏を深く尊敬し、
  経営面や製品開発で多大な影響を受けました。自分は井深大氏ではないと思っていて、アップルにおける井深大氏は、スティーブ・ウォズニアックだった
  ことも、これから業種を問わずIT技術が使われるようになっていくなかで非常に参考になります。
  
  携帯電話で困っていることがあります。私の携帯は携帯電話会社のアプリを使うと通話が無料になるのですが、そのアプリに不具合があります。
  画面が消えている状態の時も着信があると、正常な状態であれば緑色のボタンと赤色のボタンが現れるなど画面が変わるのですが、着信音が鳴るだけで、
  画面に何も現れないことがあります。指紋認証で画面のロックを解除して、さらにアプリを起動すると、通知が現れるのですが、応答が真似合わないことがあります。
  端末を再起動すると、問題は現れなくなります。販売店に相談しても、再起動で解消するので問題ではないと言います。テキストメッセージの利用が中心で、
  あまり電話の着信はないので、めずらしく着信があった時、不具合が発生することがあります。そこで、どうしているかというと、
  週に1回、自分の固定電話から携帯電話に電話してみて、問題が発生したら端末を再起動することにしています。それで実際の着信の
  時の不具合の発生はほぼ完全に防ぐことができます。しかし、これが携帯電話ではなく、自動運転の車だったら、とても許容できないレベルです。
  これは、ひとつの技術がいろいろな用途に使われる時、用途によっては許容できる不具合も、他の用途ではとても許容できないことがある実例です。
  軍事転用可能な技術かどうかに限らず、IT技術やAIや量子コンピューター、半導体など最先端の分野の技術は、技術の規格などが公開されることが基本になると思います。
   
  日本は石油の備蓄があるので、問題が顕在化していませんが、アジアの国々で中東情勢の緊迫化に伴うホルムズ海峡の封鎖が原因で、
  物資不足の問題が顕在化しています。そして、米国の経済制裁を受けているキューバでは問題は深刻です。
  日本の外務省は、キューバに対し10億600万円の無償資金協力を行うと発表しました。島内の病院10か所に太陽光発電設備を設置します。
  キューバは現在、米国による事実上の封鎖で深刻な燃料不足に苦しんでおり、キューバ保健省によると、国内では燃料不足で緊急手術以外の手術は延期され、
  今年3月現在、9万6000人(うち1万1000人が子供)以上が待機しています。キューバの海外医療援助は有名で、中米などの国に医師を派遣しています。
  ところが、トランプ大統領の圧力で帰国せざるを得ない人が相次いでいます。表向きは、キューバから派遣された医師の給与が現地の医師の基準より
  低いので、人道上の見地から改善を要求しているそうですが、米国のベネズエラ侵攻以降、キューバだけでなく、中南米の国に各種の圧力をかけています。
  もっとも激しいのが社会主義国であり、ベネズエラから原油を輸入していたキューバに対する経済制裁ですが、
  今回の日本政府の対応は真に人道上の見地から高く評価されるものです。
    
  軍事用途の技術というと、兵器・武器を製作する技術が話題になりますが、ロジスティックス「兵站(へいたん)」も重要な技術です。
  現在では、ロジスティックスというと、「モノの流れ」を一元管理・最適化するプロセスを意味しますが、
  もともとは、前線部隊に武器・食料・燃料などの物資を安定的に補給し、戦闘力を維持・作戦を支える後方支援の計画と実行の全般を指すもので、
  ナポレオン時代から重視されていました。そういう意味では、ロジスティックスも、デュアルユース技術ということもできます。
  今回の米国・イスラエルとイランとの戦闘では、ホルムズ海峡の通行権を誰が管理するかが重要な焦点になっています。
  中東の原油が必要な中国は、中国とイランの鉄道輸送を増強しています。輸送量が少ないので、今回は真似合いませんが、
  潜在的に中国と中東の物流を増強する力をもっています。
  中国とイランの鉄道輸送の距離は、10,000kmで海上輸送より少し短いです。所要日数は2週間で、海上輸送の半分あまりです。
  運賃は鉄道のほうが、2〜3倍になります。中央アジアを通過する鉄道はそれほど近代的ではありませんが、中国はラオスやインドネシアの
  高速鉄道とともに、中央アジア方面の高速鉄道にも関心を持っています。リーマンショックの後から国内の高速鉄道の建設を始めて、
  1年に3,000kmの規模で、建設してきました。国内はさすがに建設候補のルートが無くなってきたので、
  アジア域内の建設に力をいれています。インドネシアでは採算性が問題になりましたが、将来の安全保障のために必要となると、
  中東方面の建設に力がはいる可能性があります。1年に3,000kmの規模で建設すれば、イランまで3〜4年で建設できます。
  平均時速、200kmの高速貨物鉄道なら、イランまで2日で到着します。航空貨物のかなりの部分が鉄道輸送になるるので、
  採算性も確保できますし、紛争時の物資の輸送にも使えます。米国が、第2次世界大戦当時に、南北アメリカ大陸の国々を結ぶ幹線道路網である、
  パンアメリカンハイウェイの建設を急いだように、今後中国が一帯一路の政策を強化する可能性があります。また中国はマレーシアでも
  高速鉄道の建設を進めています。今までの鉄道は半島の東西の海外沿いの路線が中心でしたが、高速鉄道は山岳地帯を横切って、
  東西の海岸を結ぶものです。高速旅客鉄道の運転が計画されていますが、マラッカ海峡の通行に支障をきたす事態になった時は
  貨物の通行も可能にしてあるはずです。
  
  最近AIの脅威に関連してクロードミュトスが話題になりました。これもまさにデュアルユース技術で政府や金融機関が入手しようとしていますが、
  サイバーテログループが入手すると、危険な技術になります。そして兵器・武器でなくても、通常生活の継続を不能にすることが、
  安全保障上も重要な戦略になっています。クロードミュトスのようなソフトで1度点検して終わりではありません。日常のシステムの運用が
  鍵になりなります。選挙の際に政治資金にかかわるスキャンダルの情報が広まることも重大な脅威です。
  そろばんで計算して、手書きの収支報告書を作っているから、サイバーテロ対策は完璧だと言って通用する時代ではありません。
  
  トランプ氏と習近平氏は、体格も顔も似ています。米中首脳会談の昼食会では、少し色合いは異なるものの、青系統のスーツに赤系統のネクタイでした。
  背の高さがわずかに違うのと、髪の色が違う以外はそっくりです。顔の表情も似ていました。しかし、ふたりは別人です、デュアルユースは不可能です。