各種のコラム --  3ー198 デジタル教科書は役に立つか?

                                      2026年5月20日  

    3ー198 デジタル教科書は役に立つか?
    
   デジタル教科書を2030年度に正式な教科書として解禁する方向で進んでいます。デジタル教科書が義務教育で有効に活用できるかどうかについて
  考えてみます。ミネルバ大学の創立者 ベン・ネルソン氏は、”オンライン授業がつまらない原因は形式(オンライン)にあるのではなく、従来の「講義中心(レクチャー)」
  という授業スタイル自体がつまらないからだ”と指摘しています。同じように、もしデジタル教科書がつまらないとしたら、それは教科書自体がつまらないからかもしれません。
  デジタル教科書が学力向上を阻害するという人の話を聞くと、デジタル教科書の内容が信用できないとか、紙の教科書で読んだほうがよく頭にはいるという、
  教科書自体の問題と、デジタル機器やネットワークの動きが遅いとか壊れるなど、デジタル機器の問題があります。
  義務教育におけるIT教育は、2020年頃の、子どもたちに向けて、1人1台の端末をはじめICT環境の整備を行い、多様な子どもたちを誰一人取り残すことのなく、
  公正に個別最適化された創造性を育む学びを実現するという、文部科学省が進めるGIGAスクール構想に沿って進められています。
  現在は、2030年度に向けたデジタル教科書解禁の動きと、導入から5年が進んで、故障や性能不足が目立ってきた端末などの機器更新の動きが進んでいます。
  日本の中央省庁が進める、IT関連のプロジェクトの特徴として、「1人1台の端末」など、ハードウェアーの整備から進めることが多くあります。
  GIGAスクール構想の初期には、指導する先生側のIT知識が不足していることも問題になりましたが、GIGAスクール構想でどのような教育を実現したいかではなく、
  まずハードウェアーの整備から進めるほうが予算を確保が容易ということが各種の問題の起源のように感じます。
  誰一人取り残すことないようにするためには、「1人1台の端末」の端末が必要ということになりますが、多くの子供が自然にIT機器を使いこなすようになるなかで、
  本当に必要なのか、指導する先生側の負担が大きいのなら、水泳の授業のように、専門のIT教育機関に依頼して、授業の時だけ、使えるような
  IT機器を用意してもらうなど、いろいろなやり方があったと思います。端末の種類は学校により異なりますが、ノートPCを使う学校もあり、
  カラー写真入りのりっぱな教科書とノートPCをランドセルに入れて学校に通うのは相当大変そうです。しかしIT機器があれば多言語翻訳は簡単なので、
  外国人の児童・生徒が多いなどの各校の実態に即して、活用方法を考えると有効に活用できそうです。私が義務教育を受けたのは、昭和の時代で、IT教育とは
  無縁でした。紙の教科書の内容もほとんど覚えてなくて、小学校の時のことで覚えていることはふたつです。担任の先生が病気などでお休みの日は
  校長先生の授業があったのですが、教科に関係なく、「早起きして、朝食をしっかり食べることが重要で、校長先生は、朝からすき焼きをたべる一方、
  夕食は軽めに食べる」という話がありました。その当時学校にいた人は、校長先生は朝ご飯は、すき焼きを食べて、晩御飯は、うめぼしのお茶漬けを食べると
  いうことは皆記憶していました。もうひとつは、ある時、給食のパンの納品業者が変わって、いちじるしく”まずく”なりました。保護者会で、
  もとの業者にもどしてくださいという意見がでましたが、担任の先生は「自分も、同じものを食べているので、事情はよくわかっています。
  飲み込むのに苦労するほどまずいです。しかし、業者を変えることはできません。食べるのが無理なら、家に持って帰って、とんかつやハンバーグを
  作るときのパン粉などにして使ってください」といわれました。それからもうひとつ覚えていることがあります。教室にテレビが導入されて、
  週に1回だけ、テレビを見る授業が始まりました。何の番組をみていたかは思い出せないのですが、学校が楽しくなって、世の中が良くなるような
  感覚になったのを覚えています。バッテリー内臓のノートPCをランドセルに入れて学校に通って、学校が楽しくなっているのかどうか疑問です。
  IT機器の操作は多くの子供が自然に覚えるので、本当に「1人1台の端末」が必要かどうか疑問です。それより、IT機器を使う授業は1日1回か2日に1回でも
  かまわないので、何か楽しい授業がひとつ増えたと感じるような企画、計画が重要です。
  
  文科省の令和5年度の補正予算案によると、都道府県に基金(5年間)を造成し、当面、令和7年度までの更新分(約7割)に必要な経費を計上し、
  都道府県を中心とした共同調達等など、計画的・効率的な端末整備を推進するとなっており、
  <1人1台端末・補助単価等>  補助基準額:5.5万円/台 を基準に予算額が決まっています。
  総額約2600億円なので、予算規模としては問題ないかもしれませんが、「1人1台の端末」のためのハードウェアーの価格を基準に
  GIGAスクール構想を進めることに問題がないか、GIGAスクール構想を進めることで どのような授業をおこなって、
  多様な子どもたちを誰一人取り残すことのなく、公正に個別最適化された創造性を育む学びを実現するということを文科省がどのように考えているのかは
  なかなかわかりません。そして、都道府県に造成される基金が、特定の関係者が役員にいるような企業の利益につながっているのでは無いことの
  監視が必要です。
  
  何をやりたいのか、どのようにしたいのかから考える必要があるというのは、多くの公共プロジェクトについて同じことを感じます。
  マイナ保険証にも同じことを感じます。最近、運転免許証や車検証などの書類に、ICチップがついています。健康保険証にもICチップをつける
  という選択肢をなぜ考えなかったのか、マイナンバーカードを保険証として使うということがどのような経緯で決まったのか、明らかになっていません。
  健康保険証の番号とマイナンバーの紐づけは、システムの中で事前に行われていたことで、マイナンバーカードを所有しているか、それを健康保険証として
  使うための登録をおこなっているかどうかとは無関係です。仮に健康保険証にICチップをつけるという選択をしていたら、従来通りの保険証で、
  車検証などと同じように、ICチップがついただけなので、受け入れ拒否する人はいません。病院の受付で、マイナンバーカードは預かることはできませんが、
  健康保険証なら従来通り預かることができます。カードリーダーの機器の不備で、受付が混乱することはありません。いつも来院する人なら、
  ICチップが読めなくても、健康保険の区分はわかるので問題ありません。従来の紙の健康保険証は他人のカードの使用が問題だったのですが、
  ICチップがついていれば、預かった保険証を必要に応じてマイナポータルの情報と連携できるようにしておけば、システムの顔写真と比較して、
  不正使用を防止することができます。病院の受付の人が、マイナポータルの情報を不正に利用するリスクは低いとして大丈夫です。
  何がなんでも、マイナンバーカードを保険証として使うということがどういう経緯で決まったのかが不思議です。そして、マイナ保険証の利点の
  ひとつが投薬の記録が参照できることですが、この情報がシステムに反映されるのは、翌月10日のレセプトの請求が行われた後です。
  そのために従来のお薬手帳の併用が呼びかけられています。これは、使う人の立場で考えるとき、致命的な仕様の欠陥です。
  お薬手帳の併用を呼びかけるのなら、カードリーダーが故障した時の対策として、従来の期限切れの健康保険証の携行も呼びかければ、
  カードリーダー購入のための補助金の予算を大きく削減できたかもしれません。
  
  民間のシステムでは、何をやりたいのかの基本的な目的は維持したまま、開発の途中で機器の仕様を大幅に変更することがあります。
  Suicaの開発は1990年頃から始まったのですが、基本のコンセプトは切符を買う必要がないとともに、磁気カードが機器につまるなどの
  問題を解決することでした。そして最初考えられていたのはタッチレス改札でした。しかし、開発は困難を極め、
  タッチレスでは誰が持っているカードに反応しているのかを区別できませんでした。開発が頓挫するかというなかで、考えられたのが、
  タッチ・アンド・ゴーでした。それからは基本的に順調に開発は進み、処理速度なども問題なく、結果的に、磁気カードやその他の異物が
  機器につまるというトラブルが激減しました。そして20年経った現在、タッチレス改札の実現に向けた開発が進んでいます。
  JR西日本などは顔認証、JR東日本はミリ波通信を使う方法で、東京メトロはBluetooth使う方法で、開発が進んでいます。
  UWB(ウルトラ・ワイド・バンド)を使う方法も開発がすすんでいます。Bluetoothというと、
  急いで開発したものの”けちょんけちょん”になったCOCOAが思い出されますが、あれは、Bluetooth LE でした。
  東京メトロのものは、どのような技術を使っているのかは知りませんが、Bluetooth 6.0 の技術では、電波強度ではなく、
  複数の電波の、「位相変化」と「往復時間」を測定することで、正確な位置の測定が可能です。
  今年ははしかの流行が問題になっていますが、COCOAのような感染者との接触を記録する考え方が、
  感染防止に役立つのかどうかの本来の目的に沿って考えるべきです。はしかの症状かどうかを素人が判断するのは難しいので、
  感染者との接触の可能性という、もうひとつの情報があれば、すぐに受診するなどの行動につながるような気がします。
  当初は予算獲得が目的化し、失敗すると話題にしないという考え方ではなく、そもそも何をやりたいのかに立ち返って、
  将来の感染症の際に有用だと思われるなら、COCOA2.0の開発を行うべきです。
  
  Google PixelのAndroid Desktopのような、携帯電話の画面を大型ディスプレーに、マルチ・ウィンドーで表示する
  機能が、一部のAndroid携帯で使えるようになりました。ノートPCの感覚で使うと、画面の自動ロックまでの時間が短すぎるなどまだ
  課題がありますが、GIGAスクール構想のIT機器更新の際も、文科省が予算を確保することと入札業者の選定が重要なのではなく、
  実際に授業を行う際に、どのような機器が便利かが基本になります。
  Android Desktopは、GIGAスクール構想だけでなく、オフィスのIT機器の使い方を大きく変える可能性があります。
  会議をすると、皆が、ノートPCを持って集まってくる会社が多くありますが、何をしているかは不明です。
  会議での話し合いを阻害しているようにも見えます。各自の携帯電話の画面を大型ディスプレーに、マルチ・ウィンドーで表示することで、
  会議の進め方を大きく変える可能性があります。
  Raspberry Pi(ラズベリーパイ)は、イギリスで誕生した手のひらサイズの教育用コンピュータ、またArduino(アルドゥイーノ)
  もイタリアで教育用に考えられたマイコンです。最近Arduino Ventuno Qというボードが発表されArduino Uno Qの
  21倍の性能がでるかどうかは不明ですが、開発ボード1枚で、Arduinoのスケッチを開発するための開発環境が稼働します。
  IT技術はビッグテックしか開発できないということではありません。私は、開発ボード1枚で、FPGAの開発や波形のシミュレーションができるようなものが
  できれば良いと思っています。
  
  中国で、最近ハーフマラソンで、ロボットが人間を上回る記録を出して注目されました。去年と比べると著しい技術の進歩です。
  まだラジコンのロボットのほうが自律走行のロボットより速いのでハンディーが加算されるとか、自律走行のロボットの人間のような一斉スタートは
  できないなど、課題はあります。さらに給水所ではなく、バッテリーを取り替える場所があるとか、ひっくりかえった時に、保冷剤が飛び出したロボット
  など、楽しめるシーンもありました。見ているとフルマラソン用のロボットや短距離走用のロボットもあるのかとか、リレーは可能かなのかなど、
  いろいろ想像が膨らんで、1988年に日本で高専ロボコンが始まった時のような活気を感じます。
  
  高市政権は、日本成長戦略会議を開催して、その中で官民投資の促進に向けて「重点投資対象17分野」を選定しました。
  複数年度の予算を制定して民間投資の促進を測るそうです。財投債(財政投融資特別会計国債)を発行するという話のようです。
  国が発行する債券(国債)ですが、財投債の発行収入は、財政投融資特別会計財政融資資金勘定の歳入の一部となり、歳出として財政融資資金に繰り入れられます。
  赤字国債など通常の国債との一番の違いは、償還が財政融資資金の貸付回収金によって賄われる点で、赤字国債など一般会計などの歳出の財源となり、
  償還が租税などによって賄われる通常の国債とは異なります。
  そのため、国際連合が定めた経済指標の統一基準に基づいた国民経済計算体系上も一般政府の債務には分類されず、「国及び地方の長期債務残高」にも含まれません。
  めでたしめでたしのようですが、財政投融資特別会計というと、20世紀に、赤字国債は悪だけれど、財政投融資は固定資産への投資といって、
  大量の郵便貯金や年金などの公的資金を投入したり、一般会計と特別会計について、小泉政権の時の塩川 正十郎財務大臣の
  「母屋でおかゆをすすっているときに、離れですき焼きを食べている」という名言もあって、何に融資してどのような収益が得られるのかが気になります。
  国会の予算委員会でも、審議時間や審議日程が話題になりましたが、それは国会議員本人には重要でも、聞いている我々には重要ではありません。
  予算案が一字一句変わらない物だとしても、どのようなプロジェクトに何をめざして投資するのかを聞いてみたかったです。
  その際に予算規模が重要なのではなく、何をめざしているかという担当者の言葉が重要です。10年ほど前、
  HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の導入に活用できる補助金のひとつとして、家で消費する電力量をリアルタイムで
  計測する機器の購入を促進するものがありました。文書を読むと省エネのための理想的な機器でしかも補助金で初期費用が実質無料になるので、
  導入しました。しかし、実際に使ってみるとまったく役にたちませんでした。家全体の消費電力量がわかっても、使うものは使うので、
  個々の機器の消費電力量を測りたいのですが、そのための付属品はひとつだけが補助対象でそれ以外は相当高額でした。
  各々の機器の実際の消費電力量がわかると、カタログのスペック値との違いを測定する人もいるので、補助金の範囲などを詳細に検討した
  結果でしょうが、結局、使う立場でいえば毎月の機器の使用料の負担が増えただけだったので、補助金返還の必要がなくなるまで使って
  使用をやめました。このような利用者の実態を無視したプロジェクトが増えるだけなら、国民経済計算体系の指標がどうこうではなく、
  何もやらないほうが良いと感じます。
  量子コンピューターも、重点投資分野のひとつですが、冷却装置が必要で大規模な装置になります。それに対して、
  ダイヤモンド量子センサーは常温で作動します。次世代MRIなどは、専門の開発機関で研究する必要がありますが、
  米国と英国に本部を置くQuantum VillageのUncut Gemプロジェクトのように、磁気センサーなどを回路図や部品表をオープンソースにして
  3万円程度での提供を試みる動きもあります。教育用のデバイスになる可能性があります。このような技術の裾のを広げる活動は、中央省庁の人が書類で審査するより、
  大学の先生のセンスで決めるほうが、将来の技術の種を見つけられることがあります。
  
  GIGAスクール構想であれば、皆が、決まったIT機器で決まったソフトウェアーの操作ができるようになるというような目標ではなく、
  どんな高度なセンサーがあっても、方向音痴の人は方向音痴だということがわかったり、
  自分が真剣に考えて作ったはずのプログラムが、動かしてみるとPCが大暴走したなど、何か記憶に残るような授業になる方が重要です。
  
  追伸)Epic Fury(壮絶な怒り)という言葉を最初に聞いた時、私には Epic Failureと聞こえて、変わった作戦だなと思いましたが、
  これは、私の英語のリスニングの問題でした。しかし名付けた人のセンスが疑われます。Project Freedomは名前は随分良くなりましたが、
  作戦そのものはすべて順調ではないようです。
  Ubuntu 26.04 LTSのコードネーム Resolute Raccoon はセンスも実態も良好のようです。
  また、Uncut Gemは研磨されていないダイヤモンドを意味します。