各種のコラム --  3ー185 行政のデジタル化は推進するか?

                                      2025年12月15日  

    3ー185 行政のデジタル化は推進するか?
    
   12月から、従来の健康保険証が使えなくなり、原則マイナ保険証に一本化されました。
  マイナ保険証は、医療デジタルトランスフォーメーションの基盤とされ、マイナンバーカードを使って各種の分野で、
  行政のデジタル化を推進するとされています。順調に進むでしょうか?私は順調にはいかないと思います。
  高市政権では行政のデジタル化は進まないと思う2つの理由をあげます。
  ひとつめは、高市 早苗首相は、党首討論で、企業団体献金の禁止に関して、「そんなことより定数削減を」と口にしましたが、
  企業団体献金の禁止も、定数削減も、政治にかけるお金を節約する趣旨だから、統一して議論しましょうと
  受け取れますが、業務にデジタル技術を利用したいのなら、これは通用しません。
  業務にデジタル技術を利用したいのなら、常に問題となったことを具体的に解決する手段を提供することを
  考えなければいけません。鉄道の話ですが、東北新幹線で、「はやぶさ・こまち」の連結が走行中にはずれるという事故が起きました。
  最初は、”こまちの車両製造時の切りくずとみられる金属片が原因”と発表されたのですが、2度の事故で、問題となった、
  連結器を開放するための回路が入った基盤はまったく同じものだったことがわかりました。最初の事故車両からとりはずされた
  部品のうち、解析の結果事故原因でないと思われた部品は、補修用部品として保存され、2回めの事故の車両にとりつけられたのです。
  2025年6月2日の、朝日新聞の記事で、「東北新幹線の2度の連結外れ 車両は別でも電気信号送る基板は同じ」と
  報道されました。そして、今回、JR東日本から発表があり、1 回目の事象の原因は、金属片による誤動作とは別に、
  2 回目の事象と同様に制御装置からの誤出力が原因であった可能性も疑われるとの結論に至りました。
  業務にデジタル技術を利用する場合は、徹底的に不具合の原因を調べ、まったく同じ不具合は二度と発生させないということを
  徹底しなければいけません。
  企業団体献金の禁止も、定数削減も、政治にかけるお金を節約する趣旨から、統一して議論し、政治資金に関する
  人間の意識が高まるから、しばらくは、政治資金収支報告書に関する問題は減少すると期待され、
  あわせて、「一票の格差」に関する司法の判決や、2025年度の国勢調査の結果が来年発表されるのを受けて、
  本来行うべき、選挙制度の改革の内容をうやむやにして一挙両得をめざすようなアナログ的な手法では、
  行政のデジタル化は推進しません。
  行政のデジタル化を推進するという方針のもとで、政治とカネの問題を解決しようと本気で考えるのなら、
  政治資金収支報告書をWebで公開することで透明性が高まると言っているような政治家や、インボイスの廃止を
  訴える政治家に期待しても無駄なので、民間の制度を活用すべきです。
  法人は法人税の確定申告書を提出します。企業団体献金は法人が政治家や政治団体に寄付するので、法人の
  会計帳簿に支出した相手と金額が記載されています。法人税の確定申告で支出した相手を秘匿すると、使途秘匿金として
  加算税が課されるので、税務署に対しては、ほぼすべて支出した相手を公表します。
  企業団体献金の禁止について1年間国会で議論して結論がでなかったら、2027年6月末に、
  法人税の確定申告の内容に基づいて、法人と政治家または政治団体間の取引のすべてを、デジタル・インボイスの形にして、
  国税庁が公表し、公衆の縦覧に供するとまず決めてから、議論をおこなえば、法人の数は全国で450万社くらいなので、
  すべてのxmlファイルをデーターベースに読み込んで、見やすい形に集計してくれる人がでてきて、業務にデジタル技術を
  利用する時代にふさわしい政治とカネの問題の解決方法が見えてきます。法人と政治家または政治団体間の取引の
  すべてが明らかになれば、政治家ごと、政治団体ごとの財務諸表を作成し、政党ごとの連結財務諸表を作成することが
  でき、民間企業の、資本金の額に基づく寄付金の上限について、関係会社を含む企業集団について、
  迂回寄付や政治家や政治団体への分散寄付の状況も明らかになり、附属明細表を作ることができます。そして
  作成した財務諸表と、政治資金収支報告書との差異を分析します。行政のデジタル化を推進するなら、
  まず隗より始めよで、消費税の軽減税率に関連して、中小事業者にインボイスを強要するのではなく、
  政治家と国税庁が、取引をデジタル・インボイスの形で公開すべきです。政治資金収支報告書をWebで公開するとか
  税制改正について、パブリックコメントのかたちで数多くの意見を聞き流したというようなひとりよがりのデジタル化でなく、
  世界標準のフォーマットでデーターを公開するという真のデジタル化を行えば、
  検察の力で政治とカネの問題の違法性を追求することはできなくても、
  民間の力で、透明性を確保することができます。
  
  ふたつめは、物価高対策として、自治体向けの交付金を拡充して「おこめ券」などで食料品の購入を支援することを決めたことです。
  すでに、「おこめ券には12%の手数料が乗っていてコスト面ではマイナス」と言う指摘があります。
  現在流通しているおこめ券は主に2種類あって、全国共通おこめ券:全米販(全国米穀販売事業共済協同組合)が発行と
  おこめギフト券:JA全農が発行するものがあります。表向きは、消費者向けの物価高対策であって、
  実際は選挙で自民党の支持母体となる、JA全農などが手数料を受け取ることができる、政策というのは、
  典型的なアナログ手法であって、行政のデジタル化の推進とは相容れません。
  
  高市政権で行政のデジタル化が推進するかとあわせて、財政や会計に関して大きな革新的な動きが起きるかどうか注目です。
  来年度の国の予算は8月の概算要求から始まるので、10月末に発足した、高市内閣に大きな革新的な動きを
  期待することには無理があって、税制調査会のメンバーを変えただけでも、変革の始まりかもしれません。
  しかし、2000年ごろに、民間上場企業で、連結財務諸表の重要性が増した動きに同調して、
  財務省による国の「連結財務書類」が、2000年度、決算分から公表されるようになった時には、
  公会計に大きな変革が起きるかと思いましたが、それ以降大きな動きはありません。
  今、国の公会計で一番時代遅れだと思うのが、単式簿記による記帳です。公会計に関わる人で、
  民間の複式簿記がわかる人でも公会計の単式簿記は理解できないという人がいますがそれは理論的に間違えてます。
  複式簿記の帳簿から、単式簿記の帳簿を作ることは可能ですが、逆はできません。複式簿記のほうが、
  単式簿記よりすぐれたシステムです。公会計で単式簿記が使われたのは、アナログで業務をおこなっていた時、
  会計の知識がない人でも記帳が出来るように考えられた仕組みで、行政のデジタル化を推進しようとする
  現在では、単式簿記が存在することに合理性がありません。
  失われた30年と言われますが、最初の10年間は、まだ、連結財務書類を公表しようというような
  変化を受け入れる気運があったのですが、20年目30年目となるにしたがって事態が悪化し、
  大きな変革を起こそうという動きが見られなくなりました。現在の高市政権はまだ期待だけで、
  となりの麻生副総裁と同じことを考えているのかという状況がみられますが、本領を発揮した
  改革がいつから見られるようになるか注目です。2026年の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」では、
  単年度のPB黒字化目標に固執せず、数年単位でバランスを見る方針への転換が明確化されるといわれていますが、
  そうなると、基金などの財政状況を、EDINETでも採用されており、有価証券報告書で使われている、
  Inline XBRL(iXBRL)形式で開示し、民間の人が容易に分析出来るようにすることが重要になります。
  また過去には、政府が財政支援したエルピーダメモリが、経営破綻後、米国マイクロン・テクノロジーに買収された、
  ことがありましたが、そのような際の買収額が適切だったか、政府の投資はどれだけ回収できたのか、
  経産省退職者に、米国企業への移動はなかったのかなど、これからはすべての情報を透明化する必要があります。
  そして、整備新幹線は、典型的な複数年単位でバランスを見る事業ですが、八戸〜新青森間が開業した頃は、
  建設費が1kmあたり50億円だったのが、20年後の今は150億円です。個人が家を買うとして、価格が
  3,000万円か1億円かでは、その後の経済状況が大きく変わります。整備新幹線事業も、
  高速道路のように永久に賃貸料を請求するというのなら、議論の内容を公開し、政策決定に、
  広く真にパブリックコメントを反映する必要があります。  
    
  アサヒグループホールディングスのランサムウェアーによる、サイバー攻撃はまだ影響が続いています。
  表計算ソフトと、FAXなど使って出荷などの業務が再開され、BCPとして機能しています。
  食品流通業界なので、FAXなどを使う、アナログ的な手法による、業務の継続がBCPとして機能しています。
  もし、都市銀行のシステムが、サイバー攻撃を受けたら、手書きの伝票とそろばんを使って、業務を継続しようとしても
  無理です。サイバー攻撃に対するBCPといっても、業界、業種によって実際に備えておくべきことは異なります。
  また今回の、アサヒグループホールディングスの対応はおおむね適切なようですが、私が問題だと思うことは、
  2025年9月29日に、サイバー攻撃により、受注・出荷・コールセンター業務が中止するより前に、
  攻撃者は10日間、密かに侵入や偵察を繰り返した形跡があることです。もし、この10日間のうちに気付いていれば、
  被害ははるかに小さくて済んだはずです。ただ10日間というのはけっして過去にサイバー攻撃を受けた他の企業と
  比較して長い方ではありません。
  以前に、キャンプ座間の在日米陸軍司令部でサイバーテロの監視をしている人の話を聞いたことがあります。
  その人の仕事は、警告システムがアラートをあげると、その部署の担当者に連絡をとって、問題が発生していないかを
  確認することです。部署の担当者とその人とその人の上司が納得するまで、本当に問題が起きているのではないのかの
  解析を続けなければなりません。ほとんどのケースは警告システムの誤報で、そうやって監視して、本当に
  サイバー攻撃を受けていたことは月に1回位だといっていました。かなり以前の話で、現在の警告システムは、
  AIを使って精度が格段に良くなっていますが、それでも、どんなサイバー対策のソフトウェアーを導入したとしても、
  常に監視する運用が必須であることにかわりありません。それだけ監視にお金をかけるかどうかは、業務の種類と、
  サイバー攻撃を受けた時の影響の大きさによって異なります。それから、サイバー対策用のソフトウェアーを開発
  できるほどのIT技術を持った人がいても、それだけでは、サイバー対策の運用はできません。
  自衛隊や警察で、実際のサイバー攻撃の摘発を行った人や対策の運用を行った経験がある人がいないと、
  高度のサイバー対策の運用はできません。
  
  業務の経験がある人がいないと、最適なシステムを構築できないのは、サイバー対策だけに限りません。
  どのようなシステムでも、IT技術を持った人だけでは最適のシステムを構築することはできません。
  20世紀には、アカウントSEなどと呼ばれる制度があって、若手のSEなどを中心に、お客さんのサイトに
  常駐していました。システムが業務のなかでどのように使われるかが理解できるという面では良かったのですが、
  どこのアカウントに派遣されるかで、あたりはずれが大きいのが欠点でした。ほとんど新しいシステムは購入しないのに、
  雑用ばかり要求するサイトもありました。弊害のほうが大きくなって、SEは、システム導入などの際をのぞいて、
  お客さんのサイトには行きませんということになりました。そして21世紀になって、クラウドの利用が広まってくると、
  SEはデーターセンターに居ることが多くなりました。クラウドの場合、システム自体は、IT企業が
  持っているので、何が起きているかは良くわかるのですが、なぜこのような業務を行うのかは
  なかなか把握できなくなりました。今、FDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれる
  顧客のビジネス現場に深く入り込み、自社製品やAI技術を使って業務課題の解決を支援するエンジニアが新しい仕事の
  形態として注目されています。IT技術と顧客のビジネス現場の両方に精通するというのは、常に課題になります。
  
  IT技術と顧客のビジネス現場の両方に精通するという観点では、マイナ保険証を企画している厚生労働省の人や、
  公金受取り口座の制度を企画している総務省の人は、どちらも理解していないという課題があるのでは
  ないかと思っています。地方自治体の業務のデジタル化の推進では、東京都が一歩リードしています。
  お金があるとか、宮坂学副知事のリーダーシップが優れているとかいろいろ理由はあるでしょうが、
  東京アプリという東京都公式アプリの配布などが行われています。その「東京アプリ」を活用した15歳以上の都民に
  1万1000円分のポイント(東京ポイント)を付与する時期が、「速やかに実施する」とれているものの、
  具体的には明言されていません。全員に抜けなくポイントを付与するというのは、素人が考えるより
  難しいようです。逆に言うと、東京都の担当者は少なくとも、何が課題になるかについては、中央省庁の人より
  くわしく理解しているといえます。ガバメントクラウドに関連して、地方自治の経験の無い、中央省庁の人が
  企画するのではなく、東京都のガブテック東京の活動を中心として、地方自治体の会議体で企画・立案するなど、
  一時期、日本維新の会が提案していた、道州制の実現なども含めて革新的な改革が期待されます。
  現在の副首都構想は、住民投票で否決された大阪都構想を再度ゴリ押ししようとしているようで、新鮮味がありません。
  ガバメントクラウドについては、地方自治体の業務のデジタル化の推進を基本として、もっと革新的な発想を
  盛り込む必要があります。