各種のコラム --  3ー179 給付付き税額控除!!?

                                      2025年10月10日  

    3ー179 給付付き税額控除!!?
    
    
   自民党総裁選でも、給付付き税額控除が話題になりました。また8月25日に、自民、公明、立憲民主3党の幹事長、政調会長が
  国会内で会談し、減税と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」に関する協議を始めました。
  石破 茂総理の意向ならもう少し早く決めたほうが良かったような気がします。
  まず、所得税の納付税額の計算の手順を見てみます。
  最初に各種所得の金額を計算します。この段階で、給与所得なら給与所得控除額が控除されます。年収の壁に関連して
  年収103万円以下の勤労者は、課税対象となる所得から、基礎控除48万円と給与所得控除55万円の合計である103万円を引くと、
  ゼロあるいはマイナスとなるため所得税が課税されないという言う時に登場するものです。なお、令和7年度税制改正が
  令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税について適⽤され、給与所得控除について、
  55万円の最低保障額が65万円に引き上げられ、基礎控除額については所得税法第86条の規定による基礎控除額58万円に、
  改正後の租税特別措置法第41条の16の2の規定による、合計所得⾦額によって異なる加算額を加算した額となります。
  懸賞や福引きの賞金品などの一時所得であれば、収入を得るために支出した金額と 特別控除額(最高50万円)
  を加えた額が控除されます。さらにその2分の1の金額を総所得金額の計算に使用します。
  例えばラジオ番組の懸賞金で1万円が当たったとしても、50万円未満なので、課税されません。
  しかし、ものすごくラッキーな人がいて、毎週当選して合計が52万円になると、課税の対象になることがあります。
  10種類ある各種所得の金額を合計して、総所得金額を計算します。
  株式譲渡所得などは、申告分離課税といって、総所得金額とは無関係に、皆に一定の税率が適用されます。
  総所得金額の計算に続いて、医療費控除、社会保険料控除、基礎控除などの所得控除額を控除して、
  課税総所得金額を計算します。課税総所得金額に超過累進の所得税の税率かけて、所得税額を計算します。
  所得税額から、税額控除額を控除して、納付税額を算出します。税額控除の代表的なものは、
  住宅ローン控除です。ここに新規の税額控除を設けて、所得税額が、新規の税額控除額に未たない人には
  差額を給付しましょうというのが、給付付き税額控除制度の概要です。
  給付付き税額控除は、「税額控除を基本として、控除額が所得税額を上回る場合には、控除しきれない額を現金で給付する」
  (平成22年度税制改正大綱)制度で、2009年秋に誕生した民主党政権の下で、検討が進められていました。
  それ以後実現することはなかったのですが、私は導入に賛成です。
  
  野党は消費税減税を参院選の選挙公約にする党が多くありました。経済評論家のなかにも消費税減税が
  経済活性化の切り札という人がいますが、私は疑問です。
  会社員などの人の平均給与額は、480万円位です。そこから、所得税、個人住民税、厚生年金保険料、健康保険料
  などの控除があり、手取りの額は、家族構成などにより異なりますが、350万円位です。
  貯金はしないすべて消費するという人がいたとしても、居住用住宅の賃貸料、医療費、車の任意保険料など、
  消費税非課税の支出がかなりあるので、消費税が課税される支出は、200万円位です。
  消費税がいっさい課税されなくなっても、消費税の負担額は20万円、減るだけです。
  それに対して、所得税、個人住民税などの租税公課の金額は、100万円以上なので、制度が変われば、
  10万円〜20万円負担額が減少する可能性があります。
  給与を受け取ったら、受取総額と租税公課の額の明細に注目すべきです。銀行口座の明細で手取り額だけ
  確認する人がかなりいます。物価高対策の必要性が話題になりますが、手取り所得が増えるなら、
  ハイパーインフレではない通常のインフレはそれほど問題になりません。
  住宅ローンの支払利息の増加は問題ですが、インフレの状態だと、20年後などの、借入金の額面残高は
  多くても、感覚的な残高の負担感は軽減されます。インフレは絶対にダメだというのではなく、
  手取り所得を増やすための、設備投資、リスキリング、租税公課の制度を考える必要があります。
  
  所得税の源泉徴収は日本独自の制度というわけではありません。アメリカでも源泉徴収されます。
  イメージですが、所得税に関して日本にあってアメリカにないのは、年末調整です。アメリカでは、所得税の
  確定申告のことを、tax returnと言います。動詞としてのreturnには、
  「(当局などに)報告する、申告する」という意味があるそうですが、アメリカ人のなかには、
  確定申告することで、源泉徴収で取られすぎている税金の一部が返却されるからという人もいます。
  日本の年末調整は効率的な制度であったことは間違いないでしょうが、e−Taxの時代になって
  様子が変わってきました。給与所得者が確定申告することで、租税公課の負担額に対する関心を高める必要があります。
  さらに個人住民税は、所得税の確定申告書の、第二表の住民税該当欄に記載された事項に基づいて、計算されます。
  そのために、確定申告書が3月に提出された後、用紙が地方自治体に送付されて6月に個人住民税の
  賦課課税の納税通知書により徴収されます。給与所得者であれば、所得税は当該年度の予定の年収に基づいて源泉徴収され
  個人住民税は、年末調整や確定申告書により確定した所得に基づいて、所得税の1年後の6月から特別徴収されます。
  所得税と個人住民税で徴収がほぼ1年ずれているので、岸田 文雄前総理大臣が行った、4万円の税額控除を
  所得税3万円、住民税1万円の形でおこなうと、事務手続きが煩雑になります。今年の8月頃からはじまった、
  定額減税調整給付金(不足額給付)で市町村の手続きでミスが発生したのは、制度自体が複雑だからです。
  確定申告書の第二表を市町村に送付するというアナログ的な方法から、行政がデジタル化した方向に移行しているので、
  e−Taxで申請があった時点で、所得税額と個人住民税額を計算するとか、当該年度の予定の年収に基づいて
  所得税とともに個人住民税の源泉徴収を行い、給与所得者も確定申告を行うことで、最終的な納付税額、還付税額の
  計算をするなど新しい事務処理の方法を考える必要があります。
  そのために、所得税法や地方税法の改正が必要なら、それを行い、組織についても、所得税は国税庁、税務署
  個人住民税は、総務省、地方自治体という仕組みを改め、財務省から主税局の機能を切り離し、
  米国の内国歳入庁のような組織をつくり、社会保険料を含むすべての歳入の徴収業務を行うことも考えるべきです。
  内国歳入庁のような組織の新設については、民主党政権の時に一時話題になったことがありましたが、
  すぐに立ち消えになりました。
  
  新しい自民党の総裁に高市 早苗氏が選ばれました。私は自民党員でないので投票できませんが、
  高市氏が新総裁になることに反対でした。保守的だからではありません。過去に総務大臣だった時の行動からです。
  2016年の、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返した場合、放送法4条違反を理由に電波停止を命じる可能性に言及した
  こともありますが、2020年4月コロナ禍の際の、特別定額給付金の給付の際に、マイナンバーカードと
  マイナポータルを使った申請を承認したことです。
  基本となる郵便による申請書の配布は、世帯単位での申請が基本でした。そこで、マイナポータルからの
  申請でも、世帯主が世帯の給付金を申請する形式をとりましたが、マイナンバーカードで直接に、
  世帯主かどうかを確認することはできません。住民票の記載で確認できます。そして、郵便による申請書と
  マイナポータルからの申請を統合して管理するのはアナログ的な方法に頼るしかなく、
  市町村によってはマイナポータルからの申請を受け付けないところもありました。
  実際、マイナポータルでの申請が受け入れられたのかどうかはっきりしないので、念のために申請書も
  送ったために2重の給付になり、返却のためにさらに事務処理が増える結果になりました。
  そして、マイナポータルからの申請でも振込先口座の確認書類(銀行の通帳など)の画像を
  添付する必要があり、マイナポータルの公金受取口座の機能はまだない時期でした。
  マイナポータルの宣伝に使えるという思いつきで、特別定額給付金の給付の手続き全体を理解することなく、
  アナログ的な方法にデジタル的な方法を付け加えて、行政手続の混乱を招く人は、
  行政がデジタル化される時代に指導者としての基本的資質を欠いています。総務省の職員から提案があったとしても
  アナログ的な方法とデジタル的な方法は混ぜるな危険と即座に判断できるITのセンスが必要です。
  
  2009年に家電エコポイント制度が行われたとき、Salesforceのクラウドを使って、
  短期間で準備が整ったことが話題になりましたが、エコ家電を買った人が、デジタルで申請するという、
  制度全体の業務処理が簡潔で合理的な仕組みであったことが優れた点でした。
  
  最近国勢調査が行われ、オートロックのマンションなど、調査票の回収率の低下が問題になっていますが、
  このような時こそ、アナログ的な方法に加えてマイナンバーカードを利用したデジタル的な方法の利用を
  検討すべきでした。実際は、事前のカラー印刷のポスターにも制度を周知するための
  2次元バーコードがあり、調査票の封筒のなかに、実際に回答するための2次元バーコードがあり、
  ユーザーIDとパスワードが書いてあるという、特殊詐欺行為を増やすようなデジタル的な方法でした。
  2次元バーコードは便利ですが、アクセスする前にURLを目視確認できないので、
  偽サイトへの誘導が問題になります。国勢調査こそ、マイナポータルの利用を促進する絶好の機会でした。
  画像つきで国勢調査の回答をすれば、5年毎のパスワードの更新のために、役所の窓口に行く必要がないなどの
  恩恵があればかなりの人がマイナポータルを利用しそうです。
  給付金の給付では、ひとりでも給付の手続きを間違えると、訂正しなければなりませんが、
  国勢調査であれば、基本的なアナログ的な方法で今までのような統計データーは得られるので、
  マイナポータルを利用したデジタルの方法が失敗しても黙っていて次回改善するための資料にすることができます。
  
  小泉 進次郎氏の陣営でも、ステマ広告が問題になりました。総務・広報班を務める牧島かれん元デジタル担当相
  の事務所から自作自演メールが送られました。牧島氏は事務所が行ったことで、自身がおこなったのではないとしていますが、
  このような提案があった時点で、SNSの利用方法を根本的に間違えていると指摘する、ITのセンスが必要です。
  SNSは面と向かっては発言しない人の本音を拾い上げるために利用すべきで、
  過激な発言を拡散するために利用すべきではありません。
  牧島氏が、デジタル担当相だった時に「“できるはず”のデジタルやテクノロジーを活用した世界に向けて、
  それを阻んでいる法令を一斉に変えていく」と言いましたが、4万以上ある法令をすべてチェックしたところ
  その阻んでいる条項は約5,000にものぼるということで、ほとんど何も進みませんでした。
  ITのセンスを持っていないと、なにか考えても、役人の人が困難ですというデーターを持ってきた時、
  対抗できません。あるいは、省庁の関連団体に利益をもたらすだけの、多くの利用者にとって利益を
  もたらさない企画を承認することになります。高市氏から、給付付き税額控除について、制度設計を
  開始するが、いろいろ調査する必要があり実施までには数年かかるという発言がありました。
  つまり自身の自民党総裁の任期中には行わないということです。給付付き税額控除の実施のためには、
  税法の概要や徴税の業務あるいは、徴税に関連するITシステムについて概要を理解していないと、
  自民党税制調査会の「インナー」と呼ばれる人や、財務省の人とまともな議論ができません。
  総理大臣は他の大臣とは異なるので、財務大臣の人事などで指導力を発揮する機会があるでしょうが、
  やはりITのセンスを持っていないと、ITシステムのソフトウェアは目に見えないので、
  積極財政というと、一般の利用者には役に立たない、関連団体や関連企業などが儲かるだけの投資に
  なるリスクがあります。
  
  国立病院の経営が悪化しており、多くの病院で赤字が出ています。それに関連して、黒字を維持している
  病院では、電気代、水道代などの費用を各部門に配賦して、部門ごとのコストを管理するなどの
  工夫をしているというニュースがありました。それを聞いて、他の病院ではそんな基本的なことも
  やっていないのかと驚きました。製造業で、組立ラインをもっているような工場では、
  製造間接費を合理的な基準を用いて各製品や部門に割り振るのは常識です。そうしないと、
  正確な製品製造原価の計算ができません。さらに材料費、労務費、間接費などの原価を、
  あらかじめ統計的・科学的に設定した目標値(標準原価)に基づいて計算する標準原価計算を行い
  差異を分析するのも常識です。国立病院では、ほとんど管理会計は存在しないのかというのが大きな驚きでした。
  マイナ保険証の病歴の確認に、もっとも信頼性があって詳細な電子カルテのデーターではなく、
  レセプトのデーターを使っていて、多くの病院では、レセプトの集計は業務の流れのなかでの日次処理ではなく、
  翌月10日の提出期限前に特別に時間をとって行っているという話を聞きます。
  会計やITのセンスを持った人を取り入れて、世間で常識とされる経理方法をおこなう必要があります。
  政治資金収支報告書の虚偽記載についても同じで、裏金問題が発覚した人を再び要職に起用するか
  どうかの議論ではなく、会計の透明性の確保は世間では常識になっているという認識が必要です。
  
  鉄道の話になりますが、運転台のある車両には、速度発電機と呼ばれる、車軸に歯車がついていて、
  回りにコイルが巻いてあって、車軸の回転数に比例した周波数の出力信号を得て、運転台に速度を表示
  していますが、JR総研で、この出力信号の振幅を測定すると、台車枠に対する輪軸の左右偏倚が測定
  でき軌間拡大などの線路の異常を検出できることがわかりました。従来から使われている装置でも、
  センサーの精度が向上し、新たな分析方法を見つけることで、保守業務の効率を上げることができます。
  行政も同じで、すでに公開されているデーターについて、あらたな分析方法を考案することで、
  新しい有用な統計データーが得られることがあります。安全保障についても、新たな防衛機器も必要ですが、
  世界中に公開されているデーターを常に分析して将来の情勢を予測することが重要です。
  
  また、自動運転の機能を装備してワンマン運転やドライバーレス運転を行うための研究・開発が進んでいます。
  横浜線の電車で、東神奈川より先の根岸線に乗り入れる区間で、自動運転を実施することになりました。
  なぜ根岸線の区間でのみ自動運転を行うかというと、根岸線には全線にわたり踏切が存在しないからです。
  自動運転の機能を使ってのワンマン運転なら、踏切で危険が発生した時には人間がブレーキをかければ
  良いような気がしますが、過去の実績や将来の計画を勘案すると、自動運転を行うのは、
  踏切が存在しない線区と決まっているようです。また、根岸線を走る京浜東北線の電車ではなく、
  まず、横浜線の電車で自動運転を実施するのは、横浜線の電車のほうが編成数が少ないので、
  早く装着の工事をおこなうことができ、試験をしてから、他の電車にも装着するようです。
  
  最近、東急田園都市線で、回送列車に営業列車が衝突する事故がありました。
  本来は引き込み線へ移動する列車の最後尾が完全に引き込み線へ入るまで本線の列車を走行させてはいけないのに、
  システムの「条件設定が抜けていて」、営業列車に赤信号が表示されなかったのが原因でしたが、
  2015年に設定されてから今日まで気づかなかったということです。
  この事故はデジタル処理の特徴を表しています。デジタル処理にミスはありませんが、アナログ処理のように状況を
  把握して処理しているわけではありません。生成AIなら問題が解決するかというとそうもいきません。
  現在の生成AIは出題範囲が公表されている入試問題に対応できる程度のレベルです。
  最初画像を見た時は、回送列車が本線側に脱線しているように見えたので、衝突の前から脱線していたのかと
  思いましたがそうではありませんでした。しかし、事故原因の調査についてもこれで終わりではなく、
  列車防護無線がどの段階で起動したのか、なぜ営業列車に列車防護無線が届かったのかも調査しなければなりません。
  
  行政のデジタル化の関連でも、マイナ保険証が認識されなくても、診療費が事後的に正しく修正されれば
  一応納得できます。しかし、マイナンバーカードを使用して他人の住民票が出力されたら、
  個人情報保護の観点で、回復できません。さらに、マイナ保険証で表示される病歴がもし他人のものだったら、
  命にかかわることで、もっと重大な事態になります。行政の指導者や政治家は、ITシステムの専門用語に
  惑わされることなく、事態の本質的問題を見抜いて原因調査などの対策をとる必要があります。
  現状や発生が想定される問題の本質を理解して、プロジェクトをどのような方針で実施するかを計画する必要があります。
  その際、ITのセンスが必要となる場面が増えます。
  USBのA端子や、USBのType−CとThunderboltの違いなどの
  知識は、知らなければ誰かに聞けば済む話で、政治家が知らなくても良いことですが、
  行政を始めとして業務をデジタル化するために、ITシステムやAIシステムをどのように活かすべきかの
  センスは必須です。