各種のコラム --  3ー178 自動運転関連の予算

                                      2025年10月1日  

    3ー178 自動運転関連の予算
    
    
   毎年8月末は、翌年度予算概算要求の時期です。国土交通省は、自動運転関連で、自動運転トラックによる
  幹線輸送実証に前年度予算の約40倍の、3億1,300万円を要求しました。自動運転に本気で取り組んでいる
  というより、去年までの予算が「少なぁ」という印象です。自動運転関連の予算は他にもあるので、
  「少なぁ」ではないかもしれませんが、経産省が、ラピダスに、累計で1兆8,000億円程度支援しているのと
  比べても、 アルファベットが、子会社である、自動運転タクシーの、ウェイモに累計で、
  1兆6,800億円出資しているのと比べても、3億1,300万円は、「少なぁ」という気がします。
   
  国の予算を含めて、自動運転関連のいろいろな話題をとりあげます。
  大阪・関西万博の自動運転バスが、自動運転中に縁石に接触する事故を起こしたり、八王子市で自動運転の実証実験中の
  バスが道路脇の街路樹に衝突したり、事故の写真だけみると、突発性方向音痴になったような印象で、
  日本の自動運転は大丈夫なのかと不安になります。
  すべての車が高速道路だけでも自動運転になると、逆走事故はゼロになるなど、交通事故の減少に大きな効果が
  あるので、自動運転技術を積極的に推進すべきです。
    
  自動運転ほどではなくても、盗難防止のために遠隔でエンジンを止める機能のように、建設重機では当然となっている
  機能が、一般の車には装着されていないなど、日本の自動車が品質世界一といわれるわりに、
  本当に必要な機能が装着されていないものがあります。
    
  地方創生の面でも、移動手段の確保は重要な項目です。とりあえず実証実験を行うという取り組みではなく、
  完全な自動運転までのロードマップを決めて、効果が把握できるような取り組みが必要です。
  必ずしも、予算を増やすということではありません。1949年に当時の運輸省が、軽自動車の規格を定めた
  ことが日本の自動車産業の発展に大きな役割を果たしたように、ロードマップを示すことです。
  法律的な自動運転の際の責任の分担も定める必要があります。
  基本的に自動運転だけれども、必要な際に人間が介入するというのは、現実的には不可能です。
  旅客機のパイロットのように、常に専門の訓練を受けている人なら可能でしょうが、
  一般の人は運転免許証は持っていても、自動運転に慣れてしまうと、運転技術が退化します。
  事故の回避のための手段について自動運転と人間が異なる事を考えて、介入がより悪い結果を招く可能性もあります。
  20世紀に電子制御燃料噴射装置が広まり始めた頃、アクセルを操作していないのに、突然エンジンが
  高回転で回りはじめるという事故がありました。電子制御燃料噴射装置に使われた8ビットマイコンの能力不足で、
  16ビットマイコンになって事故はなくなりましたが、事故原因の解明や自動車メーカーの責任が不明確でした。
  事故の責任は運転者にあり、ギアをニュートラルにしてブレーキをかければ、事故は回避できたといっても、
  突然エンジンが全力で回転を始めるだけで驚くので、そのような冷静な対応は不可能です。当時、近所の人で、
  ディーラーの人が訪ねてきて、10年近く使った車を、この車はプレミアムがついていてどうしても引き取りたいので
  といって、かわりの新車と現金を渡したいといわれたので喜んで取引に応じたという人がいましたが、
  自動運転になると、電子制御燃料噴射装置とは比較にならないほど、機械と人間のかかわりが複雑になります。
  一般道路では、例えば横断歩道の前で立ち話をするなど通行妨害も考えられます。
  政府の自動運転推進のためのリーダーシップとロードマップの作成が必要です。
  東海道新幹線にN700系が登場したのは、2007年です。N700系は700系より起動加速度が高いのですが、
  それをフルに活かしたダイヤになったのは、営業列車から、700系が退場した2020年3月です。
  山陽新幹線の「こだま」にもN700系が登場しますが、ダイヤ改正が完成するのは、相当先になりそうです。
  自動運転の車についても同じことが言えます。道路設備の改修や法律の整備とあわせて進める必要があり、
  自動運転の車のメリットを受けられるようになるまでには相当の期間がかかります。
  在来線でも地上の信号を使うのではなく、無線通信で列車の位置情報を通信することで速度を制御する
  仕組みの次世代信号が広まりつつあります。地上の信号用のケーブルなどが不要になるので、
  保線の際の障害が取り除かれますが、あわせて次世代信号の大きなメリットが、列車の位置と速度をピンポイント
  で正確に把握できるので、踏切の閉塞時間を短くできます。そして、踏切にも無線通信の設備が取り付けられるので、
  遮断器が閉じたかどうかを通信で知らせることができます。40年近く前に踏切の遮断器が閉じていないのに
  列車が通過して事故が起きて以来、いろいろな対策はとられてきましたが、次世代信号で完全な対策がとられる
  ことになります。自動運転の車についてもコネクティッドの機能で、信号の時間を調整するとか、
  横断歩道に人が居ることを通信で知らせるなど、総合的な交通安全対策や渋滞防止対策を企画・立案する必要があります。
  自動運転の車は、自動車だけの技術でとらえるのでなく、鉄道のように、道路などの地上設備と、車両を一体として
  考える必要があります。アメリカの自動車を輸入しない日本には貿易障壁があるという人がいますが、
  これからは、鉄道がATSのタイプによって走ることができる区間が制限されるように、
  トランプ大統領が来日しても、キャデラックで移動することはできず日本の軽自動車を利用しなければ
  ならなくなるかもしれません(??)日本の車を輸出する際にも同じ状況になります。
  省庁間の壁を取り払って、一丸となって望む必要があります。
  高度化PICS(Pedestrian Information Communication Systems)
  を装備した信号を整備した交差点が全国に増えています。歩行者用信号機に限らずこれを自動運転の車を含めて
  展開して、道路交通全体の円滑化に活かす号令を待つのみです。しかし、マイナ保険証のような間違えた号令
  もあるので、利用者本位の注意した展開が必要です。
  
  9月25日にトヨタ「ウーブン・シティ」が開業しました。また日産が「AI=人工知能」が市街地の複雑な交通状況を判断して、
  ハンドルやブレーキを制御する新たな運転支援技術を公開しました。ケンブリッジ大学発のスタートアップ企業が
  持つ技術を使っています。前者は、特定のエリアでの自動運転などの検証をおこなうために、街ごと作ろうと
  するもので、後者はどのような場所でも、利用可能な自動運転車をつくろうとするもので、
  ともに非常に画期的な取り組みです。政府が特定の企業を金銭的に支援する必要はなく、
  法律の整備などの社会の仕組みの整備で支援すべきかもしれません。自動運転というと、必要な際に人間が介入する
  というジェスチャーとして、運転席に座った人が、ハンドルから少し離れた位置に手をそえるのが定番ですが、
  広く自動運転の車が広まった時にそんなことをする人が居るとは思えないし、あれで本当に介入できるのかも
  疑問です。飛行機はプロのパイロットでも、機種ごとに操縦できる資格が異なります。操縦できる機種なら
  事前練習はしますが、世界中どこでも行くことができます。鉄道の動力車操縦者運転免許証は、
  蒸気機関車、電車、内燃動車等の区分はありますが、例えば鉄道線の電車であれば、どのような形式の電車でも
  運転できます。しかし、自分が担当する線区以外の運転はしません。担当の線区が決まったら、まず
  信号の位置をすべて暗記することから始めます。このような運転の特性の違いも、自動運転を
  決まったエリアのタクシーから始めるのが効率的か、自家用車として、どこにでも行くことができるのを
  めざすのが実用的かなどの研究のヒントになるかもしれません。スタートアップ企業が生成AIを使った
  自動運転の技術を持っていても、実際の車に搭載したり、自動車会社が持つテストコースで
  危機回避の実験などを行わないと実用化できません。鉄道の自動運転は鉄道会社の線路で走らせないとテスト
  できません。自社のオフィスなどで簡単にテストできる技術とは性格が異なります。
  負けが混んでいる日本のIT技術やAI技術の起死回生の切り札になるかもしれません。
    
  道路整備では、2車線の国道が渋滞する区間で、4車線の国道のバイパスと、暫定2車線の高速道路の工事が
  始まりますが、どちらも用地買収が簡単な区間から行うので、2車線の国道がもっとも渋滞する区間は、
  いつまでたっても何も改善しないことがあります。結局4車線の国道のバイパスと、正式な4車線の高速道路の工事が
  完了するまで10年20年にわたって、ほとんど問題が改善していると感じられないことがあります。
  さらに、完成後、4車線の国道のバイパスと、4車線の高速道路が必要な程の交通量ではないと感じることがあります。
  公共工事は、できるだけ短時間で効果が把握できるような方法で進める必要があります。また、道路整備では、
  工事関係者などの利害関係ではなく、利用者の便益を最優先に考える必要があります。
  土地の価格も、1月に国税庁から発表される、「路線価等」とそれに関連して地方自治体から発表される
  固定資産税評価額があります。そして7月に、国土交通省から発表される、「公示地価」の地価動向
  と、地方自治体から発表される「地価調査」があります。「路線価等」は相続税の課税のために、固定資産税評価額は
  固定資産税の課税のために使われるものであり、「公示地価」と「地価調査」は、
  公共工事のために土地を買収する時に基準となる価格なので、価格は大きく異なります。
  しかし、調査は各地の不動産鑑定士の人が行っています。
  「路線価等」はすべての地域が発表されるわけではなく、私が住んでいるような土地価格が安い地域は、
  倍率地域といって、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けた地価が相続税の資産価格の算定に使われます。
  しかし、それぞれの価格だけでなく、どこの土地をいつ調べたというようなメタ・データーを付与して
  保存のフォーマットを決めれば、すべての価格を1回の調査で得られるのではないかと思います。
  不動産鑑定士の人が暴利を得ているというような話ではなく、省庁間の縦割の壁を廃して、
  公共の福祉のために利する信頼性のあるデーターを安価に得るための仕組みを考える必要があります。
    
  電車に側灯がついています。側面についている赤いランプで、扉を開けると点灯します。扉を閉めると
  ランプが消えて、電車が出発する前に、「側灯滅」と確認しているライトです。
  これが、電車の全幅に含まれるかどうかは、一般に含まれません。電車は回りの設備とぶつかると大変なので、
  電車の側には車両限界、設備の側には建築限界が決まっています。40cmの余裕を取ることになっているので、
  問題ないのですが、地下鉄ではこの余裕が20cmなので、問題になることがあって、
  地下鉄に相互乗り入れする車両で、側灯を含めての全幅か側灯を除いての全幅かでもめることがあります。
  それなら、側灯を側面でなく、屋根の上につければよいのではないかと思いますが、そうもいかないようです。
  自動運転の車のような新しい仕組みを取り入れようとする時も、実際に行うと予期せぬ問題が発生することが
  あります。現在のタクシーのモバイル予約アプリでも、GNSS(GPS)の位置情報を使うと、
  道路の反対側で待っていることになって、修正するのに苦労することがあります。
  およそ20年前、アメリカのクラウドシステムが広まっていた頃、技術的には日本でもやろうと思えばいつでも出来る、
  さらにモバイルの世界では日本の技術が世界一だと言っていました。しばらくしてリーマンショックがあって、
  日本のIT技術の進展は大きく遅れをとり、モバイルの世界でも、iPhoneなどが、
  世界標準になり、日本の携帯はガラパゴスと呼ばれるようになりました。
  自動運転でも、カリフォルニア州などでは、自動運転のタクシーが実用化され多くの人が利用しています。
  やろうと思えばいつでも出来るは通用しません。実際に実用化することが重要です。
  
  電気自動車は、テスラを中心にガソリンエンジンの車を置き換える勢いだったのですが、
  トランプ大統領が登場した頃から、事情がかわり、日本のハイブリッド車の人気が復活しています。
  電気自動車関連のパワー半導体の研究・開発も勢いを失っていますが、ハイブリッド車も電気自動車も
  モーターで駆動します。電池やパワー半導体やモーターの研究・開発は継続すべきです。
  注目の技術のひとつがインホイールモーターです。車輪と一体となったモーターで駆動する技術で、
  現在のようにひとつのモーターの力を駆動装置で伝達するのと違って、車輪毎の駆動力を細かく制御できます。
  道路から車への振動などは、基本的に伝わらないほうが乗り心地が良いのですが、運転している人には
  ある程度伝わったほうが運転しやすいことがあります。インホイールモーターになるとこのような
  細かな制御が可能になります。さらに鉄道分野でも大きな可能性を持っています。40年程前に、
  東北新幹線が大宮までだった時にJR東日本が大宮まで、新幹線でそこから在来線に乗り入れる電車が
  できないかと考え車軸が不要になるインホイールモーターが有利だと考えて、試作車両をつくりました。
  これは大失敗だったので、試験は中止になりましたが、そのあと、モーターの技術が大きく進歩したので、
  再び注目されています。新幹線と在来線の「フリーゲージトレイン(軌間可変電車)」は両者で
  車輪のフランジの角度が異なることもあって、成果が得られませんでしたが、在来線の
  「フリーゲージトレイン(軌間可変電車)」は可能性があります。例えば、計画中の蒲蒲線や、
  近鉄で京都から吉野へ行くには、橿原神宮前駅で乗り換えが必要になってますが、直通運転の可能性が出てきます。
  さらに底床式の路面電車でも使われる可能性があります。底床式の路面電車では車軸があると、そこだけ高く
  なるので、左右の車輪を独立にして、直角カルダン駆動方式という特別な駆動方式を使う場合がありますが、
  インホイールモーターだと機構が簡単になります。また通常の電車でも、左右の車輪が独立になれば
  半径の小さなカーブで車輪がすべってキーキーという音が軽減されます。
  インホイールモーターだけでなく、レアメタルを使わないモーターなど、技術開発は継続的に行うべきです。
  さらに電気自動車関連で、ゲームチェンジャーになり得るのが、走行中の車への無線やレーザーを利用した
  給電です、電気自動車がパンタグラフから給電を受ける電車のようになるので、軽量化されます。
  また、パンタグラフは騒音源になるしパンタグラフの擦り板も架線もメインテナンスが大変なので、
  電車のゲームチェンジャーになる可能性もあります。ただ、バッテリーにも革新的な変革が起きるかもしれないので、
  全体の技術動向を見極める必要があります。
  
  最近、政府が策定するAIの基本計画の骨子案が明らかになりました。また安心安全で日本社会と調和する
  国産生成AIのエコシステム構築に向け、基本合意が締結されました。
  まもなく、新しい総理大臣になるという時に決めるより、もう少し早く決めたほうが良かったような気がしますが、
  言語学や政治学など、従来あまりAIが利用されていなかった分野でのAI利用の推進が重要だと、私は思います。
  今の生成AIは好みの方言でしゃべるように指定することができますが、例えば、言語学では、
  少数民族の言語や方言が失われていく現象と、若者言葉や、あるいは英語でも、イギリスからアメリカ
  オーストラリアなど、使われる国によりバリーエーションがあったり、世界の共通語として外国語として英語
  を学ぶ人のなかで、新しい言葉や話し方が増加していく現象がありますが、どちらが支配的なのかあるいは相互の
  関連性はどうなのかという時、現在は、本や論文を分析することが多いですが、生成AI同士に会話をさせて、
  高速度に実験することが可能になるかもしれません。第二次世界大戦中に、日本で外来語を使わなくなり、
  戦後は英語が急速に広まった様子や、外来語を使わないという命令の一方で、ドラマに出てくる兵器などの
  技術開発や、土木工事で最新技術をアメリカから導入して英語が使われていた状況が、書物の解析や
  当時を知る人の話だけでなく、生成AIの上で実験やシミュレーションができれば、研究が進むと思います。
  経済学でも、こうすれば貧富の格差が拡大して、あなたは、徹底的に貧乏になり、
  落ち込みますといわれてその予測が的中したとしても、私はまったく
  歓迎できません。生成AIを個人や企業にみたてて実験するなど、従来はあまり実験が用いられていない
  分野で、広範囲で実験がシミュレーションが可能になるのではないかと思います。
  それ以外の分野でも、記録データーとして保存する時と、AIのトレーニングのための教師データーとして使用し
  因果関係を明らかにするために利用するときではデーターの時刻の正確性に対する要求の次元が異なることが
  あります。いろいろな分野の専門家に広く意見を求めて、国産生成AIのエコシステム構築に活かす必要があります。
   
  ITやAIというと、リスキリングが話題になりますが、USB端子がわからない国会議員の人がリスキリングを
  受けたとしても効果は期待できません。
  それよりも、手書きの政治資金収支報告書を提出するとか、情報公開で墨塗りの文書を提出する
  カルチャーを変える必要があります。墨塗りの文書の墨塗り部分の文字数は確定しているので、BERTの 
  MLM(Masked Language Modeling)やNSP(Next Sentence Prediction)
  の技術で元の文書を再現する能力は格段に進歩しています。そのような技術の動向を考慮せず、
  税金を使って、墨塗りを行い、公式に元の文書を公表しないことに意味があるという判断を変える必要があります。
  第2次世界大戦の時、イギリス軍がドイツ軍の暗号を解読したことで戦局が大きく変わりました。生成AIの時代に
  なって、どこの国の人も日本語を簡単に使えるようになっているので、情報公開で墨塗りの文書を提出するような
  カルチャーを変えないと、安全保障の分野でも大きな遅れをとります。