各種のコラム --  3ー175 「みどりの窓口」の問題

                                      2025年8月15日  

    3ー175 「みどりの窓口」の問題
    
    
   最近の2〜3年で、JR各社で「みどりの窓口」の廃止が進んでいます。
  しかし、それにかわる自動券売機や、モバイルアプリも不人気で、「みどりの窓口」に長蛇の列ができることが問題になっています。
  JR東日本では、夏休みの期間一部の「みどりの窓口」を復活する動きもみられました。
  いろいろな手続きで、なぜ窓口に出向く必要があるのか、オンラインでできないのかが問題になることもありますが、
  指定券の購入に関しては、対面の窓口の方が人気のようです。
  対面の窓口が人気なのか、自動券売機やモバイルアプリが不人気なのかは、相対的な判断になりますが、
  今回のコラムでは、対面の窓口か自動券売機か、さらに範囲を広げて、
  人間が対応したほうが良いのか、AIが対応したほうが良いなかなどについて考察します。
  
  各種の問い合わせ窓口で、電話がつながるまでの待ち時間が長くつながってもたらい回しになるなど、不満が多く、
  AIを使った、チャットを開始すると満足度が向上したという話が多くあります。
  会社の中のあらゆる事務手続きを周知している人はいないので、AIのほうが優れていることが多くあります。
  そのようななかで、対面手続きを希望して「みどりの窓口」に長蛇の列ができるのは、モバイルアプリで購入した
  指定券の発券方法がJR各社で異なるなど、どうすればよいかわからないことが、
  「みどりの窓口」に行けばとりあえず解決して、指定券が購入できるからのようです。
  最初に「みどりの窓口」ができたのは、国鉄がMARSシステムを導入して、全国の列車の指定券が購入可能に
  なった頃です。最初のMARS1のシステムが導入されたのが1960年で、それ以来システムの更新を重ねています。
  最近では、2004年にMARS501が稼働しました。この頃から、駅だけでなく、家からも空席状況を確認したり、
  指定券を予約する機能が強化され、朝の9時55分から10時まで「みどりの窓口」が閉まるというのも
  順次なくなりました。それ以前のシステムでは、1ヶ月前の朝10時から指定券の発売を始めるために、
  データーベースに登録するために、一旦すべての業務を停止していました。それで「10時打ち」という言葉が生まれました。
  さらに2020年に現在使われているMARS505が稼働しました。
  システム稼働率99.999%を維持しながら、毎年実施されるダイヤ改正対応、新線・新駅開業等の制度改正対応をはじめ、
  JR各社のインターネット販売、チケットレス乗車等の施策に対応するための機能増強がおこなわれ、
  更には、インバウンド需要拡大への対応および、JR各社の駅業務効率化を実現するため、
  MV端末から遠隔地にいるオペレータと接続し窓口サービスを可能としたアシストマルス端末機能も導入されました。
  駅にある指定席券売機(MV端末)にオペレーターが遠隔でサポートを提供する機能がついているため、
  「みどりの窓口」並の機能が提供され、「みどりの窓口」を廃止しても問題はないというはずだったのですが、
  大問題が発生しました。まずMV端末のボタンが多すぎて、どのボタンを押せば何ができるのかがわかりません。
  それから、遠隔地にいるオペレータの人は「みどりの窓口」に居た人などで、指定券の販売に関する知識は十分だった
  のでしょうが、自分が発券するのと、一般の人が端末を操作するのを聞き取った情報をもとに
  サポートするのとは別だったようです。
  「みどりの窓口」を会社とお客様との接点と位置づけてもとどおりの数に戻し、
  指定券の販売に限らず、旅行案内業や宅配便の預かりや、郵便局や携帯電話ショップなど、駅にあればいいなと
  思うような業務をおこなうというような方向から総合的に検討する必要がありそうです。
  
  携帯電話ショップも事前の予約が必要になるなど、混雑が問題になっています。私はガラケイの頃は携帯電話ショップ
  を利用していましたが、スマフォになってからは、Simフリー端末を購入して、オンラインで契約の手続きを
  しているので、現状はくわしく知りませんが、携帯電話会社の各種の問い合わせ窓口やサポートの窓口が
  混雑しているので、予約して携帯電話ショップに行くほうが便利だという話も聞きます。
  
  窓口の話とは異なる鉄道の話になりますが、新幹線の夜行列車を導入すると話題になると思います。
  新幹線に寝台列車を導入しようという動きは1970年代にもありましたが、夜間は保線をおこなうために
  列車を止める必要があり、実現しませんでした。最近JR東日本から新しい夜行列車の計画が発表されました。
  今常磐線で特急として使っている車両を改造するものです。
  新幹線も、車体や台車は現在と同じもので、内装だけ夜行列車用に改造し、午前0時から6時までどこかの駅で
  停まっているのなら、実現可能かもしれません。インバウンド旅行客用のホテルの価格が高騰し、
  ビジネスホテルの価格も高騰しているので、高速バスより室内が広い夜行列車の需要はありそうです。
  午前0時から6時までどこかの駅で停まっていて、羽田空港を朝一番にでる飛行機より早い
  朝7時に目的地に到着するという仮定で、ダイヤを考えてみると、
  東京から博多まで現在5時間かかるので、6時間加えて、11時間かかります。朝7時に博多に到着
  するには、20時に東京駅を出発する必要があります。同じ考え方で、広島行は、21時6分発
  岡山行は、21時47分発になります。現在サンライズ瀬戸・出雲は、東京を21時50分
  に出発して、岡山に6時27分に着きます。新幹線の夜行列車のほうが岡山到着が30分程遅いのですが、
  岡山が目的地の人は、朝7時到着で十分です。サンライズ瀬戸・出雲の車両は走り始めてから27年経っているので、
  新幹線の夜行列車に置き換えるというのもひとつのアイディアです。
    
  リニア中央新幹線の試験車両に中間車が一両追加されました。アルミ車体で無塗装で、抵抗を軽減するための
  サメ肌フィルムを貼っています。アルミ車体で無塗装というのはトンネルを走るから可能で、新幹線ではできないのかも
  しれませんが、サメ肌フィルムを貼って空気の渦の発生を防ぐと走行抵抗が減って、騒音防止にも効果が
  あるのではないでしょうか。
   
  ドクターイエローの一本が引退しました。ドクターイエローが行っていた検測は営業列車でおこなうようになります。
  検測のうち、7両編成のドクターイエローのうち1両だけ屋根の白い車両が行っている軌道の検測がどのように
  行われるかを見てみます。軌道の検測には軌道の間隔の測定と、軌道の上下・左右方向の歪みの測定があります。
  軌道の間隔の測定は、軌道の間隔の長さの木の棒を持って、決まった距離ごとに軌道の間隔が正しいかどうかを
  測定していました。現在も第3セクター鉄道で昼間、ふたりひと組で線路を歩きながら、測定しているのを
  見たことがあります。軌道の上下・左右方向の歪みは、レール上の等間隔の3点の相対変位を不整量と定義する
  「正矢法」(せいやほう)という方法で、測定します。専用の車両の両側にある10メートルの長さの棒
  を基準として、両端の車輪を結ぶ直線に対して、中央の車輪がどれだけ変位しているかを軌道の上下・左右方向の歪み
  として測定していました。なぜ10メートルの長さの棒かというと、世界的に歴史的にこの方法で
  行われていたからです。以前は客車を改造した専用の検測車両があって、3点の車輪・車軸から、ワイヤーと
  リンク装置でつながった、記録計の紙に、変位量を記録して、グラフをみて判定していました。
  東海道新幹線も開業当初は、基本的にはこの原理で測定していたのですが、ゆっくり走る必要があって、
  邪魔になるので、開業から数年経った頃、ドクターイエローが導入されました。ワイヤーとリンク装置でつなぐ
  のではなく、レーザー光を当てて、車体からレールまでの距離を測定していますが、
  車両の両側で10メートル間隔の距離をとり、さらに中央で測定するという測定原理は変わっていません。
  車両が直線であることが測定の基準になるので、1両だけ屋根を白色にして、熱膨張の影響を防いでいます。
  測定装置を車両の両側の3点に取り付ける必要があります。JR東日本のEast−i も同じ方法で
  測定しています。これが問題になったことがあります。東日本大震災の時、東北新幹線が普通になり、
  East−iが仙台の車両基地に閉じ込められて測定できなくなりました。
  ドクターイエローは2編成あるのに対して、East−iは1編成なので、East−iの全般検査の際は、
  軌道の検測を行う中間車だけ予備車があって、E2系の列車に臨時に組み込んで検測していましたが、
  予備車も閉じ込められました。
  測定装置が車両3点に取り付ける必要がある大きなものだったのと、車両が直線であることが測定の基準になるので、
  他の車両にとりつけて正しい測定がおこなわれるかどうかが問題になりました。
  そこで、JR総研が開発していた軽量なひとつの装置だけで測定が可能な装置を使うことになりました。
  加速度センサーとジャイロセンサーを使う方法という最初の発表を聞いた時、車両の振動を測定する
  新しい基準に変更したのかと思いましたが、軌道の上下・左右方向の変位を測定するという基準は変わりませんでした。
  正常かどうかの判定基準は、継続して使わないと過去のデーターとの比較ができなくなり、判定基準自体が
  正しいかどうかわからなくなります。加速度センサーの値を2回積分すれば変位になりますが、
  両側のレールの上下・左右方向の変位が同じとは限らず、またカーブでレールにカントがついた区間もあるので、
  車両の台車の変位に対する左右それぞれのレールの変位はレーザー光で測定し、基準となる台車の変位は、
  加速度センサーとジャイロセンサーの信号を積分して解析する方法の開発は、困難を極めたそうですが、
  デジタル信号処理技術の発達により「慣性正矢法」と名付けた新しい方法での測定が可能になりました。
  軌道の検測の話には、業務にデジタル技術を活用する時考慮すべき事がいくつも含まれています。
  最初は、軌道の上下・左右方向の変位を測定するという基準自体は変更していないという点です。
  基準を維持しないと過去のデーターとの比較ができず、何が基準かわからなくなります。あたりまえのようで、
  見逃しがちな点で、新規に導入した、デジタル測定装置が正常と表示しているから問題ないと判断するのではなく、
  測定装置がどのような原理で判断しているかを検証する必要があります。
  センサーの信号を処理するようなシステムは、稼働前に設定して、ネットワークとはつながないで
  運用するのが、以前の常識でした。外部からの侵入を防ぐためです。しかし、測定データーに異常が
  あった場合すぐに通報するほうが良いので、データーをネットワークで伝送する仕組みをとりいれることが
  一般的になりました。そうすると、SDVに代表されるように、システム自体の更新もネットワーク経由で
  行うほうが効率が良いという考えが支配的になりました。しかし、ネットワーク経由で、不正な侵入がないように、
  ユーザビリティーとセキュリティーの両立を考える必要があります。車のITシステムに関してADAS(先進運転支援システム)
  と室内のマルチメディアなどの情報系は、銀行の勘定系と情報系のように独立したシステムに
  するのかと思っていましたが、ひとつのSoCにまとめる流れになるようです。
  消費電力を考慮するとこのようになるようです。
    
  最近カムチャツカ沖地震で日本にも津波が押し寄せました。ニュース番組で検潮所(験潮場)の海面水位の変化のグラフを表示していました。
  ヘリコプターからの画像だと、津波か高波かは判断できませんというレポートが多かったのですが、
  グラフでみると1メートル程度の津波が記録されており、通常の波との違いは一目瞭然でした。
  検潮所では潮位の測定をするために井戸にワイヤーで吊り下げたフロート(浮き)を浮かべています。
  この細い井戸がローパスフィルターの働きをするので、単純な原理で、津波の海面水位の変化を測定できます。
  この場合は、判定基準だけでなく、測定方法も以前からの方法を踏襲しています。
  測定データーの伝送は、現在はデジタルネットワーク技術で各地のデーターを素早く集約してます。
  
  最近公務員がマイナンバー法違反の容疑で逮捕されるという事件が発生しました。住基ネットなど複数システムを業務目的外で使い、
  延べ40人以上の親族を不正に扶養控除に加えるというもので、自身の業務用のPCで、
  親族の戸籍謄本を職務で使うとする虚偽の書類を作成し、市長公印が、職員単独で使える状態だったため、
  不正に戸籍謄本を入手しました。さらに、戸籍謄本に記載された個人情報を
  市役所の住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)に入力し、親族のマイナンバーを把握、
  親族の扶養状況を確認し、延べ40人以上を自身や妻の扶養家族として申請していました。
  結局所得税の控除などで約215万円を不正に得ていたそうです。申請書類を作成した人が、単独で市長公印を
  使うなど不正のオンパレードでしたが、公益通報窓口に内部告発文書が届くまで、住基ネットシステム使用状況の
  内部監査などはなく、公務員は善意で業務を行うという前提だったそうです。
  明らかに、セグリゲーション・オブ・デュティーズ(職務分掌)の内部統制に欠陥があります。
  職務分掌の基本として例示されるのが、経理と財務の分離です。実際に現金を扱うのは財務の仕事で、
  帳簿に記帳するのが経理の仕事です。
  公務員は善意で業務を行うという前提があったというと、なぜそのようなことがと思いますが、
  会社法では、取締役の解任や代表取締役の解職の規定がありますが、政党によっては、任期中に
  総裁を解任するのはほぼ不可能に近く、選挙に負けたら自分から辞任するものだと思っていたということもあります。
  民間企業でも、スタートアップ企業で売上の9割が循環取引などによる不正計上だったという事件が発生しました。
  会計士監査でも発見できなかったそうです。20年程前にもいろいろな会社で会計不正が問題になり、
  内部統制の制度ができました。しかし、会計不正を見逃した会計士の責任も問われるようになり、
  企業側が組織的に不正を行っており、監査ではまったく気付く機会がなかったという抜け道を
  利用するために、おかしいかもしれないという事象を調べなくなったという弊害もありました。
  AI監査を広めて、AIがおかしいかもしれないと言った事は、とにかく人間が調べるなど、
  監査の手順を変える必要がありそうです。刑事事件でも、裁判で無罪判決がでることを防ぐために、
  防犯カメラに犯行が記録されているなど、確実に有罪になるものだけを起訴するようになったことが、
  体感治安の悪化につながっているという指摘があります。確実に有罪になるものだけを起訴するというのは
  冤罪を防ぐという観点からも重要なのですが、AI捜査を広めて、AIがおかしいかもしれないと言った事は、
  とにかく人間が調べるということも必要になるかもしれません。ただ大統領が弾劾されるような国では、
  権力者が自分の任期中に自分に不利になるかもしれないAIの開発を禁じることも考えられるので、
  事態は複雑です。
  
  最初に取り上げた、「みどりの窓口」の問題も、MV端末あるいはモバイルアプリをAIがサポートするということも
  考えられます。あるいは、急激に削減したために問題が発生したので、現在の計画で基本的には問題ないのかもしれません。
  ニュースをAIの自動音声で読むという時、ラジオの株価や気象通報など、音声だけのほうが
  広まっているようです。ヒューマノイド・アナウンサーがニュースを読むという試作もありますが、
  一般的には広まっていないようです。
  デジタル技術AI技術が業種を問わず、いろいろな場面で使われるようになるので、
  業務の基準は守られているのか、手順は維持すべきか一部に新しい手順を導入すべきか、
  人間が対応すべきか、AIの力を使ったほうが良いのかなど、生活のいろいろな場面で考慮する機会が増えます。
  最近ChatGPTがバージョンアップして、わからないことはわからないと言うようになりましたが、私は
  間違えてるかもしれないけど、あきらめずに提案するのが結構好みでした。人間なら言わないだろうという
  ような回答からアイディアが浮かぶことが何回かありました。
  AIがどんなに進歩しても、人間の仕事として残る分野を探して、人間とAIが争うという世界になるかもしれませんが、
  ドラえもんとのび太のように、得意分野、不得意分野がまったく異なるものが
  共存する世界もあるように思います。