各種のコラム -- 3ー172 ガバメントクラウドの現状
2025年7月20日
3ー172 ガバメントクラウドの現状
行政のデジタル化で常に話題になるのが、マイナンバーカードとガバメントクラウドです。
マイナンバーカードについては、最近iPhoneへの搭載が話題になりましたが、使用開始の
デジタル大臣によるデモンストレーションが、コンビニで住民票を印刷するというものでした。
マイナンバーカードの配布が始まっておよそ10年経っていますが、その間メリットとして話題になるのが、
常にコンビニで住民票が印刷できることです。それ以外の機能が無いというわけではなくて、
税金の確定申告に使う人もいますが、常に持ち歩いているという人はわずかです。
一方のガバメントクラウドは、国の省庁や自治体の業務に使用するために、それぞれ独自のシステムを使っていたのを、
政府情報システムに合わせたセキュリティ評価制度がある統一のクラウドシステムにするものです。
現在は、それぞれの市町村が独自のオンプレミスのシステムを利用していたり、近隣の自治体が参加する
自治体クラウドを利用していたりしますが、2025年度末までに、ガバメントクラウドへの
接続と移行を行うことになっています。それ以降、自治体クラウドはやめてしまうわけではなく、併用するのかもしれません。
そのガバメントクラウドへの接続と移行が予定より遅れており、ガバメントクラウドへの移行でシステムの
管理費用が3割削減されるはずが、実際は2倍にも3倍にもなっていることが問題になっています。
ガバメントクラウドは、去年一部が改正された、「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」に基づいて
推進されています。コンビニで住民票を印刷するというように一般の市民の人が利用するものでは無いようですが、
地方自治体の人の業務が具体的にどのように変わるかがはっきりしません。
市町村独自のオンプレミスのシステムでは、自然災害などの際のBCPに課題があるので、
クラウド化が必要なのは確かですが、全国共通のガバメントクラウドが良いということを、デジタル庁は
地方自治体の人や一般の人に説明する必要があります。地方自治体の人が現状のシステムで課題を抱えており、
早くデジタル庁が提供するシステムに移行したいという要望があるのなら、話は別ですが、
接続と移行のために業務が増加し、しかもシステムの運用費用が増加する懸念があるなら、
一度立ち止まって考え直すべきです。一度動き出すと止まれない公共工事の典型でガバメントクラウドが
進んでいるとしたら大問題です。計画当初よりは相当円安になっていて、毎月従量制で支払う
クラウドの使用料金も高くなっているはずです。コストの見直しをして情報を公開すべきです。
中央省庁が行う施策は、一般の利用者に恩恵があるものは具体的にどのような恩恵があるか説明すべきです。
地方自治体の業務の効率化のために行う施策は、地方自治体で業務にあたっている人が納得できるように説明すべきです。
年限を限ってガバメントクラウドへの接続と移行のための補助金を支出するという、進め方を見直して、
まず、国の中央省庁のシステムをガバメントクラウドに移行するという進め方が良いと思います。
デジタル大臣が、コンビニで住民票を印刷するデモンストレーションを行うだけでなく、
自分が使っている中央省庁のシステムがガバメントクラウドに移行した結果、何がどのように便利になったのかを
実体験で語るようになれば、地方自治体の人にも、そこまで言うなら自分もやってみようという機運がうまれます。
中央省庁がシステムを構築する場合、中央省庁が運用することはまれで、地方公共団体情報システム機構(J−LIS)の
ような外部団体がシステムの運用を行い、海外製のクラウドシステムを使う場合、海外の会社と直接交渉する
ことはまれで、日本のクラウドシステムインテグレーター(CSP)がシステムの設定などを行います。
現在なら翻訳ソフトが使えるので、海外の会社とデジタル庁の人が直接交渉すれば良いと思いますが、
外部団体とCSPの人の会議は、過去には日本語で行っているのに、構築するシステムのことを技術的に理解している人
が出席しても、何を議論しているのかわからないような事がありました。
業務用のコンピューターが使われるようになったのが、80年位前で、最初はホストコンピューターが使われていました。
1980年ごろからPCが使われるようになり、ホストコンピューターは一時期過去のものになるといわれました。
1995年にWindows95が発売された頃、ホストコンピューターと端末の構成に変わって、
PCによるサーバー・クライアントシステムが流行しました。しかし、当時のPCサーバーだけでは性能が十分で
なかったこともあり、PCによるサーバー・クライアントシステムにさらにホストコンピューターを加えた
構成などが考案されましたが、複雑なシステムになって問題が発生したシステムもありました。
そのうちに2、000年頃からクラウド・システムが登場し、多くがクラウド・システムとPC端末という
構成になりました。ガバメントクラウドへの移行もその流れが続いているといえますが、
PCが登場して20年位経ったころに、それまでの上昇あるのみだった流れがかわり、クラウド・システムが
登場したように、クラウド・システムも登場から20年経って大きく変わるような気がします。
最近Gemini CLIが登場してさらにAIクラウド・システムの発展が加速されそうな勢いですが、
そのような時こそITシステムの流れが大きく変わる時です。私の個人的な予測なので、はずれるでしょうが、
ガバメントクラウドがクラウド・システムの流れが変わる前の最後の時期に計画されたように思います。
リース会計の基準が変更になるので、民間のオフィスでは、10万円未満のIT機器を組み合わせるのが、
トレンドになりそうですが、公共システムは会計基準が異なるので無縁だということではなく、
そのような民間の動向を常に注視すべきです。
量子コンピューターの、量子ビット(キュービット)は重ね合わせや量子もつれがありますが、従来の
シリコンコンピューターはゼロか1です。そして1xゼロx1x1はゼロです。
これは業務をデジタル化する時考えなければない重要な点で、業務をアナログ的に行っていた時は、
全体の進行状況と、何が問題かがわりと誰でもわかるのに対して、業務をデジタル化すると
何か一つ条件を満たして無くても、結果がゼロになってどこに問題があるのかがわからないということが
多く発生します。これを防ぐには、ITシステムの仕様だけでなく、業務全体の仕事の流れを
関係者皆が共有することから始めなければなりません。20世紀に、一般の利用者が使うものではなく、
全国の行政職の人がオフィスで使うことを想定したシステムで、大規模システムのため、それまで事務機器などを
納品していたメーカーが元請け事業者となり、いくつかの日本のコンピューターメーカーが
SIerとして、2次下請け事業者となって実施したプロジェクトがあったのですが、
元請け事業者の人は、PCを一度も使ったことがないというような状況で、大問題が発生して、
開発中止になったプロジェクトがありましたが、ガバメントクラウドは関係者が多いという点でも、
よほど関係者のすべての人の理解を得て進めないと、同種の問題が発生するおそれがあります。
後になって考えると、開発中止になったプロジェクトは、PCサーバーとホストコンピューターを接続するのに、
TCP/IPではなく、メーカー独自仕様のホストコンピューター用の通信プロトコールを使うという
数年間だけ主流だった方法を使っていました。さらに、PCによるサーバー・クライアントシステムの
接続も、イーサーネットではないものがあるなど、ある程度プロジェクトが進んだ段階では、
かかわっているITエンジニアは、根本的に設計変更しないとプロジェクトは完成しないというのが
共通認識になっていたのですが、当時の大蔵省と国税庁の「無謬主義(むびゅうしゅぎ)」に元請け事業者の人が
従ったために、コンピューターメーカーの中でも、トラブルが発生するシステムにかかわったほうが、
取締役など上層部の注目を引くというような人がかかわり、技術的には何をやっているのか
わからないような状況になりました。
最近、OTC類似薬の保険適用除外が話題になっています。
医師の診察を受けて処方される、医療保険が適用されるOTC類似薬の価格が、OTC医薬品の価格の
10分の1以下であることが問題となり、OTC類似薬への保険適用を除外することが検討されています。
診察を受ける立場で見ると、OTC類似薬の処方は、医師の診察が前提なので、
3割負担として1、000円ほどの自己負担額になる、初診料を払います。
医療機関での待ち時間なども考えると、自己診断でOTC医薬品を購入するというのも選択肢のひとつにはなります。
この件では保険適用除外がもっぱら問題になりますが、OTC類似薬とOTC医薬品がほとんど同じものなのに
これほど販売価格に差がある理由やそれぞれの製品製造原価なども検討すべきです。さらに、初診料が
3割負担で1、000円ほどということは診察料は3,000円程ということですが、
内訳は何でしょうか。新しく診察券を作るだけで3,000円かかるということではないと思いますが、
医療費全般について議論するきっかけにしなければなりません。
地方自治体の人が日々の業務の中でガバメントクラウドクラウドへの移行を喫緊の課題として認識していないのなら、
プロジェクトを推進するとしても、2025年の期限にとらわれることなく、毎年の予算を削減する
ことも考えられます。今、情報通信技術を活用した行政の推進を考えるなら、民間と一体となって
自動運転やロボット技術を推進するほうが、社会に大きな影響を与えるように思います。
自動運転は、地方の公共交通機関をどのように維持するか、高齢者の交通事故をいかに防ぐかなど、誰が考えても
緊急の課題です。中央省庁だけでなく民間企業も含めて、クルマの技術のなかでソフトウェアーの重要性
が増してくる時に、どのような開発体制にするかを考えなくてはなりません。
以前、日本で品質改善活動が盛んだった頃、コンピューターメーカーの社員として、自動車メーカーの社員の
人と意見交換したことがあります。コンピューターメーカーでは事業所が違って作る製品が違うと、
ほとんど技術的な話に共通点が無いことがあります。同じ製品を作っていても、
ハードウェアーの人と、ソフトウェアーの人では、お互いの技術的な話がほとんど理解できないことがあります。
それは全社的な品質改善活動を進めるにあたっての課題になると言ったところ、
自動車メーカーの人の反応が、「うちの会社はどこを切っても自動車なので、基本的にコミュニケーションの
問題はありません」と言われたのが非常に印象的でした。最近は意見交換の機会はないのですが、
SDV(ソフトウェアー・ディファインド・ビークル)の時代になっても自動車メーカー全体が理解しているのか、
機械設計とソフトウェアー設計の人の間では、話が通じないのかに興味があります。
デジタル技術でいろいろな事業部を横断するOne Hitachiをめざすというのも新しいやり方で
興味があります。
クラウドシステムは、日本にも運用している会社がいくつかありますが、世界的に有名な会社は、米国や中国の
会社です。それに対して、自動車メーカーは、日本の自動車メーカーがトップのなかのひとつです。
クラウドシステムに限らず、コンピューターやスマートフォンでも日本のメーカーの存在感は低いのですが、
SDVはゲームチェンジャーになるかもしれません。一方で、リスクもあって、
日本の自動車メーカーの存在感が低下するかもしれません。自動運転をどのように進めていくか、官民一体で
考える必要があります。素人考えですが、通常の情報処理と比較して、自動運転の場合、リアルタイム性が必要ですし、
OTAでソフトウェアーのバージョンアップができるのは便利ですが、翌日運転しようとしたら、
見たこともない画面がでてきて操作方法がわからないというのは許容できません。
20世紀に品質改善活動が盛んだった頃、日本独自の考え方として、品質と生産性の両方を同時に向上するという
考え方がありました。欧米の国が過剰品質を求めると、コストがかかって生産性や収益性が下がるという考え方が
主流だったなかで、ジャスト・イン・タイムなど、販売時点で在庫管理するシステムを追加することで、
商品の欠品を防ぐと共に、過剰在庫も防ぎ、毎日の商品棚卸しも簡単になるという考え方は
次第に多くの国に理解されるようになりました。20世紀の品質改善活動を再度行うということではありませんが、
品質と生産性の両方を同時に向上するという発想自体はいろいろなところに活かせるように思います。
行政のデジタル化にあたっては、ユーザビリティーとセキュリティーをいかに向上させるかが課題です。
これは両立する概念ではなく、セキュリティーを確保するためには、ある程度ユーザビリティーを犠牲に
するしかないという考え方もあります。わりと主流の考え方です。しかし、品質と生産性が対立する概念ではなく、
両立する概念だという考え方を思いついたように、ユーザビリティーとセキュリティーを共に向上させる
概念を考えることは、世界的に重要です。行政のシステムは、外部団体とCSPによる会議で方針を決めるという
概念を変えて、EUのPeppol BIS Standard Invoiceのデジタルインボイスの仕様のように、
まずデジタル庁が、アジア各国と協議して、共通仕様を決めて、それを基にクラウド事業者と話し合うという
進め方に変えるなど物事の進め方を抜本的に変更する必要があります。
のり弁と呼ばれる黒塗りの資料を公開するということがいまだにありますが、周りの言葉から何が書かれている
かを予測するのは、生成AIは非常に得意です。かつ文字数が限定されているので、
海外の国の一部では、黒塗りの資料の解読を行っていると思います。(証拠はありません)日本人のみが、
行政機関の発表に不満を表明してはならないという価値観で行動しているのは安全保障上のリスクです。
クラウドシステムを構築する前に、中央省庁のデジタル技術の利用に対する姿勢を変える必要があります。
マイナンバーカードのスマートフォンへの搭載がはじまり、例えば転出届はスマートフォンだけで出来るようになります。
しかし、転入先では、市町村の窓口で、マイナンバーカードの電子証明書と署名用電子証明書の
パスワードを登録し直す必要があります。新しい引越し先で、市町村の窓口に出向くのは面倒です。
なぜ、住所が変わったらパスワードを登録し直す必要があるのかという具体的なケースについて、
ユーザビリティーとセキュリティーの両立の観点から手続きを見直す必要があります。
「個人のマイナンバーにひも付いた口座は、税控除と給付を同時に実施する「給付付き税額控除」実現で前提となるインフラであり、
普及は順調に進むものの、国民全体に行き渡るにはまだ距離がある。」というニュースがあります。
「公金受取口座」の登録数をもっと増やさないと「給付付き税額控除」は実現しないというように見えるのですが、
本当にそうでしょうか?税控除は所得税の確定申告で行うはずです。所得税の確定申告をおこなう人は、
現金で納付する人はまれで多くの人が口座引落で納付するための口座を登録しています。
源泉徴収所得税について還付金が発生することがあり、還付金受取のための口座を登録します。
さらに「公金受取口座」の登録をしないと、給付はできないというのは財務省と総務省の
縦割りの壁の問題ではないでしょうか?昨年の衆議院選挙の前に増税クソメガネが話題になり、
減税をした際、2024年度の所得が2023年度の所得より減少したために、「公金受取口座」を登録
していても未だ税額控除も調整給付金も受領していない人がいます。
「給付付き税額控除」や行政のデジタル化を財務省や総務省が予算を獲得するための手段にするのではなく、
利用者のユーザビリティーとセキュリティーの向上を目的にするという根本的な発想の転換が必要です。
最近、AIは人間を超えるか?という番組を見ました!?
iPS細胞を用いた脳オルガノイドに関する実験や汎用AIに関する話題など興味ある内容でした。
ただ、AIは人間を超えるか?については、大谷さん以外野球をすることが禁止されるとか、
藤井さん以外将棋をすることが禁止されるとかいうことが起きないように、一番優れたもの以外
存在してはならないことにはならないので、AIが人間を超えてもそれほど一大事ではないかもしれないという
気もしますが、実感がわかないというのが正直な気持ちです。もし自分がワクチンが無い感染症に感染したら、
感染の恐れがないAIロボットに看護してもらえる時代が早く来ると良いと思います。
シリコンコンピューターにとっては、クロックとリセット信号は決定的に重要なものですが、
脳がどのような仕組みで動いているのか、AIが人間を超える時代ではどのようなことが起きるのかなど、
続編を放送してほしい番組です。
信頼性の高いシステムの代表として、証券取引所のシステム、都市銀行などの勘定系のシステムと、
新幹線の運行管理システムはよく話題になります。
どれもホット・スタンバイの機能を備えています。システムが停止した時に、高可用性クラスターなどといわれる
バックアップシステムが立ち上がるフェイル・オーバーの機能を備えたシステムはサーバーでは一般的に使われますが、
バックアップシステムが常にトランザクションを実施していて、利用者には瞬断があったこともわからず、
業務を継続するシステムは、高可用性クラスターなどのさらに10倍以上の価格になります。
運用方法は、それぞれの業務の内容に応じて異なる部分があります。
都市銀行の勘定系システムの場合、ホット・スタンバイのシステムに加えて、地理的に離れた場所にバックアップサイトを
備えてます。本格稼働の前には、バックアップサイトに切り替える訓練を行いますが、
本番稼働後は、余程の障害がない限りバックアップサイトを使うことはありません。それに対して、
新幹線の運行管理システムは年に一回は、バックアップサイトに切り替えて運用する訓練を行います。
このように業務の内容に応じて運用方法が異なります。
ガバメントクラウドの場合、オンプレミスのシステムと異なり、スタンバイのシステムなどは、すべて
クラウドの中にあります。さらに公表されていませんが、BCPのサイトを国内で、
東京から離れた場所に設置するのか海外に設置するのかの検討もされているはずです。
そして、防災訓練の一環としてBCPのサイトで運用する訓練をするのかしないのかの業務手順を決めておく必要があります。
ガバメントクラウドのシステムは、地方自治体のシステムで現在緊急に変更が必要な課題以外は、
もう一度、業務内容を検討して運用方法を検討し、当初のスケジュールにとらわれることなく、
じっくりと現状に応じてシステム移行を行うべきです。