各種のコラム --  3ー166 国産の(日本製の)IT技術を使ってみよう

                                      2025年5月10日  

    3ー166 国産の(日本製の)IT技術を使ってみよう	
    
   日本の経常収支では、貿易収支とともにインバウンド需要拡大に伴う旅行収支(サービス収支に含まれる)の黒字拡大の
  一方で、赤字となっている、年金・保険サービスや、デジタル関連項目(著作権等使用料、専門・経営コンサルティング、
  通信・コンピュータ・情報サービス)が話題になっています。
  自分の周りを見回すと、デジタル関連項目に関係する、海外製の情報機器やソフトウェアーを使っているという実感があります。
  国産の(日本製の)IT技術を使ってみようと思って使ってみた時の感想を記述するのが、今回のコラムです。
  それぞれの製品を私は初めて使ってみたという状況なので、それぞれの製品の説明ではありません。
  初めて使ってみた人の感想として読んでください。
  
  最初の製品は、リアルタイムOSのTOPPERSです。
  豊橋技術科学大学の先生が研究室の学生とともに開発した、μITRONカーネルのソースコードの公開が
  プロジェクトの発端です。現在は、その先生は名古屋大学にいらっしゃいます。
  TOPPERSのプロジェクトやソフトウェアーの概要は、検索すればすぐに見つかるので、
  そちらを参照してください。私は、LinuxとともにリアルタイムOSにも関心があったので、
  どのようなものがあるか調べていて、TOPPERSを見つけました。
  TRONは、20世紀に東京大学名誉教授の坂村 健さんが提唱されたリアルタイムOSのカーネルで、
  出来は良かったけれど、日米貿易戦争などの影響を受けて、ガラケイが消滅した頃に消滅したと思っていたので、
  現在でも世界のリアルタイムOSのシェアでTRON系のシェアが60%ほどあるというのが、私には驚きで、
  どんなものか使ってみようと思いました。
  ソフトウェアーをダウンロードして、説明に従ってコンパイルなどをするとロードモジュールが作られます。
  Raspberry pi Pico(800円程度の評価ボード)で動かすのがお手軽なようですが、私は、
  自分が持っているFPGAの評価ボードで動かすのが目的だったので、まずPC上のエミュレーターQEMUで
  動かしてみました。実際にFPGAの評価ボードにFPGAとともに乗っているArmのプロセッサーで
  動かすには、FPGAのビットストリームファイルをシステムに組み込む必要があります。
  そのためのXilinx(AMD)社のツールの説明が7年前のふた世代位前のツールのままになっていました。
  OSSのソフトウェアーの場合、新しいハードウェアーへのポーティングは個人の努力による部分が大きいので、
  それ以後のメインテナンスが、組織的に行われるとは限りません。
  使ってみての感想はPC上のエミュレーターQEMUで起動すると、サンプルプログラムが動くようになっていますが、
  そのプログラムをクィットすると、何も表示されません。一般のOSの端末アプリのコマンドプロンプトで
  シェルのコマンドを受け入れるような機能は追加のパッケージを入れないと持っていません。
  世界のリアルタイムOSの中のシェアは高いし、JAXAのH−IIロケットにも搭載されているそうなので、
  タスクを実行する機能自体は評価されているのでしょうが、企業で組み込み製品などを
  開発するプロの開発者向けのOSだと感じました。
  Arduinoならボードファイルの選択を間違えなければ、全く初めての人でも、すぐに多くのサンプルプログラム
  を実行できるし、Raspberry piならUSBケーブルとHDMIケーブルをつなぐと、すぐに
  GUIのデスクトップシステムが立ち上がります。
  このような初心者がとりあえず使ってみようかという使い方は想定していないように感じました。
  
  2番めの製品はハードウェアーです。ソニーセミコンダクターソリューションズが販売している。
  マイコンボードSpresense用のマルチIMU Add−onボードです。加速度センサーとジャイロセンサーです。
  普通のセンサーが3,000〜5,000円くらいなのですが、このマルチIMU Add−onボードは、
  45,000円位です。使ってみての私の感想は、値段10倍性能1,000倍です。
  民間の旅客機は、基本的に無線誘導で飛行しますが、バックアップとして、位置を確認するための手段として、
  GNSS(GPS)を装備しており、さらに搭載するセンサーからの情報のみで、位置を確認する自律航法でも
  飛行できるようになっています。マルチIMU Add−onボードで記録した、加速度センサーとジャイロセンサーの
  データーを、AHRS(Altitude and Heading Reference System)の
  プログラムで解析すると、自律航法と同じことができる精度をもっています。
  ところで、このマイコンボードを、マルチIMU Add−onボードとの組み合わせで使う時、
  正式にサポートされている制御用のリアルタイムOSは、NuttXです。私は使いやすいと感じました。
  シェルがサポートされていて、Linuxのコマンドがかなり使えます。また、複数のプログラムを含む状態で
  フラッシュできます。デバッグのためにCで作ったプログラムのモジュールを3〜4個入れた状態で
  マイコンボードをフラッシュして、Raspberry piにつないで、持ち出せば、
  デバッグ用のすべてのプログラムを簡単に試すことができます。
  PCやRaspberry piとマイコンボードはUSBケーブルで接続しますが、シリアル通信のプロトコールを
  使います。シリアルケーブルというと、20世紀の末にインターネットが始まった頃、PCとモデムをつなぐのに、
  RS232Cケーブルを使い、通信速度が9,600bps(くんろく)のモデムを使うというのが一般的でした。
  インターネットが広まると、モデムの速度はどんどん上がり、現在ではシリアル通信は、115,200bpsが
  一般的です。一方USBケーブル自体は、usb4.0では通信速度は、40ギガbpsです。
  なぜいつまでもシリアル通信を使うのかと思います。電力消費も含めた技術的なことなのか価格的なことなのか、
  素人なので知りませんが、時々聞いてみると、センサー側のマイコンで、各種の処理(AI処理を含む)を行い、
  判断結果などの限られたデーターをPCに送るのが良いというような話を聞きます。
  しかし、食通の人でもたまには、ざるそばをどっぷりそばつゆにつけて食べてみたいように(関係ないかもしれませんが)
  プロの人でも、たまには、すべてのデーターをPCに送ってリアルタイムにPythonのプログラムで解析してみたいのでは
  ないかと思います。マルチIMU Add−onボードは、1秒間に1,920回、16ビットの8個のデーターを記録するので、
  115,200bpsの速度ではとても送りきれませんが、40ギガbpsなら余裕で送れます。
  
  3番めは、初音ミクなどで世界的に有名になった、ヤマハが開発した音声合成技術を使ったボーカロイドソフトです。
  これは実際に使ってみたわけではありません。カラオケではジャイアンの私こそ使うべきソフトともいえますが、
  ヤマハのソフトをはじめ基本的にLinuxでは動かないこともあって、使っていません。
  日本のIT技術の紹介では、ボーカロイドであれば開発者とともに、ソフトを使って、芸術作品を
  作る人が有名になります。映画『ゴジラ-1.0』で、アカデミー賞の視覚効果賞を受賞したなど、
  日本では、ソフトの開発者より、ソフトを使いこなして、すぐれた芸術作品を作る人が有名になります。
  ゲームソフトでも、いろいろな技をみつけて最後まで行く着く人が評価されますが、私はまったく興味がわきません。
  ITの開発技術には素人なりに興味をもっていろいろ試してみるのですが、ソフトを使いこなす技術には
  まったく興味がなくて、ゲームソフトでもレベル・ゼロでもボタンを押すだけで楽しめるようのモードが
  あればよいのにと思います。仕事で機械系のCADソフトに関わったことがありますが、
  部品表の体系を記録する部分の開発や3Dレンダリングの開発は行ったのですが、実際にCADソフトで
  図面を描く技術はまったく向上せず、最後までのび太の絵のような図面しか描けませんでした。
  そして、今話題の日本製のIT技術といえば、Nintendo Switch 2 ですが、これも
  試してみるつもりはありません。コンピューターゲームは一回だけやったことがあって、
  Pythonのプログラミング演習がテトリスのゲームを作るだったので、仕方なくデバッグしました。自分に
  もう少しプログラミングセンスがあればこんな面白くない作業をしなくて済むのにと思っただけで、
  まったく興味はわきませんでした。しかし、ITエンジニアのなかには、ものすごいゲームファンもします。
  ゲームの開発が仕事で、気になるので、テストも自分でこなして、さらに自由な時間に他の人が作った
  ゲームをプレーする人もいます。
    
  3つの事例からまとめてみると、特筆すべき性能のハードウェアーで有名になるというのは、
  20世紀から続く日本の伝統のように感じます。しかも、量子センサーのような今までなかった技術を
  発見するようなものだけでなく、今まであった技術を組み合わせて、皆が驚くような性能と信頼性を持った
  製品を作るのが得意です。
  車の設計をするようなソフトウェアーの開発者だけでなく、ソフトを使いこなして、すぐれた芸術作品を作る
  F1ドライバーのような人が有名になります。私は、自分がF1ドライバーになることは絶対になくて、
  車の設計なら素人が行うことは安全性の観点から絶対にできないのに対して、ソフトウェアーの開発なら
  素人が行っても危険はないことに興味をもっているので、私の考え方とは異なりますが、
  日本人全体の傾向としては、上手にソフトウェアーを使いこなすことに興味があるようです。
  ソフトウェアーの開発なら素人が行っても危険はないというのは基本的に真実です。危険なのは、プロ並みの
  技術をもっていて、思想、考え方に問題がある人です。
  
  ここで登場した、ソニーセミコンダクターソリューションズはスピンオフ上場がうわさになっています。
  上場に関する事実はいっさい不明ですが、ソニーセミコンダクターソリューションズの設立は2015年です。
  ソニー自体は「東京通信工業」の頃から含めれば80年の伝統を持つ会社ですが、伝統のある会社の
  なかに新しい事業を行う部門を設立し、上手いこと事業が成長すると、完全子会社として分社化するのは、
  シリコンバレーの会社がスタートアップを買収するのに対する日本の伝統かもしれません。
  また完全子会社を上場するのは、資金調達を考えると、効果があります。
  スピンオフ税制および持分の一部を残すパーシャルスピンオフ(株式分配に限る)についても、
  一定の適格要件を充足するものについては、税務上の適格組織再編成とする特例措置
  (パーシャルスピンオフ税制)を適用するのは、このような分社化をサポートする税法上の制度です。
  複雑な制度ですが、株主の側でどのようなメリットがあるかを例示すると、
  仮にソニーがソニーセミコンダクターソリューションズをスピンオフ上場するとした場合の事例では、
  現在のソニーの株主は、一部ソニーセミコンダクターソリューションズの株式を与えられます。
  その際税法の基本の考え方では、現在保有するソニーの株式の一部について譲渡益が発生したと解釈され所得税が課税されます。
  しかし、現金預金を入手したわけではないので、納税納付に支障がある場合があります。そこで、
  将来、与えられたソニーセミコンダクターソリューションズの株式を市場で売却して、現金預金を入手するまで、
  課税を繰り延べる制度です。
  
  日本のIT技術のこれからの発展を考える時、シリコンバレーの会社を検討・分析することは必要ですが、
  真似をする必要はありません。特筆すべき性能のハードウェアーを現実的な価格で販売するとか、
  使う人の技術を必要とするようなソフトウェアーもアイディアの一つです。
  VOCALOIDOのソフトは体験版はありますが、基本有料です。
  携帯電話のソフトも、無料のものがほとんどですが、有料版もあるしゲーム内課金もあるので、
  ここはあまり差はないかもしれません。
  大学などを中心とするOSSのソフトはいろいろあるのですが、企業と組んで、プロ用の機能を
  充実させるというアプローチのものが多いように感じます。
  ArduinoやRaspberry piのように素人がすぐ使えるものを充実して、
  知名度をあげるのも考え方のひとつです。中国にはOrange Piというマイコンボードを作っている
  会社があります。ネーミングセンスには笑える部分もありますが、事業規模はかなりのものです。
  けっして日本人が真似る必要はありませんが、分析する価値は十分にあります。
  デスクトップPCのケースは、Windows PCが出てから数年した頃、変わりました。
  マザーボードの向きと、冷却用の空気の流れが変わって新しいマザーボードはそれまでのケースには取り付けられなくなりました。
  しかし、それから4半世紀、基本的に変わっていません。20年前に買ったケースでも、液冷用のラジエターなどを
  取り付けるために、ホームセンターで買ってきたパーツで工夫すれば、今でも使えます。私は実際に使っています。
  IT技術は、スマートフォーンが登場した時のように突然変わることがあります。皆が変わらないと思っている
  デスクトップPCですが、データーセンターは単純化して言うとたくさんのマザーボードがはいったケースが
  並んでいるように、個人が使うPCもミニPCボードをたくさん入れる形になるかもしれません。
  IT技術に関してシリコンバレーの企業と日本の企業の関係が、未来永劫続くと思う必要はありません。
  企業の組織再編についても、必ずしもシリコンバレーの会社のようにスタートアップを買収する
  ことに注力する必要はありません。伝統的な企業の中での、社内スタートアップのような制度のほうが
  馴染むのなら、サポートする税制などを充実していくべきで、特定の先端企業への補助金でのサポート
  とあわせて、全般的な法整備を進めていくの良いと思います。