各種のコラム --  3ー136 失われた30年は、”なぜ”失われたか?

                                      2024年5月10日  

    3ー136 失われた30年は、”なぜ”失われたか?
    
     今回のコラムは結論から書きます。”わかりません” もし、私に正解がわかるのなら、
  すでに誰かが気づいています。それなら考えても無駄かというと、決してそうではありません。     
  皆が考える必要がある事だと思うのが、今回のコラムを書いた動機です。
  
  「日本の人口ボーナス期は1960年代半ばから1990年代半ばまでで、高度経済成長期と合致します。
   一方、人口オーナス期は人口構造がその国の経済の重荷になる時期で、働く人よりも支えられる人が多くなる社会です。」
  といわれる事があります。それなら、 高度経済成長期のもっと以前第二次世界大戦後のベビーブームの頃から、
  いつ頃、日本は 人口ボーナス期 を迎えるかわかっていたわけで、第3次ベビーブームが起きなかった、1990年代には、
  30年失われることが、わかっていた事になります。
  人口動態や、社会学、経済学の専門家は、もっと早く30年後の日本に対して警告してくれればよかったのですが、
  1990年代からよく聞いていたのは、失われた10年、失われた20年という言葉で、しかも2〜3年後には
  日本は復活し始めるという発言でした。
  
  「世界には、4つの国しかない。先進国と発展途上国、そして日本とアルゼンチンである。」
  これは、1971年にノーベル経済学賞を受賞した、アメリカの経済学者サイモン・クズネッツの言葉です。
  当時の日本は、高度経済成長のまっただなかで、いっぽうのアルゼンチンは、ヨーロッパ諸国からの投資により1850年から
  全土に鉄道網を張り巡らせ、またイタリア・スペインなど南欧諸国から移民を積極的に受け入れ、内陸部の開拓を進め、
  農業生産量は飛躍的に拡大し、穀物、肉類の輸出により、1929年にアルゼンチンは世界第五位の経済大国になるまで
  発展していました。しかし、1929年に始まった大恐慌での経済の停滞からの、転落が凄まじく、
  先進国から開発途上国へ転落した唯一の国といわれます。
  
  もうすぐ、バブルがはじけると言う人がいます。ラジオ番組で、今年は大丈夫だけれど、来年はバブルがはじけて、
  日経平均株価が10分の1になると、3−4年前から言っている経済評論家の人がいます。
  歴史的に見て、いつかは必ずバブルがはじけるでしょう。
  その時に、十分に備えておかないと、日本が100年前のアルゼンチンになるのではないかと思ったのも、
  今回のコラムを書こうと思った動機です。
  
  アルゼンチンの人を多く知っているわけではありませんが、あまり悲壮感はありません。
  アルゼンチンは食料自給率が200%以上で、毎日アサードを食べているから、そうなのかもしれません。
  経済格差拡大による国民の不満を背景としたナショナリズムの台頭、ポピュリズム政治による放漫財政、経済政策の混乱、
  軍部によるクーデターと内乱など、経済が発展しなかっただけでなく、各種の問題が噴出しました。
  革命家エルネスト・チェ・ゲバラはアルゼンチンの出身です。ブエノスアイレス大の医学部出身の医師でしたが、
  南米放浪の旅や、グアテマラの革命政権の崩壊などをきっかけに、武力によるラテンアメリカ革命を本気で志すようになりました。
  アメリカはヨーロッパの帝国主義国家のような領土の略奪は行いませんでしたが、中南米などの国々を経済的に
  支配しようとして、それらの国ではアメリカ資本と結びつく一部の者とそれ以外の者との経済格差が
  広がり、不正も横行しました。キューバの社会主義革命にも繋がりました。
  
  日本の話に戻しますが、最近、円安が問題になっています。1990年以来の1ドル160円ですが、
  状況は全く異なります。1990年には、1985年のプラザ合意までは、1ドル250円程度だったものが
  急激に円高が進み、プラザ合意から1年間で1ドル150円台になっていたのが、少し戻ったという感じでしたが、
  5年後の1995年には、1ドル79円75銭の円高を記録しました。
  現在は、円安が進み、GDPの順位も下がり、日本の国力に陰りが見られるといわれる状況で、1990年とは
  異なります。1980年代の Japan as Number One:Lessons for America
  といわれた時から、アメリカは戦略的に復活戦略を進め、1990年代の情報スーパーハイウェーを経て
  2000年代になってクラウドの時代になると、ITの分野で世界一になりました。
  日本は、大型コンピューターの互換機や、モバイルの領域で、アメリカに対抗する製品を作っていたのですが、
  クラウドの時代になってソフトウェアーが競争の中心になると、多くをアメリカから輸入するようになりました。
  アメリカは経営的にも戦略的で、クラウドサービスは、サービスを提供する国に支店や出張所等がないなどの理由で、
  納税せず、本社のあるアメリカで納税することがありました。ワシントンDCやニューヨークの連邦政府の
  関係者と、シリコンバレーに本社がある、IT企業とは仲が悪いようにいわれることもありますが、
  実際は多額の納税をしているので、協調する面も多くあります。
  
  日本は、IT企業だけでなく、利用者側にもIT技術の利用に不得意な面があります。特に事務処理業務の
  デジタル化に問題があります。
  技術分野の、例えば、流体力学の運動方程式を解いて、機械設計に利用するような分野では、
  実際にシステムを操作する人だけでなく、管理者も業務内容を熟知していて、解析結果の流れを示す
  画面で、乱流剥離が見られる場合、レイノルズ数について質問すると、素人にもわかるように
  熱心に説明してくれることがあります。直接コーディングに利用する場面でなくても、
  業務の全体像が理解できることは、システム開発に重要です。
  一方、事務処理業務の一例で、各自がどの業務に時間を使ったかを入力するシステムをつくるという話がありました。
  管理会計で標準原価計算を行うので標準原価を決めるために、工程ごとの作業時間を分析するという話はあります。
  その際、場合によってはストップウォッチで測定した値を入力することもあり、作業者には不評ですが、
  実際に発生した原価を集計してから、仕訳を切るのに対し、作業終了後、ただちに標準原価で仕訳を切ることの
  利点を説明すると納得してもらえます。それに対し、何のプロジェクトの事務処理に時間を使ったかというのは、
  曖昧で正しい情報が入力されるとは思えませんでした。何のためのシステムか、訪ねたのですが、各自が
  一日の終わりに、自分の行動を思い出して、システムに入力することが、生産性の向上につながるということでした。
  当時は、長期契約のシステム・インテグレーションの売上の計算に工事進行基準を使っていました。
  発生した費用から各年度の売上を計算します。そのための人件費の計算は、給与支払いの明細書など、
  費用の裏付けが有るものである必要があり、このシステムの入力は使えないことを説明したところ、
  黙れといわれたので、何を聞かれても黙っていたところ、プロジェクトから外されました。
  その後のことは詳しくは知りませんが、開発後もほとんどデーターを入力する人がいなくて使用中止になったそうです。
  事務処理業務や会計システムでは、リレーショナル・データー・ベースがよく使われます。
  そこで、この分野のSEの人には、シンプルな業務をシステム化してもらうことがあります。
  これは私の考え方ですが、シンプルな業務をシンプルなシステムにできない人に複雑な業務のシステム化を
  任せてはいけないと思っています。ところが、データーベースの正規化などは知識として学ぶことで、
  実際の業務では、複雑なエンティティー・リレーションにして、契約金額を高くするのが、正しい仕事の
  やり方だと考えているSEがたくさん居ます。本当に優秀なSEは、各種の業務を見ているので、
  一見複雑に見える業務を秩序だったシンプルな業務にする力を持っています。
  日本発のOSやMPUの開発が困難だとしても、アプリ開発におけるSEの役割を見直すだけでも
  社会的なIT技術の利用に大きく貢献できると思います。
  
  行政機関からのメールで、XX機関からのお知らせのようなタイトルで、内容が書かれていなくて
  下記をクリックして内容を確認してくださいというようなものがあります。特殊詐欺の対策で、メールのURL
  はクリックするなといわれるなかでこのようなメールはまずいです。メールが使われ初めた頃、行政機関からの
  メールはタイトルが無くて、下記ご査収くださいとだけ書いてあって、PDFファイルが添付されていたりURL
  が記載されているというのが定番でした。参考になるかもしれないからメールを送っただけで、内容には
  責任を持たないという趣旨で広まった行政機関の仕事のやり方です。
  金融機関で、現在でも、定期的にパスワードを変更してくださいという所があります。漏洩した時には、直ちに
  変更が必要だけれど、定期的な変更は必要ないといわれていますが、何か問題があった時、パスワードを変更していなかった
  ユーザーに責任があったと言うために、今だに、定期的なパスワードの変更を要求する機関があります。
  一部のクレジットカードでは、登録しておくと、利用後、直ちにメールで金額が通知されるところがあります。
  これは現実的に、不正使用の早期発見につながります。
  民間企業では、このような、上手なIT技術の利用が始まっています。
   
  地方の市町村の窓口の中に、合併以前の市町村の窓口が今でも支所として残っていて、ほとんど待ち時間がなく、
  窓口の人が地域のことにくわしいので非常に便利なところが多くあります。そのようなところも一律に
  システムのガバメントクラウドへの変更を行う必要があるのか疑問です。
  
  日本を100年前のアルゼンチンにしないために、IT技術の有効な活用は不可欠です。その際はどういう趣旨で、
  何を変更してどのように利便性が向上するかを十分に説明し、利用者の同意を得ることが必要です。
  
  AC JAPANのジェンダー平等のCMで、「将来の夢はパイロットです」「聞こえてきたのは、男性の声ですか?
  女性の声ですか?」というのがありますが、ラテン系の国では成り立ちません。例えば、スペイン語で、
  男性のパイロットは、piloto 女性のパイロットは pilota です。
  「ようこそ」も、男性に対しては、bienvenido 女性に対しては、bienvenida 
  女性のグループに対しては bienvenidas 女性10人と男性1人のグループに対しては
  bienvenidos と言いますから、ジェンダー平等の問題は日本より深刻だと思いますが、
  政治家がジェンダー平等の話をする時、海外の事情などを話すことはほとんどありません。
  名前も、Mario は男性の名前 Maria は女性の名前です。
  統一すれば良いということではなく、音楽で歌詞が韻を踏むようになるのは、語尾が統一されるからなど、
  文化を深くかかわっているので、状況は複雑です。
  
  国会議員の人は、ヨーロッパに行った時、写真を撮って、SNSに投稿するだけでなく、各国の事情を
  各種収集して、立法に役立てる必要があります。
  
  日本で五・一五事件が起きたのは、1932年です。1929年の3年後です。現在の日本で、武装した軍部が反乱を
  起こす事態はまったく想定できませんが、経済格差や政治不信が拡大していけば、テロ行為が発生する
  恐れはあります。現在日本では所得税、消費税、保険料などの負担の重税感が高まっています。
  国債の発行残高も増えています。企業でも、自己資本と負債の比率は50対50が基本で、借入金を有効に
  活用するのは重要な企業経営の技術です。だから、赤字国債は発行してはいけないということではありません。
  しかし、無制限に発行して特に引き受けてが海外の金融機関になってもかまわないということでもありません。
  防衛費の増加などで、公的負担は増加しますが、その前に見せかけの減税を行ったり、さらにそれらを
  ほとんど閣議決定で決定して、国会で十分に議論をつくすということがありません。
  国会議員自身や関連団体の資金管理について、現在、政策推進のために公開できないとしても、
  将来の歴史的検証のために、すべてを記帳して、永久に保存するなど、政治に対する信頼を向上するための
  努力が必要です。
  日本の未来像を、食料とエネルギーの自給や、海外子会社の利益剰余金のリパトリエーションによる
  日本国内での設備投資の推進など、幅広く検討する必要があります。
  万が一、海外から攻撃を受けたり、近隣で紛争が起きた場合、食料自給率200%以上、エネルギー自給率86%
  のアルゼンチンのほうが、日本より、安全だと思います。
  80年前、海外の支配地や資産のすべてを失い、戦争責任の賠償の債務があり、円安の状態で、高度経済成長は
  達成されました。現在は、円高の頃、進出したり買収した海外の子会社があり、対外債務はほとんど無く、
  円安です。皆が笑顔でいてもよさそうですが、そうではありません。儲かっている人は黙っているのかもしれませんが、
  政治家は目先の事を語るだけで、1994年に情報スーパーハイウェー構想を発表した、
  アル・ゴア副大統領のような、未来を語る力がありません。構想自体は、日本のNTTの構想を参照したもので、
  しかも、連邦政府は予算不足で、計画が頓挫したりしたのですが、民間を動かす力が、やがて、
  GAFAなどによるクラウド事業につながりました。演説がうまかっただけでなく、考え方がすばらしかった
  のだと思います。
  日本の政治家は、「子ども・子育て支援金制度」の議論を聞いていても、都合の良いことも悪いことも、すべての事実を
  開示して、皆で幅広くすぐれた考えを取り入れようという姿勢がみられません。
  内閣総理大臣の人事という自分の組織の都合を第一に議論すると、皆の信頼を失います。  
  
  日本を100年前のアルゼンチンにしないために、政治に対する信頼を向上させる必要があります。