各種のコラム --  3ー133 ガバメントクラウドは完成するか?

                                      2024年4月10日  

    3ー133 ガバメントクラウドは完成するか?
    
     自治体ごとに異なる仕様書に基づいて作られてきた住民記録や国民健康保険など計20のシステムを、
  政府が示した共通基準に合うように作り直し、国が定めた、政府が整備する「ガバメントクラウド」上で稼働させるプロジェクトが、
  進行中です。国が補助金を出して、2025年度までの期限で進められています。
  サグラダファミリアでも完成するのだから、ガバメントクラウドもいつかは完成するでしょう。
  あるいはもっと具体的に、東京都は、2023年夏に100%出資の外郭団体「GovTech(ガブテック)東京」を立ち上げ、
  都内の区市町村のシステム移行を支援しており、いままでとは違う行政のデジタル化の動きがあります。
  しかし、デジタル庁が3月5日に発表した、自治体の業務を共通化し、システムもそれに沿ったものに移行する
  “自治体システム標準化”についての、移行状況の調査結果をもとにした、東洋経済オンラインの4月2日の記事によると、
  政令指定都市の100%、特別区、中核都市で、40%程度が移行困難と答えています。
  村では移行困難の割合は、3.2%で全体では9.6%が移行困難と答えています。
  政令指定都市では業務が複雑多岐で、一般市より移行が困難ということがありますが、まだそこまで考える余裕がないという
  市町村もありそうです。
  
  行政事務などをシステム化する時あるいはシステムを刷新する時、何が重要になるかについて考えてみます。
  重要なのは、まず業務手順の単純化、標準化について考えてみることです。
  東海地方を中心に展開している焼肉店の「あみやき亭」、安い、うまいで有名ですが、
  決算短信の発表が速いことでも有名です。東京証券取引市場に上場する、3月期本決算企業で最も早く決算短信を開示する
  「一番乗り企業」として知られています。今年も4月2日に発表しました。
  決算短信だから、短信で二言三言、話せば済むというものではありません。今回の決算短信は15ページで、
  連結財務諸表の数字は、有価証券報告書に記載されるものと同じです。
  なぜ、このような事が可能になるかというと、毎日、決算処理と同じことをやっているからです。
  経費精算などの処理をオンライン化して当日処理しているだけでなく、毎日、当該会計年度の会計決算処理を
  行っているということです。3月31日の処理を4月1日に行えば、4月2日には発表できます。
  決算の発表が早くなるだけでなく、日々、営業成績を分析できるという大きな利点があります。
  新商品を発表したり、商品の価格を改定した場合も、その日から影響の分析が出来、社員全員が結果を
  共有できます。上場企業なので、公認会計士監査を受ける必要がありますが、毎日、会計決算処理を行って、
  会計処理の方針などについて議論を重ねていれば、年度末に同じ処理を行った際に、新たな課題が
  発生することはありません。
  
  まったく逆なのが、過去の国鉄の決算です。3月期決算の資料がまとまるのが、8月頃です。
  50年近く前のインターネットもなかった時代なので、仕方がない面はありますが、もっとまずかったのが
  決算資料のまとめ方です。発表されると、各線区の収支係数が話題になりましたが、その際の費用には、
  線区の営業費用だけでなく、鉄道管理局負担金と言われた、鉄道管理局や本社の事務経費が
  各線区の営業距離数に応じて配賦された金額が含まれました。
  北海道の大赤字の線区で営業距離数は長いがほとんど列車は走っていない場合、ほとんどが
  鉄道管理局負担金でした。また売上の計算でも、北海道周遊券などは当時は、どこで利用されたか
  記録する手段がなかったので、年に一回、乗車している人を調査して計算していました。
  その際、偶然に北海道周遊券を持った人がひとり乗車していると、売上が倍増することもありました。
  だから、実際にその線区で働いている人は、決算資料の数字に実感がもてないので、まったく注目しなかったし、
  経営改善を本気で考えることもありませんでした。
  
  政府の決算は、現在でも、2022年度(2023年3月期)の決算が国会に提出されたのは、
  2023年11月20日です。
  
  行政のデジタル化を進めるにあたって、典型的な良くないやり方が、6月から始まる所得税減税です。
  業務手順の単純化、標準化が重要だという観点で見れば、コロナ禍の際に不評だった、
  特別定額給付金の給付の際の問題点を分析して、4万円の定額給付金として、今度は問題なく実行することです。
  今回は、所得税と住民税の減税ということにして、一回限りの仕組みを作ろうとしているのが良くないです。
  給与所得者で源泉徴収の人、個人事業主などで、所得税の確定申告をして、住民税が普通徴収の人、
  所得税の納付税額が3万円未満で給付になる人、2023年に退職したり就職した人、2024年に
  自然災害による被災で、雑損控除額が多額で、2023年と2024年の所得が大きく異なる人。
  このような色々な例外処理をすべてシステムに組込んで事前にテストする必要があります。
  さらに、給与所得者で源泉徴収の人で、6月から所得税と住民税の定額減税の処理を終えた後で、
  雑損控除の対象になるような事が発生して、2025年3月に所得税の確定申告を行い、
  2024年の所得税の源泉徴収税額全額の還付を受けた人の給付金の額の計算、2024年に
  自宅を新築して、2025年3月に所得税の確定申告を行い、住宅ローン控除の申請を行った結果、
  税額控除額を考慮した、世帯一人あたりの2024年の所得税額が3万円未満になった人など、
  例外事象が多数あります。このような問い合わせに対応するために、所得税の減税に関しては
  財務省と税務署に、住民税に関しては総務省と市町村にコールセンターを開設し、
  契約業務を中抜きする会社に税金を支払うと、減税額以外に多額の税金が使われます。
  そして、このような複雑で、例外処理が多く、今年度に限って行われる業務手順を
  そのままデジタル化しようとすると、ITシステムの開発に多額の税金が使われます。
  
  マイナンバーカードの普及のために行われたマイナポイントでも損害を被った事業者があります。
  一般に商品を販売してポイントを付与した場合、将来、購入者が必ずポイントを利用するとは限りません。
  そこで、継続適用を条件として、付与したポイント全額を負債として計上して、
  一定期間が過ぎた時に戻り入れ益を計上する会計処理を行うか、ポイントを付与した年度に、
  過去のポイントの使用率をもとに、負債として計上する額を調整する会計処理を選択することができます。
  この事業者の場合、後者の過去のポイントの使用率をもとに、負債として計上する額を調整する会計処理を適用して
  いたのですが、マイナポイントの2万円を付与された購入者が、ここぞとばかりに全額を短期間に使用することが
  相次いで、負債に計上した引当金の額を超えて、ポイントが使用されました。
  その結果、損失を計上することになりました。この事業者の場合、マイナポイントに限って、
  会計処理を変更することは法律的には認められたのですが、適用しませんでした。
  一回限りの処理のために、ITシステムを変更するための費用や、人材の確保の必要性などを総合的に判断して
  損失の計上を選択しました。政治家のキャッチフレーズで業務手順の単純化、標準化を取りやめるという
  慣行を廃止しないと、効率的な行政のデジタル化は実現しません。
  
  会社内の駐車場などに、4方向共に一時停車の指示がある交差点があります。
  道路では、一部の地域を除いてめったにありません。システム開発で訪れた会社内の通路に4方向共に一時停車の指示がある交差点
  があると、4方向すべての方向からクルマが来たらどうするのですかと質問していました。日本の道路交通法では、
  左方車優先という原則があります。4方向すべての方向からクルマが来て左方車優先の原則を適用すると、
  誰も発進出来なくなります。返事はたいていの場合、「そのようなへりくつは考えてなくて、皆が譲り合いの気持ちを
  持ちましょうという趣旨です」というような内容でした。アメリカは道路にも、4方向共に一時停車の指示がある交差点多くがあります。
  その場合のルールは、基本的に停車した順番に発進するです。
  ルールはそれなりに決めて、現場での問題解決を重視するやり方と、とにかくルールを決めるやり方の違いが
  あらわれて興味ある点です。アメリカのルールでも、全く同時に4方向すべての方向からクルマが来たらどうするかは、
  解決しないのですが、ITシステムの開発の際の話では、一般に
  アメリカでは、ルールに矛盾がある事を指摘すると、IT技術に限定せず、よくそこまで業務のルールについて
  考察してくれたと、感謝されることが多いのですが、日本では、自分ができないのを人のルールのせいにするなと
  いやがられることが多いです。そこで日本でのITシステム開発会議では、ルールに矛盾があっても指摘しません。
  運用の段階になって問題が発生するのですが、その際、「器用なオペレーターなら問題を避けることができます」
  というと、熱心に話を聞いてもらえることがあります。アメリカで同じ事を言うと、誰でも操作できるように
  するためにシステム開発に投資したのに、まったく役に立っていないと不満が爆発します。
  もっと切実な問題として、開発途上国では、銀行の窓口の行員が、お札を正確に数えているふりをして
  抜き取る行為が万延しているということがあります。そのような状況では利用者も銀行の経営者も、
  ATM設置による業務手順の変更に大歓迎という状況がありました。アナログ処理の品質、生産性が高い
  日本でいかにITシステム導入による事務処理の効率化をめざすかを本気で考える必要があります。
  
  昨年から話題になっている、自民党派閥の、裏金づくりの問題を見ていると、発想が20世紀の日本人的だと
  感じます。最近は、政治資金パーティーの会費のキックバックを利用した裏金づくりが話題の中心です。
  しかし、大きな疑問があります。検察が立件したのは、政治資金収支報告書の不記載です。
  パーティーの会費のキックバック自体には違法性がないのか、違法性はあるが、誰の考えで行ったかなどの
  証拠が集められなくて事件として立件できなかったのかは不明です。
  それから、キックバックの金額がそれほど巨額でないことです。 政策活動費や文書通信交通滞在費など、
  年間2千万円近いお金を、政治活動に使ったと言えば、領収書無しに支出でき、実際は生活・遊興費に使ったのではないかと
  追求を受けることも無い国会議員が、会計責任者が立件されるリスクまで犯してまで、得ようとするほど巨額な
  金額ではありません。金額的な規模だけでなく、派閥からキックバックすることに政治的な意味があるのでは
  ないかと思いますが、報道がありません。キックバックの金額などを基準に自民党国会議員への処分が決まり、
  政治資金規正法の改正が話題になっています。
  日本でのシステム開発の会議もこのような雰囲気です。取締役会で全面的なシステムの刷新が決定されましたから
  始まり、現状のシステムの課題をパワーポイントのファイルにまとめて、業務手順や関連するルールについては、
  本質的な議論はせず、新システムが発注額の規模ありきで決定され、運用フェーズになって問題が発生するまでに
  逃げ出すか、あるいはまったく使われないシステムだから問題が発生せず、毎年保守費用を請求できるかを
  見抜くのが優秀な公共システムのSEという業務のやり方が万延していました。
  20年ほど前、e−Japan戦略というものがあって、2005年までに世界最先端のIT国家になると
  言っていた頃、建設業界は談合の温床のようにいわれるが、土木工事の進捗状況は素人でもだいたいわかるから、
  予算管理が比較的しっかりしているのにたいし、ITのプロジェクトは何をやっているかわからないといわれたことが
  あります。現在でも、北陸新幹線の延伸工事であれば、予算額も公表されるし、トンネルの難工事や、資材の高騰で、
  実際の工事費がいくらになったかも頻繁に報道されます。それにたいして、マイナンバーカードが2016年から
  使われるようになりましたが、それまでのシステム開発の費用の、予算と実績や、サービス開始移行の
  運用費用の予算と実績の額はほとんど報道されません。公共システムは、最初の契約は競争入札になって
  ほとんど利益はでませんが、2年目からは随意契約になることが多く、開発が遅れて、サービス開始後は
  利用者が少ないほど、利益が出るという傾向があります。
  裏金問題の闇が深いのは、政治家がこのようなお金の使い方をしているのなら、公共事業を受注する側も、
  政治家のパーティーなどの際に寄付をして、開発が遅れた際の、追加契約などで脱法的に利益をあげようという
  考え方が万延することです。
  
  生成AIが話題になっており、日本語が得意なAIシステムの開発が進んでいます。 一歩進めて、
  日本人の性格や、業務の進め方を理解する生成AIができあがれば、人間の側が対応しなくても、
  業務の効率化と開発費・運用費の抑制が両立するガバメントクラウドが出来上がるかもしれません。
  それ以外にも、物流2024年問題やライドシェアなど、人や貨物の輸送にかかわる課題が多くあります。
  輸送は在庫が効かないので、需要と供給の総量だけでなく、リアルタイムの需給が一致している必要があります。
  天候や、イベントの開催などにも大きく影響されます。
  特に人の輸送のばあい、朝8時にタクシーをよこしてくださいという人に、
  午後1時にしてくださいというわけにはいきません。電力の供給と類似する点があります。
  このような課題を業務手順にさかのぼってITエンジニアも参加して総合的に検討する必要があります。
  先端半導体が重要だから、日本でも最先端の最小の線幅相当の集積度の半導体を開発するというのが、重要だと
  思う反面、アメリカの後追いのようにも感じます。技術を共同開発しているIBMは半導体に限らず、
  大成功して、売上総利益率90%を超えるような会社全体をささえる製品がある反面、
  大失敗して、10,000個の販売計画に対してショールーム用と、保守社員研修施設用の2個しか、売れなかった
  というようなビジネスをおこなう傾向があります。
  半導体は、エヌビディア製の輸入品でも、行政事務へのAIの応用などで、世界のモデルになるような
  システムを開発することも重要です。