各種のコラム --  3ー127 政治資金収支報告書「なぜ」記載しなかった?

                                      2024年1月20日  

    3ー127 政治資金収支報告書「なぜ」記載しなかった? 
    
     政治資金パーティーの収入の一部が派閥からキックバックされ、それを政治資金収支報告書に記載していなかった
  ことが問題になっています。
  民間の会社で、有価証券報告書の虚偽記載が問題になることがあります。
  多くの場合、動機は会社の業績を良く見せようとしたことです。
  やり方は架空の売上の計上や資本取引を収益取引として記帳するなどがあります。
  架空の売上の計上で過去にあったケースですが、注文住宅の建築で、完成していない一戸建て住宅を完成したことにして、
  売上を計上していたということがあります。
  3月決算の会社で、建築中で5月か6月には完成する家があるのですが、売上の計上は工事完成基準なので、
  今期に計上することはできません。ところが、親会社からのノルマもあり、過去に建設した間取りが類似した建浅の家の
  人に頼み込んで、公認会計士監査の時だけ、表札を取り替え、質問に対してはうその名前を答え、引っ越しが済んでやっと
  家の中がかたずいたところだと言ってもらいました。
  本来の家は、来期には完成するので本来なら来期の売上になります。来期はなんとかなるだろうと思うのですが、
  来期の売上は、本来の売上が計上できない、マイナスからのスタートになるので、
  3−4年経つと、にっちもさっちもいかなくなってばれました。
  このケースでは、動機も手口も明らかになったので、同じことは起きないだろうと想像できます。
  
  有価証券報告書の虚偽記載を着服、横領、キックバックと比較すると特徴が明らかになります。
  着服、横領の典型的な例は、接待の場合に飲食店に、金額を書いていない領収書を発行してもらって、
  差額を自分の懐にいれます。あるいは、コンサルティングの会社にレポートの提出を依頼して、
  20万円ほどで作成できるレポートを80万円で契約し、会社の経理手続きは正しくおこないますが、
  実際のレポートの作成に必要な金額との差額が担当者の不当利益になります。
  コンサルティング会社から、差額の60万円の一部(割合は担当者の力関係によります)を
  キックバックとして受取り自分の懐にいれます。
  この場合、会社は被害者なので、被害届をだし、担当者の刑事責任を問うことがあります。
  また多額であれば、法人税の過小申告になるので、会社が税務署から修正申告を求められることがあります。
  
  着服、横領の場合のキックバックは、経理処理は一見正しく行われているのですが、行為自体に違法性があります。
  それに対して、パーティー収入の一部のキックバックのケースでは、行為自体に違法性はありません。
  だから、「なぜ」政治資金収支報告書に記載しなかったかの、動機の解明が行われないと、
  効果的な再発防止が期待できません。
  
  一部の政治家から、二十万円を超えるものを記載するから、五万円を超えるものを記載するに改め、銀行振り込み
  に改めるという声があがっています。
  何が起きるかは想像できます。二十万円振り込むかわりに五万円を4回振り込みます。
  金融機関が異なれば、同一の人が複数の口座を持つことができます。また、振り込み人の名前は、口座名義人で
  ある必要はなく、振り込みの際に変更可能です。振り込む人の手間が増えてATMの行列が長くなって
  皆が迷惑するのでやめてほしいところです。
  このようなパーフォーマンスで解決できる程度の問題だという認識の政治家が集まって議論しても
  成果は期待できません。
  
  政治刷新本部には期待できないが、検察には期待していたが、派閥側の政治家が立件されなかったので、
  がっかりしたという声があります。
  
  企業会計原則の前文二1に、「企業会計の実務の中に慣習として発達したもののなかから、
  一般に公正と認められたところを要約したものであって、必ずしも法令によって強制されないでも、
  すべての企業がその会計を処理するのに当たって従わなければならない基準である。」とあるように、
  会計の透明性は、会計の実務の中で当事者に公正妥当な処理を行う自覚がないとなりたちません。
  このような帰納的なアプローチだけでなく、演繹的なアプローチもとりいれられていますが、
  法令で禁止されている事以外は何をしても刑法犯になることはなく、法令の類推適用がない、
  刑事裁判で政治資金の透明性の拡大を図るアプローチには限界があります。
  
  政治家にも期待できない、検察にも期待できないとしたら、何をやるべきでしょうか。
  ひとつのアイディアですが、政治資金規正法の改正に期待できないとしたら、所得税法の改正を
  議論するという方法があります。
  
  現在、個人が政治資金管理団体に寄附した場合、寄附金控除は認められません。
  これをふるさと納税のように、控除を認めることに改めます。もちろん返礼品は無しです。
  現在、政党交付金の形で税金が、国会議員の数に基づいて政党に交付されますが、この一部を
  個人の意志で、応援したい政治家に交付できるようにするというものです。
  そしてふるさと納税の税額控除(寄附金控除)に、特定寄附金の受領者が発行する寄附ごとの
  「寄附金の受領書」等の添付が必要なように、政治資金管理団体に、金額によらず、
  寄附金の受領書の発行を義務付け、さらに同じものを会計検査院または、指定した民間団体にも
  転送することを義務付けます。この考え方は個人の宗教法人への寄附にも適用可能です。
  企業などの法人が寄附する場合、パーティー券の購入が、提供される食事の対価の場合は、
  接待交際費として法人税法上の損金計上が認められる場合がありますが、寄附に該当する場合、
  損金計上が認められません。これを損金計上を認めるかわりに、政治資金管理団体に、金額によらず、
  寄附金の受領書の発行を義務付けるという考え方もありますが、そもそも
  選挙権の無い法人が寄附することに妥当性があるのかどうかの議論があるので、
  政治刷新本部に政治学者の外部有識者を含めて、議論すべきです。
  
  これで、政治資金管理団体に入るお金の管理ができます。そして、政治資金管理団体から出るお金については、
  政治資金管理団体から役務の提供の対価などとしてお金を受け取るすべての事業者に対して、
  消費税の扱いとは無関係に、デジタル・インボイスによる適格請求書の発行を求めます。
  そしてそのファイルをやはり、会計検査院または、指定した民間団体にも転送することを義務付けます。
  
  これにより、外部の機関に、すべての政治資金管理団体への入金と出金の記録が残ります。
  デジタル技術を使ってそれらを政治資金管理団体毎にまとめます。そして、収入金額、支出金額
  翌年への繰越額が、政治資金管理団体が提出した政治資金収支報告書に記載された額とどれほど一致するかの
  一覧表を作成して公衆の閲覧に供します。不一致の原因としては、政治家個人と政治資金管理団体との
  金銭の授受の可能性があります。有権者はその情報を見て、国会議員の人が大食いで会食の際の飲食費が
  かさんだろうと思う人もいれば、推薦人を集めるのに使ったのだろうと思う人もいれば、選挙に立候補するにあたり
  地方議員に配ったのだろうと思う人もいます。詳細は明らかになりませんが、外部の機関が発表した
  事実に基づいて各人が自身の意志で判断したのであれば、投票の結果責任を問われることはありません。
  
  今回の政治資金収支報告書の不記載に関連して、野党の対応も曖昧です。他の案件で、自民党の決定にたいして
  即時廃止とか全面撤回と言うだけで、独自の考え方が明らかにならないことがありますが、
  政治資金収支報告書の提出は、自分自身の支援団体も行っている事です。何も考えていないという
  はずはありません。独自の方法で、政治資金の透明性を確保している事を訴えるべきです。
  政治資金規制法には、政治資金収支報告書以外の会計情報を公開してはならないという規定はありません。
  政治資金収支報告書の内容と矛盾しない内容で、情報を補完するための附属明細表を公開したり、
  有価証券報告書のようなインラインhtmlのxbrl形式やJSONのような、セマンティックWebの形で
  解析が容易な形で公開する団体があれば、有権者が政治資金の透明性を確保していると判断します。
  国会で、USB Type−CとThunderboltの違いを知っているかなどの、国会議員個人の
  ITの知識を質問するのは、時間の無駄です。自身の会計処理をIT技術を活用した透明性が確保できる
  形で行ってアピールするほうが実効性があります。
  
  派閥の政治資金管理団体に収支報告書の不記載があったことに関連して、
  「事務処理上の疎漏(そろう)であるということを承知しているが、私自身、在任中から今日まで、
  それ以上のことは承知をしていない」と答えた人がいます。政治資金管理団体の会計には関わっていないし、
  その処理内容も承知していないと自身が発言しています。また派閥を解散するというのは、組織をなくすことで、
  記録や記憶の消去を図っている可能性があります。私はコンサルタントの人と話す時、
  自分の事務所の100万円のお金は管理していないが、10億円のプロジェクトを計画し管理することができると
  言う人を信頼しません。同じように、政治家がどのような人か直接には知りませんが、
  自身の政治資金管理団体の会計には関わっていないし、その処理内容も承知していないという人に
  国家の予算を審議してほしくないと思っています。
      
  前回のコラムで、羽田空港での日航機と海上保安庁の航空機との衝突事故に関連して、
  エンジンから出火しても通知されないのは問題だと書きましたが、これは間違いで、
  日本航空でのパイロットからの聞き取り結果の発表によると、エンジンから出火したら、
  粉末消火剤が噴射され、パイロットに通知されるそうです。
  ただし、今回は、パイロットが衝突後はまったく操縦出来なかったと言っているように、
  操縦室が真っ暗になって、何も通知されずパイロットからの通知も、客室に届かなかったそうです。
  どこか一箇所がダメージを受けると、すべての制御ができなくなるのは問題で、
  家のPCなら、親ガメこけたらみなコケたになりますが、航空機のシステムは、親ガメこけても、
  部分的に稼働する構造にする必要があります。1985年のジャンボ機墜落事故の後
  集中制御する油圧ユニットが破壊され、4系統ある油圧制御配管の圧力がすべて失われて
  制御不能に陥ったため、部分的に油圧を維持するための提案がありましたが、
  特殊な例として、提案は採用されませんでした。しかし、1989年にユナイテッド航空でも、
  油圧制御配管の圧力がすべて失われて制御不能に陥いる事故が起きた後、提案は採用されました。
  海保機に搭載されていなかった、衛星測位システムを利用して測位した自分の機体の位置を定期的に送信する
  ADS−Bという装置を小型機も含めてすべての航空機に搭載を義務付けるとか、
  それ以外に機体に問題があったのなら、エアバスに提案するなどの再発防止策が期待されます。