各種のコラム --  3ー119 デジタル民主主義は、選挙のデジタル化から

                                      2023年10月5日  

    3ー119 デジタル民主主義は、選挙のデジタル化から 
    
  つくば市などで、選挙の電子投票、インターネット投票の取り組みが進んでいます。
  20年ほど前行われた、別の都市での市議選で、機器の不調で投票が中断したこともあって、総務省は
  検討はしていますが、全国的に進めようという動きはありません。
  つくば市で行われている生徒会長の選挙のネット投票や、市長選、市議選でのオンデマンド型移動投票所
  の設置や公職選挙法との関連など、選挙のデジタル化全般については、東京新聞などが特集しています。
  
  全体像はそれらの報道のほうがよくまとまっていますが、このコラムでは、インターネット投票を、
  公金受取口座の登録と比較して、いかにインターネット投票がデジタル技術との相性が良いかについての考察を述べます。
  
  インターネット投票実現に向けた課題のひとつに、総務省の見解では、立会人がいないと本人確認が難しいという
  ことがあります。なぜインターネット投票が実現しないのかと検索していた時の最初の疑問です。
  マイナンバーカードとパスワードによる本人確認は不完全であるというのは、本当に総務省の見解なのか
  大きな疑問です。選挙の立会人は、あみだくじで自治会の役員になると、順番で回ってきます。
  朝7時前から、夕方6時とか8時まで座っているのは相当苦痛です。朝、ラジオがつけてあるので、ラジオを聞いて
  いれば良いかと思っていたのですが、これは、投票開始時刻確認のためで、朝7時で終わりになります。
  選挙の立会人は、投票開始時に箱に何もはいっていないことを補助的に確認したり、選挙管理委員会の事務を行っている人の
  投票券の扱いなどが適切に行われていることを監視するのだと思っていました。投票に来る人を皆知っているわけではないので、
  立会人による本人確認は不可能です。
  
  選挙のインターネット投票を、公金受取口座の登録と比較してみると、選挙権があるのは、成人のみです。
  必ず、本人が投票します。一方、公金受取口座の登録は、0歳児も本人の口座を登録しますが、本人による
  登録は不可能です。あるいは、3歳児や5歳児で、IT技術にすぐれた人が、100人分の給付金を詐取して
  海外の暗号資金管理口座に振り込んだ場合の刑事責任や民事責任はどうなるかなどの規定があいまいです。
  まず、誰もが合理的だと考える規定が存在するのが、業務のデジタル化の前提です。
  コロナ感染症の一律定額給付金の給付は、アナログ処理でかなりズムーズだったという印象です。
  市町村によっては遅れがでたのかもしれませんが、マイナポータルでの申請を併用したのが、業務の混乱の
  原因ではなかったのか、正確な検証が必要です。なんとなくデジタル化すれば良さそうだというのでは、失敗します。
  
  そして、選挙のインターネット投票は、ひとりが一票を投じます。世帯でまとめて投票することはありません。
  公金受取口座の登録はしても、給付金を個人に給付するのか、世帯にまとめて給付するのかの、大前提を
  整理してから出ないと、運用は不可能です。
  
  これも重要なことですが、選挙のインターネット投票には、課題もありますが、期待される利点も多くあります。
  まず、投票する側から見て、遠隔地にいても投票できます。大学に進学して、遠隔地に居住していても、住民票を
  移していない場合、投票できない期間が4−6年あるので、選挙にいかない生活習慣になる人がいます。
  インターネット投票なら、どこに居ても投票できます。また、住民登録との関連もありますが、海外からの投票も
  技術的には問題なく行うことができます。そして、選挙管理事務を行う側からみて、集計が一瞬で終わるのは、
  大きなメリットです。公金受取口座の登録やマイナ保険証のようなマイナポイント以外メリットを感じない
  ものとは異なります。現在の保険証を廃止して、旅行に行く時も、保険証として、マイナンバーカードを
  毎日持ち歩く生活習慣にするそうですが、私には不便になるだけです。
  
  選挙のインターネット投票は、ある市町村が独自に行っても、その市町村内でやり方を周知徹底すれば、運用可能です。
  マイナ保険証の場合、旅行に行った場所で使用する機会もあるので、ある程度全国共通の運用方法である必要がありますが、
  インターネット投票は、公職選挙法の規定の範囲内で独自の運用方法をとることが可能です。
  インターネット投票には、多くの会社の株主総会の投票ですでに実績があります。複数回投票した場合、最後の投票を
  有効にするとか、郵送の投票と併用するなどの運用方法も定着しています。
  
  日本には、選挙のインターネット投票に適する土壌があります。選挙のインターネット投票に重要なのは、
  IT技術以前に、政府が、個人の投票結果の監視はしないという政治に対する信頼です。
  行政に不満をもっている人でも、日本では、行政機関が、個人の投票結果の監視するような違法行為は
  行わないことに対する規範の高さへの信頼感は世界的に見てトップレベルの高さです。
  エストニアなどの小さな国ではデジタル化が可能だという人がいますが、これはIT技術に対する
  誤った見方です。IT技術は、給付金を個人に給付するのか、世帯にまとめて給付するのかのような
  あいまいな状況には対処できませんが、規定がはっきりしていれば、処理件数が何件あるかが問題にならないのが、
  強みです。そして、日本が選挙のインターネット投票を世界で先行して行えば、他国の選挙監視を依頼される可能性が
  あります。過去にもカンボジアなどで、PKO活動の一環として選挙監視をおこなったことがあります。
  選挙の事務支援や監視をおこなっても、絶対に、投票に干渉するようなことはしないという、
  日本の組織の規範の高さへの信頼性が、業務を進めるための大前提になります。
  
  話が変わりますが、アメリカはマグニフィセント・セブンのようなIT技術のすぐれた企業が多くあり、
  経済も安定しているようです。しかし、国の将来はそれほど明るくありません。(個人の感想です)
  1990年代にシリコンバレーに出張に行っていた頃は、アメリカは良くなったと多くの人が言っていました。
  その時多くの人が言っていたのが、サンフランシスコのフィッシャーマンズワーフやピア39あたりが整備され、
  安全になったことです。サンノゼからカル・トレインでサンフランシスコに行き、サンフランシスコの駅から、
  マーケット・ストリートまで歩いていって、バート(近郊鉄道)でフリーモントに行き、バスでサンノゼ
  に戻ってきたと言ったら、アメリカの人が驚いていました。方向音痴の私が無事戻ってきたので驚いたのかと
  思いましたが、そうではなくて、サンフランシスコの駅から、マーケット・ストリートまでは、1980年代には
  昼間にアメリカ人でも歩くのが怖い地域だったそうです。最近の、サンフランシスコは、とくにアジアの人は
  あまり歩き回るような場所でなくなりました。地域の中核になる都市は、街なかを安全に歩いて移動できるのが、
  発展の大前提になります。
  
  1990年代は、まだ日本がすぐに成長を取り戻すと思われていた時代です。しかし、サンマイクロシステムズの
  UNIXワークステーションなどを見て、IT技術については、アメリカが日本よりはるかに進んでいると感じました。
  その頃はアップルは落ち込んだ時期でした。それから、10年程して、サンマイクロシステムズはオラクルに買収
  されました。一方アップルはiPodやiPhoneで復活しました。日本の携帯電話は、ほとんど海外製に置き換わり
  ました。フィンランドのノキアの携帯電話もスマートフォンで置き換わったので、日本の携帯電話に問題が
  あったというよりも、家電製品は何かで置き換わることがあるようです。最近のアップルの
  NameDropは、以前の日本の携帯電話の赤外線通信を思い出させる機能ですし、
  着メロも自分の電話が鳴っているかどうかすぐにわかったので、スマートフォンにも付け加えて欲しい機能です。
  Googleは、AndroidのOSでは不動の地位にありますが、スマートフォンの端末は、あまり有名では
  ありませんでした。しかし米中貿易戦争で、中国製のデバイスがあまり広まらなくなった頃から、
  じわじわとシェアを拡大し、PixelがAndroidのリファレンスマシンなので、性能的にも、台数的にも、
  静かに、iPhoneを追いかけています。

  さらに話が変わりますが、鉄道のポイント(分岐器)を本当に大きなてこを使って人間の力で転換していた時代に、
  東海道新幹線は、東京にある総合司令センターで新大阪までの全線のポイントを転換する形で開業したことは画期的でした。
  しかし、この方法は、駅がたくさんあってポイントがたくさんあると、成り立ちません。
  東京圏では、各駅の信号扱い所で、ポイントを転換していました。例えば横浜駅の東海道本線は、
  ホームの両側に電車が止まります。その場合は次に来る電車に合わせて、ダイヤグラムを昔の製図板のようなものに
  貼り付けたものに、スライド式の定規をあてて、ホームを確認して、スイッチを操作してました。
  1990年代後半に、システムが更新されて、ATOSのシステムが導入され、多くの駅のポイントをダイヤに
  あわせて、自動で転換するようになりました。ダイヤ通り動いている限りは、少人数で運用できるようになりました。
  しかし、一旦電車が止まると、総動員で、回復ダイヤをつくることになります。
  AIを利用して回復ダイヤをつくることが話題になりますが、課題もあります。現在の、総合司令センターのシステムは
  営業線を走っている列車の在線情報は常に管理して、表示できますが、車庫の列車は、車庫に管理する人がいて、
  総合司令センターの人と連絡をとって管理しています。このような業務の進め方のまま、AIを利用しようとしても
  うまいこといきません。会社内のすべての列車が、営業線も車庫の入出庫線も含めて、リアルタイムで
  どこにいるかのデーターを入力しないと、AIは分析できません。運行管理システムを更新して、
  営業線も、車庫の入出庫線も統一のシステムで管理するケースが増えてきています。
  
  現在の地方自治体の業務のやり方をみていると、各々のシステムで、独自のアプリで業務処理を行っていて、
  横浜駅で人間がスイッチを操作していた当時のような印象です。
  マイナンバーを割り振り、ガバメントクラウドやマイナポータルを導入して、これらの業務を統一的に
  合理的に行おうという、方向性には賛成です。
  しかし、デジタル敗戦に例えた人がいた割には、実際の業務の進捗はかんばしくありません。
  選挙のインターネット投票をして、投票率が上がるのがまずいというように、自らにかかわることは、
  デジタル化したくないというのでは、覚悟がたりません。
  マイナ保険証とマイナンバーの紐付けも、人為的ミスが何件見つかったとか、日本語の表記の問題の
  解決に時間がかかると言っていても、ゴールが見えません。
  1億2千万人のデーターだとして、どこまではどういう過程で正しく紐付けが完了したかを、指標として
  管理しなければなりません。確認が終了したものは再度修正してはいけません。
  生年月日のデーターは、100%近いレベルで正しいので、1億2千万人を5,000人程度のグループに
  簡単に分けることができます。それを一日毎にどこまで完了したかを示すなど、確認のやり方をデジタル化
  しなければなりません。公金受取口座の登録では、登録の際に端末がログインしたままになったいう、
  人為的なミスと、家族の口座を登録しているケースではまったく原因も状況も異なるので、
  別の問題として扱わなければなりません。
  
  10年経てば、状況ががらりと変わることは多いのですが、民間も含めて、デジタル化の考え方が
  浸透していないケースが多くあります。インボイス制度の導入にあわせて、登録番号を記載するための
  はんこの需要が急増しています。消費税免税事業者からの仕入れは、9月分までは、すべて仕入れ税額控除
  の対象で、10月分からは8割が対象になるので、日割り計算するとか、まじめに対応していますが、
  発想がデジタル的ではありません。消費税(付加価値税)を導入する時、仕入れ税額控除を
  ヨーロッパのように伝票形式にするか、日本のように帳簿形式にするかの議論は、40年前にもあったのですが、
  それ以来、ほとんど議論されることなく、2019年の軽減税率の導入にあわせて突然決まりました。
  駅で列車の時刻を管理しているだけの、帳簿形式のみに頼るより、駅のあいだの列車の走行状況を示す
  ダイヤグラムに相当する伝票形式を併用するほうが、経済活動の把握が容易に迅速に行われるようになるという
  デジタル・インボイスの議論はほとんどおこなわれていません。インボイスの事務手続きがが面倒なので
  反対だという人は、もちろん反対します。それとともに、デジタル・インボイスのxmlのファイルを保存
  しておけば、紙のレシートなどを保存しなくても、電子帳簿保存法に対応できるなど、デジタル処理が
  便利だと感じる人も増えてくる必要が有ります。xmlのファイルを分析すれば、商品の流れも全体的に
  分析できるので、牛乳のように作りすぎたり、足りなくなったりする製品の、適正な生産や流通に
  活かしていこうというような動きが広まってくる必要が有ります。最近芸能プロダクション事務所で起きた
  性加害問題に関連して、「事業承継税制」の特例措置の適用が話題になっています。このような際も、
  事業者ごとの財務諸表から、問題の経済的本質を明らかにするのには限度があります。しかし、貿易統計が
  うそをつけないといわれるのと同じ理由で、インボイスのデーターは、第3者との多数の取引があるので、
  うををつけないのです。デジタル・インボイスなら取引の件数の多さは問題にならず、事態を解析することが
  できます。税務調査の際の反面調査が容易になりそうで、これも反対の署名が集まりそうですが、
  取引の分析が容易になる事は、大多数の正直に帳簿をを記帳している人には利益になることが多く、
  一部の不正な帳簿をつけている人を、通常でない人として、浮かび上がらせる効果があります。
  
  行政の縦割りの弊害が一時話題になりましたが、民間会社でも、見るからに縦割りだという例があります。
  電気の事業所コード、地区番号、お客様番号をWebシステムで確認するためのIDは、契約者が同一でも
  電気の供給地点を特定するための、22桁の供給地点特定番号毎に別の番号が割り振られ、
  供給地点特定番号を確認するためには、検針票が必要ということなら、昔のアナログ式のままのほうが
  良かったという人がいます。WebシステムのIDを取得する時にメールIDが必要ですが、
  メールIDが同じだと、すでに使われていますというエラーになったので、電力会社の
  WebシステムのIDを取得するために新しくメールIDを取得した人もいます。
  Googleがほとんどのセキュリティーの確認にメールIDを使っており、しかもメールIDのパスワードは
  漏洩があった時以外は定期的な変更の必要はありません。しかし、Androidの携帯端末を初期化する時に
  使用したメールIDは、変更が難しく、本人確認の能力がかなり強くなります。
  
  2025年からは、自律社会になると予測する人が居ます。クラウド中心の世界から、IoTなどに関心が集まる
  時代になるのかと思ったのですが、世界的に分断する大国のどちらかの陣営につくのではなく、地理的に近い国などが
  連携して自律的に行動するような、政治の世界で大きな変化がありそうです。
  中東の状況をみても、アメリカの存在感が薄くなって、かえって地域の連携が生まれようとしています。
  国内的にみても、中央省庁の統計調査以外、意識や経済状態を知るすべがなかった時代と異なり、
  デジタル化の時代になると、お金をかけずに迅速に状況の把握ができます。
  デジタル民主主義は、地方自治体ごとに最適の仕組みを選択することから始まるかもしれません。