各種のコラム --  3ー116 マイナ総点検が、アナログすぎる

                                      2023年9月1日  

    3ー116 マイナ総点検が、アナログすぎる 
    
  「マイナ保険証 約77万人分“ひも付け”なし」という報道がありました。「協会けんぽ」などでの
  健康保険証とマイナンバーの紐付けが完了していません。この紐付け作業を2016年からやっているというのも
  驚きです。7年経っても作業が完了しないのも、各健康保険組合で再度紐付けを確認するという
  総点検のやり方もアナログすぎます。マイナ総点検の目標設定と作業のやり方の総点検が必要なレベルです。
  
  トップに立つ人はできるだけ曖昧な発言をして、現場力が育つのを待って、そのうちに運用可能なレベルに
  なるというアナログ的なやり方は通用しません。0x1x1x1=0になるのがデジタルです。
  現在の健康保険証の情報とマイナンバーを紐付けるのが最初の1歩です。最初の1歩を1にしないと、0.9では
  すべてのシステムが正常に稼働しません。
  過去の病状の確認が可能になるとか、すべての紐付けを完了するというような曖昧な目標設定はダメです。
  現在の健康保険証の情報とマイナンバーを紐付けて、病院での受付に問題が発生しない状況になるまで
  現在の健康保険証は廃止できません。過去の病状の確認は、過去の健康保険証の情報のマイナンバーへの
  紐付けが完了してはじめて可能になります。現在のすべての健康保険証の情報をマイナンバーに紐付ける
  事が可能だとしても、現在有効なマイナンバーすべてを健康保険証に紐付けることは不可能です。
  出入国管理に問題がある人の子供で日本で生まれた人で、日本に住むことは認められても、健康保険証を
  持てない人がいます。そこまで詳細に数字を発表する必要はありませんが、マイナ総点検の業務にかかわる
  人は、目標を数字で把握し情報を共有する必要があります。
  
  紐付け作業が7年経っても作業が完了しないのは、やり方に問題があるからです。1年で完了するはずです。
  まず最初に、各健康保険組合の情報をJ−LIS(地方公共団体情報システム機構)のシステムに集めます。
  これは意外と時間がかかります。エクセルのファイルをメールで送るような方法ではダメです。
  情報の更新がすぐに反映する状態にする必要があります。すべての情報が集まったところで、
  マイナンバーと健康保険証の情報を、生年月日をもとにグループ分けします。これはすぐにできます。
  レコード数が1億3,000万あることは、問題になりません。1日でできます。
  生年月日の情報は基本的にすべて正確といえるレベルで、表記の方法による情報の突合の際の問題もありません。
  世代によりますが、ひとつのグループに含まれる人数は、5,000人程です。
  この5,000人程のレコード同士を紐付けします。大半はシステムで即座に紐付くはずです。
  確認が必要なレコードが、5%あるのか1%位なのかは、やってみないとわかりませんが、
  これらの、人が確認する必要があるもののみ、各健康保険組合で作業を行うべきです。
  業務をデジタル化する際に、まずそれまでの現場で紙の資料をひっくりかえして、データーの入力から
  はじめるプロジェクトは、必ず失敗します。1億3,000万のレコードを一気に扱えるのがデジタル化
  のメリットです。
  マイナ保険証には、医療機関で読み取り機が正常に稼働しないとか、主に高齢者で、自己負担割合が間違えて
  表示されるなどの問題があります。それらを列挙するだけでは、総点検としては不十分です。
  問題を原因別に分類して、どうゆう順番で解決していくかの方針の正当性を検証しなければなりません。
  政治家の人から、マイナ保険証を使ってみたら便利だったという発言がありました。マスコミも
  そのまま報道するだけで、なぜ便利だと思ったのか質問しないのが不思議です。私は不便だと思っています。
  初診料が少し安くなるので使えるところでは使いますが、毎回診察券とマイナンバーカードを持っていくのが
  不便です。健康保険証では確認は初診の時以外は月1回だけです。転職などで無効になった健康保険証
  を使うことで、結果的に健康保険組合が費用負担することになるのが問題ですが、解決手段として
  利用者が毎回マイナンバーカードを持って行くことが適当かどうかは検討すべきです。
  健康保険証を廃止することがデジタル化という発想ではなく、レセプトの請求を翌月10日締めではなく、
  コンビニが商品の動きを人の介入なしにリアルタイムで管理しているように、電子カルテと、電子処方箋の
  データーをもとにリアルタイムにレセプトの請求が行われるなど、医療業務全体を見渡して、
  業務のデジタル化の方針をたてる必要があります。毎回マイナンバーカードを持って行くことで本人確認を
  するとしたらリモート診療はどうやって行うのか、訪問診療の時に持っていく、ハンディータイプの読み取り機
  があるのかなどを想像して企画する力がないと、業務のデジタル化は出来ません。日本人はコンピューターの
  アーキテクチャーを考えられる人があまりいません。10年20年のスケールでハードウェアーの
  進歩を予想し、命令セット体系を考え、MPUを実現する組織的発想ができません。現場の力でそのうち
  業務の品質が向上するというアナログ的発想では、総点検が終わっても問題が無くなりません。
  
  1990年代に国税総合管理システムという大失敗したプロジェクトがありました。
  このシステムで使われるPCのテストに参加することになりました。暇で頼まれたことは何でもやる部門に居た
  からかもしれません。テストの中心は、PCで使われるTCP/IPの通信プロトコールとホストシステムで使われる
  専用の通信プロトコールを変換するソフトウェアーだったのですが、こちらは暇な部門のなかでは忙しい人たちが
  担当しました。それから数年経って、ホストシステムもTCP/IPの通信プロトコールを使うように
  なったので、このソフトウェアーは不要になりました。暇な部門のなかでも暇だった私は、
  分散データーベースのテストを行いました。ホストシステムの関連データーベースとそれぞれのPCで稼働する
  関連データーベースを連携して、情報を更新した時のコミットの操作を同期させるという壮大な構想のシステム
  だったのですが、ほとんど動きませんでした。単純なSELECT文を実行しただけで、自動販売機のコーヒー
  を買ってきて眺めているうちに結果が表示されるレベルで、普通テストを行って発見した問題を開発部門に
  報告するのですが、何が問題かわからないレベルでした。海外製のソフトウェアーでした。
  まだハードウェアーの性能も低く海外のデジタル化の状況もこの程度でした。その後コンピューター2,000年
  問題があり、暇な部門も忙しくなりました。再び暇になった頃に、総務省が主導する「e−Japan」という
  2005年までに世界最先端のIT国家になるというプロジェクトがありました。この時も一部のプロジェクトに
  一部かかわりましたが、中央省庁を退職した、プロジェクトリーダーの人の口癖が、
  「ITは金食い虫で、必要ない、無駄だ」でした。この人の人件費が一番無駄だと思いました。
  「ITは金食い虫」という発想だった人が、既存のプロジェクトの名前の前にDXをつけて予算を獲得する、
  「ITは金のなる木」という発想にかわっただけで、業務のやり方はアナログの時のままです。
  
  関連データーベースの連携ですが、2015年頃になって、Google Cloud Spanner
  Amazon Aurora、 MS Azure SQL DBなどの、世界的に物理的に分散したデーターベースを
  論理的にひとつのデーターベースとして管理し、情報の更新の同期もとるという製品が登場しました。
  日本ではこのような製品の開発の動きはありませんでしたが、国民性の違いを超えて、世界中の情報を収集・記録し、
  検索・分析・解析するというアメリカ人の執念を感じます。
  三重県で、豚熱の発生状況などをデジタル技術で分析し、感染の発生の防止につとめるというプロジェクトが
  進んでます。非常に良いことです。人間の感染症は、コロナ感染症の分類の変更にともない、
  デジタルシステムによる発生状況の管理をやめ、紙とFAXを使ったやり方にもどりましたが、
  人間の感染症対策も豚並にデジタル化して欲しいものです。日常使うアプリでも、日米で発想の違いを感じる
  ことがあります。デジカメが最初に実用化されたのは日本です。アルバムアプリも日本のメーカーが作りました。
  アルバムにイラストを追加するUIなどはすぐれたものがありましたが、関連データーベースが高価だったこともあって、
  ほとんどのアプリが保存できるアルバムの数にかなり制限がありました。スマホが出た頃から、
  米国製のアルバムアプリが登場しましたが、発想がまったく異なりました。クラウドに無制限に保存することが
  でき、同じ人が写った写真の検索などはAIで行いました。最初のうちはUIはイマイチでしたが、
  あらゆるデーターを保存するというアメリカ人の執念を感じる仕様でした。日米どちらの発想にも
  すぐれたところがありますが、行政のデジタル化にあたっては、永久に情報を収集・記録し、
  検索・分析・解析するというアメリカ人の執念を見習うべきところが多くあります。
  
  現在絶好調のNVIDIAは、もともとはグラフィックボードのメーカーでした。ATIも同じく
  グラフィックボードのメーカーでしたが、MPUのチップにグラフィックボードの機能が含まれるようになり、
  AMDに買収されました。NVIDIAは、ゲーム用PCのグラフィックボードの開発などに特化しましたが、
  インテルに買収されるかもしれないという報道もありました。その頃、GPUがグラフィックの処理だけでなく
  計算処理にも仕様できる、特にAIのニュラルネットワークなどの計算に有効だという論文がNVIDIA
  から出ました。私はほとんど注目しませんでした。私の予測は基本的にハズレますが、
  日本の大学で、NVIDIAのTesla(カードの名前です。電気自動車のテスラではありません)
  を使ってAIの研究をしていた研究者の人でも、今日のNVIDIAの姿を予想した人は
  ほとんど居なかったと思います。ITの分野は10年ほどの期間で状況が一変します。
  ウクライナも、今ではIT産業の発展が著しいですが、大きく発展したのは、クリミア侵攻があった頃からです。
  ミサイル防衛のためのレーダーシステムはイージスのような多機能レーダーなどを見ても非常に高価で、
  大量に装備することはできません。市街地に打ち込まれるミサイルは、音響センサーを町中に多数配備して、
  飛来してくる音を聞き分けて、警報を出しています。街なかの騒音と区分して認識する必要があり、
  AIシステムの学習のための各種のミサイルの飛来音の学習データーを集めるのが大変だったそうです。
  
  Transformerなどの説明には、たいてい縦・横の線が交差したノードの図がでてきます。私は、
  その図を見ると、白い部分がセルに見えてきます。台風の進路予想などに使われる有限要素法でも、
  似たような図がでてきますが、その場合は白い部分の微小なセルのなかでは、偏微分方程式を
  線形の微分方程式として扱うことができるという特性を利用して方程式を解きます。
  ニューラル・ネットワークも、重み関数でノード間の関係を計算するだけでなく、線形の微分方程式のような
  もう少し複雑な式でセルの計算を行うと新しい解法が見つかるかもしれません。
  一方微小なセルといいますが、気象庁のスーパーコンピューターでも、1km四方のセルとか、
  割と大きなセルです。線上降水帯のシミュレーションでは、山の形などを正確に入力するには、
  もっと小さなセルのほうが良いでしょうが、計算式はもっと単純なものにするかわりに、
  GPTのような、1兆個以上のノードにしたり、Attentionの機構で離れた場所にも
  強い影響を与えるようなパラメーターを探すと、新しい解法が見つかるかもしれません。
  中国の恒大集団の経営危機について、しばしば報道されるのは、債務の返済期限を守ることが出来るかどうかと、
  企業業績の損失の額です。建設中のマンションの工事が止まっているという画像もありますが、
  全体的にどのような状況かの報道がありません。私が注目しているのは、建設中のマンションの
  貸借対照表の額が、全資産40兆円から50兆円のなかの半分を占めていることです。
  日本の会計基準なら固定資産の建設仮勘定に計上する項目です。中国の会計基準では、流動資産の
  未販売資産に計上されているようですが、JR東海の中央リニア新幹線の建設仮勘定の額が
  全資産額9兆円のうちの1兆7,000億円であることからも全資産額の半額というのは大きな額です。
  しかもJR東海の場合は、中央リニア新幹線長期借入金3兆億円を別勘定の信託で管理していますから、
  借金取りは来ません。自転車操業といいますが、建設中のマンションの工事・販売がよろけながらも
  進んでいるのか、止まっているのかが、0、1を分ける程重要な事項です。もし止まっているのなら、
  経営破綻は避けられないので、ハードランディングでも早く着地させないと、再度飛び上がることができません。
  
  Googleで”Attention is All You Need”の論文を書いた8人の
  人はプロジェクトがファンディング出来なかったこともあってすべてGoogleを去ってスタートアップなどを
  起業しています。何が将来有望な技術かを見抜くのはアメリカの企業でもなかなか難しいです。
  生成AIでは、東京大学で、Weblabという大規模言語モデルが公開されるなど、日本でも
  従来にない早い立ち上がりが見られます。このような話題になる研究や、それ以外の短期間で結果が
  期待できるもの以外も幅広く研究費を投入するする必要があります。
  
  コロナ感染症の際にデジタル敗戦と言われましたが、失われた30年では、デジタル敗戦は、
  家電業界やDRAMメモリーなど一部の業界では大きく影響を受けましたが、それが社会全体に及ぶほどでは
  ありませんでした。しかし、最近10年ほどで世界のデジタル化は社会全体に大きく浸透しました。
  これからの第2のデジタル敗戦は、影響が社会全体に及び、先進国のシステムを導入する
  開発途上国にも追い越されるかもしれない広範囲な敗戦になります。
  従来のアナログ的な手法にこだわることなく、デジタル社会に適した業務の進め方を身に着けて、
  なんとしても第2のデジタル敗戦を防がなければなりません。