各種のコラム --  3ー114 マイナンバー制度のメリットは何だ?!

                                      2023年8月7日  

    3ー114 マイナンバー制度のメリットは何だ?! 
    
  8月4日の午後に岸田総理のマイナンバー制度とマイナ保険証に関する説明がありました。
  それ以前からマイナ保険証のデーターのひも付けのミスを中心としてマスコミで話題になっていました。
  そのなかで、「行政のデジタル化のゴールは何か?」「抜本的にどうなるのか?生活がどう変わるかのメリット?」
  「マイナンバー制度のメリットは何か?」というコメントに注目していました。
  その上で、岸田総理の説明を聞きましたが、「マイナンバー制度のメリットは何だ?!」ということに対して、
  何ら具体的な説明がありませんでした。わたしの聞く力の問題かもしれませんが、
  その後のマスコミのニュースを聞いても解決しません。
  
  マイナンバー制度のメリットを話題にする時、マイナ保険証のデーターのひも付けのミスなどの問題が解決していることが
  大前提になります。公共交通機関を利用する時を考えればわかりますが、どんなに便利なシステムでも、時々、
  人身事故が起きるというシステムは利用しません。
  まず、マイナ保険証のデーターのひも付けのミスについて考えてみます。
  
  15年位前、消えた年金が大問題になりました。
  それぞれの公的年金制度ごとに異なる番号で管理していた年金記録を基礎年金番号に統合した際に、
  様々な理由により古い番号のままで残っていた記録が原因でした。
  このうち「退職後、結婚し姓が変わった」、「いろいろな名前の読み方がある」、「転職のたびに年金手帳が発行された」
  に該当する事例が全体の約9割を占めているということが、日本年金機構のホームページに記載されています。
  
  今回、各種の健康保険者制度ごとに異なる番号で管理していたものを、マイナンバーに統合するにあたり、
  マイナンバーカードの提出がなかった人については、名前、読みがな、生年月日、住所の条件で、
  J−LIS(地方公共団体情報システム機構)に問い合わせて、被保険者資格情報とマイナンバーを紐付ければ、
  「結婚し姓が変わった」、「いろいろな名前の読み方がある」「いろいろな住所の記述方法がある」などの理由で、
  ひも付けの人為的なミスが発生することは、作業をはじめる前からわかっていた事です。
  
  そもそもの作業の方針にミスがあったのなら、その時点にもどって改めなければ、方針のミスの結果として
  生じた人為的なミスを問題にしても、総点検をしても問題は解決しません。
  
  どのようにすれば良かったかというと、健康保険証は毎年など定期的に更新しているので、
  ICチップ付きの保険証にして、保険者番号と被保険者資格情報の番号を記入します。
  そして、在来線から新幹線への乗り換え改札口のように、
  ICチップ付きの健康保険証とマイナンバーカードを所有者自身が同時に重ねて読ませてひも付けを行えば
  問題は起きませんでした。番号と番号を登録することで、
  「いろいろな名前の読み方がある」「いろいろな住所の記述方法がある」などの問題が起きません。
  公金受取口座の登録も、キャッシュカードとマイナンバーカードを所有者自身が同時に重ねて読ませてひも付けを行うべきでした。
  市町村の住民課の窓口に乗り換え改札口を設置するということではなく、イメージの話ですが、
  カードの所有者自身がいつどこでひも付けたかを記憶しているということが重要です。
    
  健康保険証とマイナンバーカー付けの総点検についても、どのような方針でおこなうのかが不明です。
  アナログ的発想で、すべてのひも付けを見直しても、時間がかかるだけで無駄な作業です。
  マイナポータルにログインすれば、最新の健康保険証情報が確認できます。
  つまり、J−LIS(地方公共団体情報システム機構)のシステムには、
  保険者番号と被保険者資格情報の番号とマイナンバーのひも付けの情報が記録されているということです。
  マイナンバーから見て、被保険者資格情報の番号がひとつだけひも付いているもの、ひも付いていないもの、
  複数がひも付いているもの、逆に、被保険者資格情報の番号から見て、マイナンバーが
  ひとつだけひも付いているもの、ひも付いていないもの、複数がひも付いているもののリストを作ることは、
  一日で、プログラムが完成した後なら分単位の作業時間内で可能です。
  そして、ひも付いていないものと、複数がひも付いているものにはミスがあり、
  どちらから見ても一対一にひも付いているものは、100%ではありませんが、正しくひも付けられている
  蓋然性が非常に高いということができます。一日でできる作業なので、もし完了していないのなら
  これから作業して、総点検の中間報告にミスのおそれがあるデーターの件数の数字を公開すべきです。
  この方法では、過去の被保険者資格情報の番号を含めると、マイナンバーから見て、複数の被保険者資格情報の番号がひも付く
  ことになるので、現在の被保険者資格情報の番号とマイナンバーとのひも付けしか確認できませんが、
  出来ることと出来ないことを峻別して、確実にできることから作業をすすめなければなりません。
  
  将来のことを考えて、転職の際や、高齢者医療制度の場合は、所得の変化で、負担割合の変化が頻繁に起きるので、
  現行の健康保険証を残して、保険者番号と被保険者資格情報の番号とマイナンバーのひも付けが正しく維持
  されることを確認しなければなりません。資格確認書という新しいものを導入して、問題を忘れようとする
  やり方が間違えてます。現行の制度で全体的には問題なく機能している健康保険証の制度を維持して、
  投薬の記録などをデジタルデーターで記録することを可能にするために、マイナンバーカード保険証を
  徐々に広めていくべきでした。その際、現行の健康保険証を管理しているシステムのレコードの番号と
  マイナンバーを管理するシステムのレコードの番号をひも付けるべきでした。
  
  マイナンバーカードを取得した人の7,000万人の正しいひも付けの情報は、行政をデジタル化するにあたり、
  非常に有効に利用できますが、1億3,000万人の情報がひも付けられていても、
  いくつ誤ったデーターが含まれているかの情報がなければ、行政をデジタル化するにあたり、利用するこどが出来ない
  無駄なデーターになります。
  
  マイナンバー制度のメリットは何かという観点で考えるならば、
  健康保険証のように現行のシステムが一応機能しているものから始めたというのが、
  そもそもの方針のミスと言えます。利用者の視点で考えてなかった、企画計画する人が、失敗なく
  成果を示したかったからかもしれません。
  地方自治体の住民課の仕事の品質は高く、便利なのですが、複数の自治体にまたがる手続きは不便です。
  引っ越しもその一例ですし、相続の手続きも皆が困っていることです。被相続人の一生にわたる戸籍謄本を
  取得して続柄から法定相続人を確定するのは大変な作業です。アナログ処理は、このように、
  広範囲の情報を集めて、ひとりの人間の観点で並べ直して、データーを整理するというのは苦手です。
  住民基本台帳は居住地の地方自治体が管理し、総務省が方針を決める、戸籍謄本は本籍地の地方自治体が管理し
  法務省が管理するというように、異なる視点から管理されているデーターを連携させて、
  情報処理をするというのは苦手です。しかし、相続の手続きは、財産分与の点からも、土地の所有権移転登記を
  確実におこなうという点からも、確実に行われなければなりません。
  このように、現状で問題がある手続きから、順次デジタル化して、簡単に迅速に行われるようにしていけば、
  行政のデジタル化のメリットを感じることができます。
  
  放送法の“政治的公平”を巡る問題で、当時の総務大臣に行われたレクチャーの内容が、記憶がなくて
  確認できないということがありました。健康保険証とマイナンバーカー付けの総点検についても、
  データーがマイナポータルで一元的に管理されていることで、ひも付けのミスの件数の数字が明らかに
  なるのがまずいと考えているのなら、ひも付けの作業の方針のミスだけではなく、総務省がマイナンバー制度
  を管理し、戸籍は法務省が管理し、土地の所有は国土交通省が管理するという、行政組織自体に
  そもそもの問題があります。コロナ感染症のワクチン接種の推進のために、VRSというシステムがつくられました。
  データーの読み取りに問題がありましたが、季節性インフルエンザのワクチン接種のように
  クリニックに電話して予約するのに比べれば便利なシステムでした。
  しかし、コロナ感染症の無料のワクチン接種が終了にむかう現在、VRSシステムが他の予防接種の予約に
  使われているということはありません。一般会計の予算の制度の問題かもしれませんが、
  行政のデジタル化を考える時、それなりに実績のあるシステムは再利用するということを考えないと
  いくらお金があっても足りません。
  
  どのような人や組織がデジタル化に適しているかと言うと、どんなメモ書きも落書きも、国立公文書管理局に保存したり、
  ガラクタではないかと思うものも、歴史の記録として、スミソニアン博物館に展示するような人です。
  日本の政治、行政機関がアメリカが世界一で日本は二番目を目指すという、高度成長時代の考え方を
  維持していることが、そもそもの間違いかもしれません。「世界に一つだけの花」を目指さなければなりません。
  住民基本台帳と戸籍を維持しているという世界的にもユニークな仕組みを持っているので、
  これらとパスポートをどのように組み合わせるのが、もっとも生活にメリットがあるかという
  抜本的な課題も考える必要があります。考えているだけだと問題もでないかわりにメリットも実現しないので、
  一歩々々進めていく必要があります。行政や日本全体のデジタル化を進めるにあたり、RISC−Vなどの
  OSS(オープンソースソフトウェア)の利用を世界的に推進する活動を行う必要があります。
  OSSであれば、「世界に一つだけの花」を作った時に、仕様の公開が保証されているので、
  突然にクラウド・サーバーが使えなくなったり、バージョンアップが不可能になるなどの心配がありません。
  
  生成AIに関しては、日本でも各種の導入の動きがあります。インターネットやスマートフォーンの時と
  違い、立ち上がりが早いといわれてますが、検索サイトが、中国などを除けば世界的に
  Google一択になったように、チャット型の生成AIに限れば、世界的にサーバーは2〜3個という状態に
  なるような気がします。トランスフォーマーは大規模化することで、飛躍的に性能が良くなりましたが、
  今後も飛躍的に大規模化するのが良いかどうかはわかりません。生成AIの利用については、どのようなデーターに基づいて、
  学習するかなど、アプリ毎に考慮すべき点があります。列車が遅延した時の回復ダイヤの作成は、AIのほうが作業が早いので、
  利用が期待される分野です。現在、本線上の列車の位置は、ほとんどの路線で、運行管理センターで
  把握できます。しかし、車両基地の入出庫線に居る列車の情報は、同じシステムに入っていないことが多く、
  別のシステムの情報や、車両基地と連絡をとって、司令員の人が総合的に判断して回復ダイヤを作成しています。
  このままの方法をAIに学習させようとするとなかなか困難です。本線上の列車の位置も車両基地の入出庫線に居る列車の情報も
  統一されたフォーマットのデーターとして、AIシステムにリアルタイムで自動で入力される仕組みを
  作る必要があります。行政のデジタル化に際しても、各省庁が独自に管理しているデーターを
  利用者視点で見直して、どこにどのようなフォーマットで保存するのがよいかの検討から始める必要があります。
    
  「世界に一つだけの花」になりそうなもののひとつが、クルマの自動運転です。
  海外のシステムを日本に持ってきてもすぐには動きません。日本は左側通行です。カラスをドローンで追いかけて
  耕作地から追い払うシステムがありますが、AIシステムがカラスを見つけて追跡するようにするためには、
  人間がたくさんのいろいろな状態のカラスの写真を集めて学習させる必要がありました。
  同じように日本の信号や道路標識を自動運転のシステムに学習させる必要があります。20世紀に
  パソコンで日本語を表示するためには、特別のグラフィックボードが必要で、そのハードウェアーをサポート
  するOSが必要だった時のほうが、相対的には世界の中での日本のIT技術のレベルが高かったといわれる
  ことがあります。その後、フォントとメッセージを準備するだけで共通のハードウェアーが使えるようになり
  便利になりましたが、日本でのIT技術の開発は少なくなりました。
  とくに、アルファベット以外の言語を2バイトや3バイトで表現するNLS
  (National Language Support)の規格をほとんどアメリカが主導して
  作成したのは驚きでした。
  
  クルマの自動運転は、タクシー、バス、トラックなどを運転手が乗った状態か、運行管理センターで
  運行状況や車内の状況を監視する形で自動運転するものから始まりそうです。
  タクシーは地域によってはクルマはあっても運転手がいないという状態になっています。
  運行管理の技術を磨いて、5分以内に配車するとか、目的地への到着予想時間の平均誤差、1秒以内
  というのは、列車の運行管理にも通じるところがあり、日本人が得意そうな分野です。
  高齢者で、タクシーの運転が体力的にきびしい人でも、運行管理センターでの監視なら
  過去の運転手の経験を活かして10台の自動運転のタクシーの監視ができるかもしれません。
  
  高齢化社会で移動の自由を確保するのは大事な事です。需要の把握のために乗車はマイナンバーカードでの
  利用を基本とするということであれば、行政のデジタル化のメリットを体感できる項目の一つです。