列車ダイヤについて -- 3ー105 連結財務諸表について考える
2023年4月15日
3ー105 連結財務諸表について考える
3月決算の会社の営業成績が話題になる季節になりましたが、この際話題になる利益は、連結財務諸表に記載された、
「親会社株主に帰属する当期純利益」などです。連結財務諸表とは、複数の企業をあたかも単一の企業であるかのようにみなして、
財政状態や経営成績などを表示 する財務諸表のことをいいます。
連結財務諸表は以前から作成されていましたが、2000年3月期から証券取引法(現金融商品取引法)の
ディスクロージャー制度の見直しにともない重要視されるようになりました。
財務会計・財務報告の概念フレームワークの連結基礎概念の議論では、連結財務諸表の報告を、親会社概念に基づいて行うか、
経済的単一体概念に基づいて行うか、あるいは、「のれん」の扱いをどのようにするかなどが話題になります。
このような概念は、なかなか難解ですが(?)、連結財務諸表をどのように作成するかについて、
以前から疑問に思っていたことを話題にするのが今回のコラムです。
20年位前は、個別財務諸表を各社毎にまとめたエクセルのファイルをすべて集めて、それを集計して
連結財務諸表を作成していました。個別財務諸表を各社毎にまとめたエクセルのファイルをすべてまとめたものを、
連結パッケージと呼びます。2010年頃、連結パッケージを使って連結財務諸表を作成する研修に出席したことが
あります。まとめとして、3人ひと組で50チーム程が連結財務諸表を作成する正確性のコンテストがありました。私が
参加したチームはブービー賞でした。ブービーメーカーのチームは問題文を読み間違えて、
どの会社が親会社でどのような企業集団について連結財務諸表を作成するのかを勘違いして、子会社の財務諸表も
連結財務諸表もすべて間違えました。我々のチームは子会社の個別財務諸表と連結財務諸表の資本の値は正解
だったのですが、それ以外はほとんど間違えました。この研修に参加して、連結財務諸表の作成に難渋するのは、自分だけ
ではないという自信を深めました。(??)
最近は簿記の試験でも連結会計の比重が高まっています。しかし、業務でも、連結パッケージを使って連結財務諸表を作成する
という従来からのやり方をしている会社が意外と多くあります。
このやり方だと、企業集団のすべての会社の個別財務諸表の作成が完了してからでないと、連結財務諸表を
作成できないという問題があります。また、計算が得意な人でも、意外と連結財務諸について理解してないことがあります。
連結財務諸表の作成というと、投資と資本の相殺消去というのが定番ですが、新規に連結したわけではないのに、
去年と同じ投資と資本の相殺消去の仕訳をまたやらないといけないのはなぜかと質問すると、
仕訳の手順はわかっていて計算も正確な人でも、なぜその仕訳をするかがわかっていない人が結構います。
今年度の個別財務諸表には、昨年度の連結財務諸表を作成するために行った修正仕訳の内容は、反映されていないので、
もう一度同じ仕訳を行わないとならないのですが、そんな話はどうでもよいという人がわりと多くいます。
連結財務諸表は、仕組みだけを理解して、実際の計算はシステムでおこなう前提で、
もっとわかりやすいやり方があるのではないかというのが、1点目の論点です。
話を簡単にするために、株式を100%保有する完全子会社のみのケースについて考えますが、
新規連結は、親会社の貸借対照表と子会社の貸借対照表を合算し、それに子会社株式を現金預金で購入する
仕訳を加えます。それ以後の仕訳は、親会社・子会社のすべての仕訳のうち、親会社・子会社間など、
企業集団内の仕訳を除いてすべて合算して、連結財務諸表を作成します。
このやり方だと、新規連結の時点で、資本側に子会社株式が計上され、資本金の額も、各社の資本金を
合計したものになります。財務会計は、会計基準に基づいておこなわなければならないので、このやり方は
認められませんが、合理性がまったく無いかと言うと、そのようなことはないと思います。
子会社株式は、企業集団以外の他人との公正な取引で入手した資産で、将来売却することも可能なので、
相殺消去せず資産に計上するという考え方もあると思います。相殺消去とならんで、「のれん」の計上も定番ですが、
現在の工場に隣接する土地をどうしても入手したいから、時価より高い価額で土地を購入しても、
買い入れ価額で資産計上します。「のれん」は計上しません。子会社の経営成績が想定したほどでなくて
損失が見込まれる状態になったら、他の資産と同じように減損会計を適用すればよいと思います。
子会社株式を資産に計上すると、経済的実態が同一の吸収合併後の財務諸表との表示が異なるので、
自己株式のように、純資産の部の控除項目として計上するほうが良いかもしれません。
通常の仕訳は、各社のジャーナルテーブルと同じ仕訳のレコードを、発生した会社とセグメントの情報を
付け加えて、企業集団のジャーナルテーブルに新規レコードとして付け加えます。
仕訳は、間違えた時も、過去の仕訳を修正するのではなく、新規の修正仕訳を付け加えるので、
比較的容易に行うことができます。この方法なら、毎日リアルタイムに連結財務諸表を作成することもできます。
経営状況をリアルタイムに共有することのメリットは大きいと思います。完全子会社のみのケース以外では、
未実現利益の消去や、非支配株主持分の計算があるので、もう少し複雑になり、子会社の持ち分の一部売却を
どのように扱うかとかの論点もありますが、基本的考え方として、リアルタイムに自動的に
連結財務諸表を作成するメリットは大きいと思います。
帳簿はひとつで、連結財務諸表を作成するための仕訳は簿外でおこなうという考え方がありますが、
連結企業集団を一つの組織として会計帳簿をつくり、連結企業集団内の各企業の帳簿との同一性を保つことは、
現在のIT技術なら容易に行うことができます。
2点目の論点として、必ずしも資本関係にこだわらず、連結財務諸表と同じ考え方で
関連する集団について、財務諸表を作成してみると、いろいろな経済事象が明らかになると思います。
日本の国債を日本銀行が購入することに関して、問題だという人もいれば、日本銀行は子会社のようなものだから、
問題ないという人もいます。いろいろな機関の財務諸表をまとめてみると、異なった見方もできます。
政府が国債を発行します。それを市中取引で、日本銀行が購入します。
日本銀行の貸借対照表の資産の部に計上されます。同じ量の現金を発行するわけではありません。
貸借対照表を見ればわかりますが、マネタリーベース(市中の現金の額)は100兆円位です。500兆円位は
当座預金口座です。どちらも負債の部に計上されています。
当座預金口座は、市中銀行から見ると資産です。銀行はそのお金を誰から借りているかと言うと、
多くは銀行に普通預金口座をもっている人です。間をとばしてみると、銀行に普通預金口座をもっている人が
間接的に国債を購入していることになるかもしれません。元銀行員で、経済にくわしい政治家の人が、
預貯金から投資へシフトするといっています。このような事情が関係しているのかもしれません。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)が話題になっています。デジタル通貨になれば、ブロックチェーンの技術で、
通貨が誰から誰への取引が行われたかの履歴を簡単に得られるようになります。
各機関のデーターベースに記録された、仕訳の情報と、ブロックチェーンに記録された通貨の取引の履歴が
有機的に関連して参照できるようになると色々な会計現象が明らかになります。
現在でも、各社の財務諸表を集めて、売掛金の実在性・正確性の検証がおこなわれることがありますが、
実際問題として、資産の額と負債の額は一致しません。
売掛金について貸し倒れ引当金を計上するのは、正当な会計処理ですが、買掛金について、
踏み倒す予定だからといって、借り倒し引当金を計上したり、オフバランスすることは認められません。
各機関の、仕訳の情報と、ブロックチェーンに記録された通貨の取引の履歴が有機的に関連して参照できるようになれば、
簡単な処理で財務諸表に計上された評価額が正しいかどうかの検証ができます。
各駅の時刻表を見ても、全体の列車の動きはわかりませんが、ダイヤグラムでみると、全体の列車の動きが
一目瞭然です。
一見関係ないような会計事象を関連付けてみたいというのは、いろいろな人が考えることです。
たとえば、起業して法人を設立して事業活動をしている人のところに、税務調査があるとなると、
帳簿や納税申告書をみなおして整理する人がいます。
実際に調査に来た人が、想定外の家族構成や生活費の内容などを聞くことがあります。
これはすでに反面調査を終えていて、生活費の出所が、多額の遺産を引き継いだ資産であれば
このような質問はしませんが、法人の帳簿に書かれた、役員給与や法人の課税所得の額からして
支出不可能なほどの生活費の規模の場合にこのような質問をすることで、親戚などから
贈与を得ているのではないか、あるいは、法人に隠し所得があるのではないかと疑っているときに、
あえて、実態を話しそうな、生活費の内容などの質問を先に行うことがあります。
ビットコインなどの暗号資産は、一時期世界共通の通貨になると言われた時期がありましたが、そうはなっていません。
価値の変動が激しすぎて、投機の対象にはなっても、取引手段にはなっていません。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)なら、価値の変動は、現在の為替相場の変動と同程度になりそうなので、
海外貿易なども含めて、広く取引手段として使用され、取引の透明性の向上が期待できます。
ジョイントベンチャーで資本関係が存在する共同支配のばあい、連結財務諸表で持分法を適用するか、
比例連結を行うかの議論があります。
不動産、指名金銭債権など資産の流動化を目的とした特定目的会社などの特別目的会社を、連結財務諸表で
どのように扱うかも議論があります。
なかなか難解ですが(?)、一言で言うと、都合の悪いものに蓋をしようとする考え方との対立という
こともできます。(??)
現時点での企業集団の財政状況と、一年間の経営成績を正しく表示するというのは、意外と難しく、
仮に正しく表示していても、来年何が起きるかは誰にもわかりません。(???)
来年何が起きるかは誰にもわからない状況に変わりないとしても、企業集団に含まれる含まれないにかかわらず、
過去にさかのぼって、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の取引履歴が簡単に参照できるようになれば、
来年何が起きるかの予測もより正確になるかもしれません。
碁の打ち手を予測するAIは少なくとも初期のものは、現状と将来しか考慮していませんでした。
どのような経緯で現状にいたったかは、勝敗には関係しませんでした。
経済の状況の分析では、現状の財務諸表だけでなく、どのような取引履歴を経て現状にいたっているのかを
分析することは、将来の予測に有用です。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)の普及が、多くの企業の事業活動や財務報告に多大な影響を与える
時代になるかもしれません。
日本銀行は政府の子会社というように、行政機関を株式会社にたとえることがあります。
市長・県知事などの首長は、CEOで、取締役会は議会かもしれません。
首長は、すべての住民が直接選挙で立候補者のなかから選べますが、CEOや代表取締役は株主は直接は選べません。
取締役の選任は株主総会決議が必要です。株主総会は、株主であれば誰でも出席して意見を述べることができますが、
政治の機関で、株主総会のように住民が誰でも出席して意見を述べる仕組みはありません。
財務諸表のような書類で、行政の現状を確認するのも大切ですが、裁判員制度のように一般の人が、
議員の人と一緒に会議に出席し、意見を述べるような仕組みをとりいれると、行政に対する関心が
高まるかもしれません。
住民税などの地方税、地方交付税交付金、ふるさと納税など、個々の制度は話題になりますが、地方交付税交付金の
原資も国の税金か国債です。ふるさと納税は、所得税・住民税の寄附金控除で、返礼品を用意する業者の事業経営
とも関連します。
このような事象を、納税者の観点から整理して、どのくらいの税負担や保険料の負担があり、
どのくらいの行政サービスを受けているのかの額がわかれば、納得できる点や課題が明らかにになります。
経済の状態を、各自の観点や各世帯の観点で、リアルタイムに整理して明らかにするというのは、
DXの重要な項目になると思います。