列車ダイヤについて --  3ー103 規制緩和は是か?非か?

                                      2023年4月1日  

    3ー103 規制緩和は是か?非か?
    
  実質賃金がなかなかあがらないのは、規制緩和により非正規の労働者が増えたからだというように、
  規制緩和が悪いことだという指摘があります。
  人材派遣は1986年の「労働者派遣法」の施行から始まり、業種が拡大され、2004年からは、
  製造業にも拡大され、リーマンショックの際には、雇い止めが問題になりました。
  
  一方で、イノベーションのためには今でもさらなる規制緩和が必要だという人もいます。
  規制緩和は是か?非か?、それとも是々非々で対応するのが良いのか、考えてみようというのが今回のコラムです。
  
  どちらかというと規制緩和に賛成というのが私の意見ですが、規制緩和のやり方は十分に検討する必要があります。
  
  およそ20年前の、小泉政権の時代、骨太の方針のなかで医療・介護分野の規制緩和策がとられました。
  外国人介護福祉士の就労規制の緩和などがありましたが、 骨太の方針が財政健全化の一歩として
  新規国債発行を30兆円以下に抑制する、ということだったために、介護分野での公費支出が抑制され、
  介護の質が下がっていろいろ問題となりました。規制緩和のやり方に十分検討する必要と考えられる、
  典型的な例だと思います。医療・介護分野の規制緩和なら、どんなに困難でも、医師の規制緩和を
  避けてはいけなかったと思います。もし、外国人医師の就労規制の緩和をおこなっていたら、その後の
  展開が変わったと思います。外国人医師が日本で仕事できるかというと、素人なのでわかりませんが、
  意外と出来るかもしれません。カルテは、外国語のような日本語のような言葉で書いてますし、
  診察は、医師と看護師のペアでおこなっているところが多いので、医師は、完全な日本語は話せなくても、
  看護師に対して、医療分野のコミュニケーションが可能なレベルなら、仕事ができそうな気がします。
  そして、医師の数が増えていて、介護施設に常駐で働く医師が多くいるような状況なら、コロナ禍で
  クラスターが発生した時の状況は大きく変わったと思います。
  骨太の方針というと財政健全化が取り上げられますが、経済再生と財政健全化は同時ではなくて、
  経済再生が先で、それによって企業活動が活発になって、税収が増えることで、財政健全化が達成されると
  繰り返し言われていました。イノベーションを起こして、企業活動を活発にし、経済再生を達成するには、
  新規事業分野への参入など、規制緩和が必要となることがあります。
  医療・介護分野の規制緩和や、「労働者派遣法」の改正による非正規雇用の拡大も、自らが、短時間の
  非正規雇用を希望する人への雇用機会の拡大の側面もあったので、一方的に悪いことばかりとは言えません。
  個人の見解ですが、規制緩和の方向に動いた後、反対に分配重視を掲げる政権になって、政権交代が
  継続的に起きる世の中になれば、規制緩和にたいする考え方も変わります。民主党政権が大コケに
  ならなければ、現状も変わっていたので、規制緩和が悪いと言うより、20年以上同じような
  規制緩和が続いているのが悪いような気がします。
  
  物流の2024年問題が話題になりますが、その起原は、1990年に始まった、「貨物自動車運送事業法」の
  改正による規制緩和だと言われることがあります。免許制から許可制に変更され需給調整規制が原則的に廃止されました。
  それで事業者数が増えて過当競争になったのですが、実は、事業者数が増えたのは、
  基本的に一荷主の貨物をトラックに積載して、発地から着地に単純に輸送する形の一般貨物自動車運送事業に属する、
  トラック運送事業だけです。「路線便トラック」と呼ばれたりする、複数の荷主の貨物をトラックに混載して輸送し、
  方面別の仕分けのためにトラックターミナルを設置している形態の輸送で、集荷、発のターミナルでの仕分け、
  幹線輸送、着のターミナルでの仕分け、配送と複数の機能を有機的に結合する、特別積み合わせ運送を行う
  事業者の数はほとんど増えていません。規制緩和だけが悪いのではなく、業界の実情と、規制や規則が噛み合っていないのが
  問題です。
  
  免許制から許可制に変更されたのは、鉄道事業も同じで、2000年の、鉄道事業法の改正で変わりました。
  費用便益比1.0以上などの条件がつくのは、国の補助金を採択するための基準で、自己資本で参入する時は適用されません。
  しかし、その後、民間資本のみで、鉄道事業に参入した企業はありません。1990年代に第三セクターで開業した、
  千葉急行電鉄が経営破綻し、京成電鉄が経営を引き継いで京成千原線となったように、民間資本のみで、鉄道事業に参入しても、
  経営が成り立つ見込みはほとんどありません。規制緩和しても、基本的に何も変わらないこともあります。
  
  一方で、規制緩和して良かったという例もあります。
  それまでの、普通鉄道構造規則、新幹線鉄道構造規則などにかわり、2002年に、鉄道に関する技術上の基準を定める国土交通省令
  が施行されました。普通鉄道構造規則については、住田 正二さんの「役人につけるクスリ」に書かれているように、
  鉄道車両の車体は金属製にしなければならないなどが規定されていました。耐火性能の基準などを定めるのは
  合理性があるが、なぜ材料を特定する必要があるのか、むしろ新素材の使用を制限する悪い規定だと書かれています。
  こんな規則が無いと、車両をベニヤ板でつくるとでも思っているような役人の考え方を変えないと、
  新しい考え方は出てこないというのは、的を射た指摘で、現在の国土交通省令は合理的な説明があれば、
  従わなくてもかまいません。鉄道車両の車体を新素材のセルロースナノファイバーでつくれば、屋根全体が透明な
  車両をつくることも可能になります。鉄道車両の検査に関しても、国土交通省令に定める検査ではなく、
  会社毎に定めた規則で、検査を行うことが可能です。国土交通省令では、在来線の電車やディーゼルカーなどの車両は、
  8年毎120万キロ走行毎に、全般検査を行うことになっています。相当バラバラにして行う検査で例えば、古いディーゼルカーの
  全般検査では1,000万円位かかることもあります。新しい自家用車を買って、8年目にバラバラにして検査を
  行う人はほとんどいません。15年位は、定期的な点検を行っていれば利用可能です。
  同じように新しい電車なら、必ずしも8年目に、全般検査を行わなくてもかまわないのではないかということで、
  JR東日本のように独自の検査基準を適用している会社があります。JR東日本の新しい在来線の電車は、「新保全体系」を定め
  車両毎に、160万キロ走行、240万キロ走行、320万キロ走行毎などの基準で、車体保全の検査を行っています。
  法人税法上の電車の償却年数は13年なので、新車から13年間は、日常の点検のみにして、
  13年経った時点で、時代の変化や需要の変化に応じて、廃車にして新しい車両に取り替えるか、
  大幅な機器の更新をして、新しい技術を取り入れた車両として引き続き使うなどの判断をするようになりました。
  
  この考え方は、クルマの車検(継続検査)にも適用できそうです。
  1980年頃に、車検の期間を長くしようということで、ずいぶん議論があったそうですが、結局、
  乗用車の新車の車検の期間が3年になっただけで、それ以外は変わりませんでした。
  今、自動車整備士の人材不足が問題になっていますが、本当に2年毎に車検を行う必要があるのかは疑問です。
  クルマの状態をモニターするセンサーを活用して、CBM(Condition Based Maintenance)
  を導入するための規制緩和を本気で考えてみる必要があります。何処がかわったら改造になるのかの規定も
  見直して、ソフトウェアーの更新で、最新のクルマと同等の機能を持たせるようなアップデートに対応
  できる規定にする必要があります。
  
  鉄道の話に戻りますが、JR東日本が、通勤定期運賃の変更認可申請を行い、認められました。
  バリアフリー設備の設置のための値上げやオフ・ピーク通勤定期などの話ですが、運賃の変更を申請しました。
  グリーン料金や在来線の特急料金は、変更認可申請を行う必要はありませんが、鉄道事業法16条に定める、運賃を
  変更する時は、「鉄道運送事業者は、旅客の運賃及び国土交通省令で定める旅客の料金(以下「旅客運賃等」という。)の上限を定め、
  国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。」ということになります。
  鉄道運賃は法律で、変更しようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければならないということもありますが、
  現実的に鉄道の運賃とバスの運賃では事情が異なるということもあります。
  例えば、東京駅から、鹿島神宮駅に行く高速バスの運賃は、過去には、東京駅から、成田空港に行くバスの運賃より
  安かったです。東関東自動車道を走った人ならわかりますが、あまり合理的ではありません。
  途中下車のシステムがない、高速バスなら成り立ちますが、鉄道では、このような運賃制度はなりたちません。
  鉄道運賃で、遠くの距離が長い区間のほうが安いとか、有効期間が複数の日数の切符で、
  ダイナミック・プライシングを実施すると、制度が非常に複雑になって、ユーザーに分かりやすいシステムになりません。
  規制緩和は是か?非か?という一面的な議論ではなく、実態に即した議論が必要になります。
  
  2000年頃には、規制緩和とあわせて、司法試験や公認会計士試験の制度の変更も行われ、
  専門家のサービスを気楽に利用できるようにするといわれました。制度は変わりましたが、実態はあまり変わっていません。
  司法試験の制度変更や、法科大学院が設置されましたが、今でも地方で、気軽に弁護士に相談できる体制には
  なっていません。1990年代、バブルがはじけて、借入金が返済不能になった物件などが、売り出されました。
  海外の企業も買収に乗り出しましたが、まったく予想外だったのが、弁護士が来ると思って準備していたら、
  半社会勢力の人の脅しにあって撤退したという例がありました。そこで、海外勢も体制を立て直して、
  大規模資本で、10件のうち1件でも成功すれば利益がでるようなハイリスク・ハイリターンの体制で、
  ハゲタカ・ファンドなどの買収がありました。もし、1990年代に日本に気楽に相談できる弁護士が
  たくさんいて、海外勢が予想したような取引が行われていれば、もっと正常な海外資本が日本に投下
  されたかもしれません。
  
  現在、中小企業では原材料の価格高騰が製品価格に反映されないことが問題になります。
  そのなかには、承認が得られるかどうかは別にして、まず正式に要求しないと、製品価格の値上げは不可能という
  例もあります。日本の中小企業は、優秀で、少人数で他品種の製品を作っている工場もあります。
  その時、従業員の給与を上げようとしたら、どの製品の作業時間がいくらで、直接労務費が各製品の
  製品製造原価にどのように反映されるかのデーターが必要です。
  実際に部品を加工するより、製造装置の設定などのほうが費用がかかる場合もあります。
  製造間接費の按分や差異の分析も必要で、管理会計がしっかりおこなわれていることが、
  製品価格引き上げ要求の基本です。製品製造の技術はすばらしくても、銀行からお金を借りるための
  資金繰り表をつくる位で、管理会計のデーターを正確に蓄積しない状況では、経営は安定しません。
  海外の企業はどうかというと、例えば中南米の国で、見るからにいい加減(個人の感想です)な企業でも、
  意外と管理会計がしっかりしていることがあります。日本と比較して、公認会計士がたくさん居て、
  ほとんどの会社の経理には公認会計士が居るのが普通というような状況だと、
  管理会計のデーターを社内で分析して、製品製造原価や市場価格を分析して、
  どの製品をいくらでどこの会社に提案するのが良いかなどの計画を作っています。
  データーのもとになる仕訳が間違えていて、訂正したほうが良いのではないかと言ったことがありますが、
  「そのような出来もしないことを考えるより、目の前の課題を解決することのほうが重要」と言って、
  プレゼンテーションの練習をしていました。日本の会社の経理は、一般に仕訳や集計は正確なので、
  中南米の国のやり方を取り入れるのが良いというわけではありませんが、専門家の力を有効に
  活用するという面では参考にすべきところがあります。
  会計の分野では、日本公認会計士協会が公表する委員会報告書の扱いも、あまりはっきりしません。
  内容的には良いことや参考になることがたくさんあるのですが、法律や、規定ではありません。
  業務委託と受託では、委託側が立場が強いという立場からの意見が多いのですが、
  実際は、第三セクター鉄道が、JRに設備工事を委託したときのように、受託側が立場が強いことがあります。
  このような協会が公表する文書や、業界の自主規制を多くの企業が守るというのも、
  事態を複雑にすることがあります。中南米の国の人であれば、国によっても違うとは思いますが、
  自主規制などは無視して、法律ギリギリの手法を考え出すのが有能な経営者と考える人もいます。
  また、目の前の課題に対しては、同じ人とは思えない位、集中して、まるでサッカーのゲーム位
  本気になる人もいます。
  会計基準による財務諸表だけでなく、自社の経営状態をよりわかりやすく開示するために、
  Non−GAAP(Generally Accepted Accounting Principles)
  の経営成績を継続的に発表する企業もあります。それが、ステークホールダーへのわかりやすい
  説明になると判断して行うのは良いことです。法律的規制ではないけれど、同調圧力で
  自主的に規制に従うというようなやり方は見直す時のように思います。
  
  税理士試験についても同じようなことが言えます。
  国税庁のOBの人は税理士試験を受けなくても、税理士になることができるというのも、海外からみると
  不思議な制度です。一時、制度の変更や廃止が議論になったのですが、結局、
  試験点数の大幅な加点などで、実質的にほとんど変更はありませんでした。
  アメリカでは、所得税の申告納税をする一般の納税者は、IRS(内国歳入庁)の職員より、税務に
  関する知識は不足しています。しかし、手数料を払って、公認会計士のサービスを受けられるので、
  公平で対等な取引であると考えます。ですから、公認会計士は納税者に有利になるように申告書類を
  作らなければなりません。日本の制度では、税理士が国税庁のために働くのではないかという疑問をもっています。
  また、国税庁のOBの税理士を顧問税理士として契約すると、税務調査がほとんど入らないというのも、
  不正につながるのではないかという疑問をもっています。
  このような質問に対して、これは日本独特の制度だと答えるのは、良くないやり方です。
  何かの根拠をあげて、これがもっとも公平で優れた制度だと答えなければなりません。
  答えの内容しだいで、相手が納得するとは限りませんが、日本には日本のやり方があるというと、
  相手も、相手のやり方には干渉するなというので、何かの根拠をあげて、これが良いやり方だという
  議論をしなければなりません。
  
  スマホ1円販売のように、法律や規制と関係なく、誰が何のためにやっているのかよくわからない問題もあります。
  2019年10月施行の改正電気通信事業法で、通信料金と端末代金の「完全分離」を導入し、
  「通信料金収入を原資とする過度の端末代金の値引き等の誘引力に頼った競争慣行について2年を目途に根絶する」
  といわれているので、端末代金の値引きを強制するような規制はいっさいありません。逆に法律で、禁止されています。
  それにもかかわらず、他社からののりかえを中心に、端末代金の過剰な値引きが続いています。
  携帯電話事業の初期の段階では、最初の価格を下げて、とにかくシェアを広げたいというやり方に一定の
  効果がありました。しかし、現在のように成熟した段階では、他社の客をとりあって、わずかなシェア争い
  をするより、固定客に長く継続的にサービスを提供するほうが、利益につながります。
  誰かが黙っているだけで、利益をあげているのかもしれませんが、携帯電話会社と販売代理店と、
  端末の製造メーカーの関係が複雑で、全体としてどのように利益を最大化するかの、計画がないように見えます。
  法律や規制と関係なく、合理的な事業計画を立てることができてないように思えます。
    
  少子化対策も、効果があがらず失われた30年という状況です。
  出産育児一時金が増額されると、産婦人科の出産費用も増額されるという話を聞きます。
  このように、誰のための補助金かわからないようなことを小出しにするのが良くありません。
  保育所の待機児童問題も、完全に解消したわけではありません。仮定の話ですが、
  3年間は、両親とも育児休業が可能で、部門や会社を変わるかもしれないけれど、以前の
  キャリアや給与を継続する働き方ができるとしたら、保育所の利用方法が変わる可能性があります。 
  0歳児や1歳児から預けておけば、追い出されることはないので、早く預けようというのが
  なくなると、児童の人数は変わらなくても、3歳児や4歳児が中心になれば、保育士の負担が軽減されます。
  どこかに、待機児童問題を根本的に解決しないほうがお金がもうかる人が居るのではないかという
  疑いがわくほど、待機児童問題がいつまでも問題になります。
  
  協賛企業の拠出金を基に独自の「給付型奨学金基金」を設立し、所得制限なく全員の学費の無償化をめざす
  高専が開校しようとしています。学校を卒業して、就職してスタートラインについた時点で、
  多額の奨学金の返済義務があって、スタートラインの後ろからのスタートが問題になっていますが、
  このような思い切った対策をするところが増えてくると状況がかわります。
  
  小泉政権時代の規制緩和は弊害を生んでいるのは事実ですが、郵政民営化についても、選挙で賛否が問われました。
  防衛費の増額のようにいつの間にか突然決まったということではありません。
  規制緩和をやめるにせよ、さらに進めるにせよ、誰もが決定の経過がわかるような議論が必要だと思います。
  
  追伸)HPに記載のAndroidアプリ、TrainSchedule_NowとTrain_Diagram
  をアップデートし、品川駅や新横浜駅のホームの番線を修正しました。
  ところで、このアプリは、列車走行位置メニューを最初に追加リリースした時にホームで観察し、営業列車なら
  発車時刻の30秒前から、チャイムが鳴りはじめ、発車時刻にドアが締まり始め、安全確認のあと、発車時刻の8秒後に
  列車が動き出すようにプログラムしてあります。しかし、今年東京駅で観察した所変わっていました。
  
  12時33分15秒発の「ひかり643号」で説明します。
  発車時刻の33秒前(12時32分42秒)にチャイムがなり始めました。
  15秒前(12時33分00秒)に、ホーム・ドアが締まり始めました。
  ホーム・ドアに続いて列車のドアも締まり、12時33分15秒に列車が動き始めました。
  回送列車は、チャイムがならず、発車時刻に列車が動き始めました。
  また、到着についても変更になっているようです。
  今回のアプリの修正では対応しておりません。他の駅も観察して、来年のダイヤ改正までには対応いたします。
  
  他人には、直ちに迅速な対応を要求するのですが、自分はなかなか対応しないのが、僕の悪いクセです(??)